犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

コロナ禍と技能実習生の悲劇

2021-01-17 23:41:08 | 大阪暮らし
 大阪にも緊急事態宣言が発出され、外食がはばかられる中、土曜日の昼間、小規模なホームパーティーをしました。

 話題は、やはりコロナ。

「最近、阪急京都線がよく止まるよね」

「御堂筋線も。人身事故が増えてますよね」


「コロナが原因かなあ」


 コロナの影響で失業したり、会社が倒産したりして、それを苦にした「コロナ自殺」が増えているという報道もあります。

「技能実習生たちも苦労してるでしょう?」

 Rさんは、私の元のインドネシア語の先生で、今は技能実習生受け入れ機関で働いています。

「今は、実習生は入国も帰国もできないです」

「緊急事態宣言の前は、入国できたんじゃない? ニュースでやってたよ」


「それ、ベトナム人の話でしょう。インドネシアからはだめです」


「帰国できない実習生は、延長ができるの?」


「できますよ。でも、受け入れ先の企業が業績悪化で雇用を延長しないという場合もあって…」


「じゃ、失業しちゃうの?」


「いや、別の企業に転職することもできるんですねけど、同じ業種じゃないといけないし、今の状況では募集する企業も少ないです」


「たいへんだね」


「奥さんが亡くなった実習生の話、したことありましたっけ?」


「どんな話?」


「私が担当しているインドネシア人なんですけど…」

 Rさんが話してくれたのは、ざっとこんな内容です。

 技能実習生として日本に来たその男性は、日本に来る直前に結婚していた。奥さんは来日中のご主人に会いたくて、日本に観光旅行に来た。ところが新型コロナ感染症が蔓延し、予定通りに帰国できなくなってしまった。そんななか、奥さんが妊娠。

 実は、奥さんにはもともと心臓病の持病があって、出産は難しいといわれていた。

 妊娠6か月のとき、奥さんが倒れ、救急車で病院に搬送。集中治療室に入り、人工心肺装置を使って懸命の治療したものの、1週間後に母子ともに亡くなった。奥さんはイスラムの習慣にしたがって、土葬された。

 悲劇はこれにとどまらない。奥さんは医療保険にも旅行傷害保険にも加入していなかったので、医療費は全額自己負担になる。病院からの請求はなんと800万円。払えるはずがない。

 Rさんにも相談があり、Rさんが病院側と話をしたが、どうにもならない。実習生は、妻子の死の悲しみに打ちひしがれ、請求額の巨額さに驚き、実習先の企業を休みがちに。企業側は、勤務状況を理由に契約解除を要求。だからといって、実習生はインドネシアに帰りたくもないし、コロナで帰ることもできない。

 そしてしばらくすると、実習先の寮から姿を消し、行方不明に。

「自殺するんじゃないかと心配してたんですが、2か月ぐらいしてから連絡がついたんですよ」

「で、病院への支払いは免除になったの?」


「それがだめなんです。今後、インドネシアに帰った後、少しずつでもいいから、払ってくれって」


「800万円って、インドネシアではどのぐらいの価値なの?」


「平均月収が3万円だから、だいたい20年分の収入かな」


「じゃとうてい返せないね」


「それが、1回の返済額はいくらでもいいらしいんです。1万円ずつでも、100円ずつでも」


「気が遠くなる話だね」


 きっと、この実習生はジャパニーズドリームを胸に秘めて来日、結婚もして、幸せいっぱいだったのでしょう。それが一転、奥さんと子どもを失い、そのあとには借金の山…

 私の娘もまた、留学先のフィリピンでコロナ禍に見舞われ、彼氏の家に幽閉、その間に妊娠しましたが、運よく日本に帰国ができ、日本で結婚手続きの後、出産。新郎は日本に来ることができず、いまだ赤ちゃんとリアルに対面できていないというものの、インドネシア人実習生の悲劇と比べると、まさに天と地の違いがあります。

 件の実習生には、絶望することなく、なんとか人生を再出発してほしいものです。
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