犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ぷちぷちの言語学

2022-11-11 23:51:16 | 言葉

 三重苦のヘレンケラーの自伝『奇跡の人』を、確か中学校の教科書で読んだ記憶があります。

 ヘレン・ケラーは1歳7か月のとき、高熱を出して視力・聴力を失いますが、6歳のときサリバン先生の指導を受けて、「ものにはすべて名前がある」ということに気づいたということです。

 ところが大学で、ソシュールの言語学の授業では、

「モノにはすべて名前がある」

というのは嘘で、実際は

「コトバがモノをつくるのだ」

という説明を受けました。

 虹は境目のないスペクトルなのに、日本語では7色と認識し、英語で6色と認識する。3色と認識する言語すらある。言語が認識を作るのだ、と。

 一方、言語学者の故千野栄一教授は、

「そういうことをいう人は、いつも虹の例を出すんだよね。でもね、モノを先に認識していてあとから名前をつけることだって、いくらでもあるよ」

とおっしゃっていました。

 似たようなことが、エッセイにも書かれています。

 われわれは案外気がつかないものだが、名前を呼べないものは意外に多いのである。その中には誰でもが知っていて、しかも、その呼び名を知らないものすらある。例えば、かん入りのビスケットを買ったとき、ビスケットがこわれないように入っている透明の薄いつめもので、空気の入った気泡が並んでいて、つぶすと気持ちのいい音のするものといえば、多くの人が知っているのに名前で呼んだことは一度もない…」(千野栄一『言語学の散歩』p.8、1975年大修館書店)

 私は子どものころ、かん入りの泉屋のクッキーをもらうのが楽しみでした。クッキーそのものはかたくてあまりおいしくないんですけど、「透明の薄いつめもの」をプチプチとつぶすのが楽しみだったのですね。

 いつも4歳年上の兄と、正確に2等分して、つぶしていました。

 今では100均ショップで安く売っていて、娘もメルカリで小物を売るときに愛用しています。

「これ、なんていうか知ってる?」

「えっ? プチプチじゃないの?」


 辞書(三省堂国語第8版)を引くと…。

 ありました。

ぷちぷち:①小さなつぶ状のもの〈がはじける/をつぶす〉音・ようす。②〔商標名〕気泡の入った包装用シート。気泡緩衝材。

 もとは商標名で、いまでは一般的な名詞として辞書にも載っていました。

 第6版(2008年)にはなく、第7版(2014年)に採録されたので、そのころに一般化したものと思われます。

 千野教授は2002年にお亡くなりになりましたから、最後までご存じなかったかもしれません。

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