まだ書きます。9月2日の生涯スポーツ大会。
幅跳びとやり投げが終わって、体は上から下まで刺激を入れつくしました。
スタンドに戻ると、渋谷区リレーチーム第一走のK林さん、第二走のU田さんと合流し、
すぐにコールへ向かいます。
コールは渋谷区陸協の重鎮K林さんにお任せ、私は後ろについているだけです。
楽チンさせていただきます。
アンカーなので、レーン番号5の腰ゼッケンをもらいます。ゴールの写真判定に使うため、
最後に走る私だけがつけるのです。
結局一度もバトン渡しの練習もしないまま、そこで受け渡しの手だけを確認して、
では、あとはゴールでとそれぞれのスタート地点へ分かれます。
バトンは右手→左手→右手→左手とわたっていきますし、受け取る手によって
レーンの内側に立つか外側に立つかも決まります。
そのあたりのランナーの常識が、年に一度の七夕リレーチームはうろ覚え。
若干の不安を残しながら、第三コーナー出口近くにある、アンカーのリレーゾーンへ向かいました。
その辺りに行くと、足立区・立川市・青梅市・千代田区・調布市・東久留米市のアンカーが
それぞれに準備を始めています。
背が高いだけで圧倒されますし、太ももあたりがプクンと膨らんだ人など見つけると、
ウェー、速そう・・いつもの通り弱気の虫が這い出てきますが、なんとかポーカーフェイスだけは
保って、腕振りやその場足ふみで筋肉を暖めていきます。
男子の前にバトンをつなぐ、女子渋谷チームのアンカーで、上品なことこの上ないSさんと
エールの交換。バトンゾーンはあの緑△マークの間でしたね、とこちらも七夕チームらしい
会話をしたりしながら、Sさんはバトンゾーンへ入っていく時間になります。
リレーは応援も楽しいのです。
走り出した女子チームは丁寧にバトンをつないでいます。
3走のHさんは、驚異のマラソンランナー、なのに100m!軽やかにアンカーにバトンを
運びます。目の前でのバトンリレーに、私も大声を上げてランナーの背中を押します。
前との差は少し、追いついて!
小さくなっていく影に祈り、100m先に誰が先についてのかはもうわかりません。
そして、男子のスタート。
このときのアンカーほど心細いものはありません。
号砲が鳴ったのに体を動かせない不思議な感覚。
私の代わりに1走のK林さんが走ってくれているような思いがどこかにあるのです。
バトンが渡ってくるのは39秒後。
近づいてくる、近づいてくる。
2走のU田さんへバトン。ストレートコースを、パワープッシュで走りぬきます。
ぐいぐい前へ出るのがわかります。2走はエース区間、頼もしい。
2位か3位か。
3走のH吉さんが走り出します。
体使い師のH吉さんはコーナー走の名手でもあります。
柔らかく、内側と外側の手足のリズムを微妙に換え、遠心力と戦います。
それにしても・・20分前に400mで自己ベストを出したランナーとは
思えない迫力で私のほうへ近づいてきます。
私の視線もロックオン、加速して大きくなる姿に、どのタイミングで背を向けるか。
神経を集中します。
勢いに負けてスタートが早すぎれば、バトンが届かないこともある。
といって魅入られるように待ちすぎれば、加速が出来ない状態でバトンを受けることになる。
H吉さんがスピードを乗せたままで、かつ私がスピードアップした時点でバトンを受け取ること。
それが20mのバトンゾーンで成立すること。
一瞬の判断。
ここだ!
待ち受けていた視線を180度方向転換、前へ、ゴールへ。
姿勢を低くして、右足の第一歩を強く、強くグイと踏み込みます。
同時に左の腿を自分の腹に強くひきつけ、素早く地面へと戻します。
5歩目に80%のスピードを感じたところで、迫るH吉さんの気配。
ジャストだ。
「はい」、後ろから掛け声がかかりる。
左手を高く伸ばして、出来るだけぶれないように。渡しやすいように。
手のひらに落ちるバトン。すぐに握力が反応して、ここからは
リレーの魂が本当に私のものになります。
引き受けた、ガッテンだ、ゴールに飛び込むのは俺だ。
内側の3レーンあたりのアンカーがほぼ同時に走り出したのは見えていました。
ただ、視線を前に転じた時点で相手の位置はもうわかりません。
さらに外側のチームはまったく様子も見えていません。
位置がわからない、それはつまり、先頭のグループにはいるということ。
バトンを受け取って数歩、すぐ直線に入ります。
4×100mリレーでは、ここで初めて、すべてのランナーの順位がはっきりします。
コーナーを抜けて先頭にいるチームが、その時点でもっともゴールに近いチーム。
そしておそらく、私の前に人影はありません。
バトンがずしりと手の中で重くなります。
その存在感を確かなものとして、腕振りを感じリズムを作ります。
やや体が力み、大きな動きよりも強い動きに全身が支配されます。
強く蹴る、地面をたたく。
返る反発をうけ、膝を抱え込み前へ素早く出す。
下半身の動きだけがリアルに脳にトレースされました。
ここで一息大きく吐ければ、よりダイナミックになり、
もっと加速が続いたかもしれませんが、今回は力づく。
後ろからの足音は近づいてくるようにも聞こえます。
ただ、はっきりはわかりません。
ゴールが見えてきますが、同時に出力が落ちるのも感じます。
このままスピードが落ちたら、この聞こえてくる足音はどこまで近づいてくるのか。
不安、あせり。
ますます力が入り、バトンは重くなり、でも、でも今日は体の幹が真っ直ぐに立っています。
フォームさえ保てれば、慣性の法則がこのスピードを維持してくれるでしょう。
動け動け、足、腕。
蹴れ足首、曲がれ膝。
そして、ゴール。
間違いなく最初に入りました。
スーッと、力がどこか遠くへ抜けていき、自分の足音が聞こえるくらいになって
走る自分から歩く自分に還ります。
第一レースでは一位になりました。
しかし、今回は2レースあって、タイムで順位が決まります。
本当の結果は、すぐに始まる次のレース結果を待たなければなりません。
ゴール付近に戻ってきた渋谷区チームのメンバーと握手をしながら
レースを見守ります。
ああ、速いな板橋区。トップだ。
でも・・52秒台、やった!渋谷チームは51秒92です。
スタンドに戻ると、また皆さんから拍手で迎えていただき、
もったいないばかりの祝福を受けます。
しかもしかも、男子は地区対抗ポイントで総合優勝したという知らせまで入りました。
後でわかったことですが、リレー前までは7ポイント東村山市の後塵を拝していました。
それがリレーで12ポイント獲得して、逆に5ポイント差でポイント一位になったのです。
なんとも嬉しい出来事の積み重ねがあった一日。
47歳最後の一日。
ああ面白かった。
ありがとうございます、渋谷区陸協の皆様。
チームメンバーに誘っていただけたことが嬉しくてなりません。
来年また、さらに体が動くように鍛錬してまいります。
日頃の、がんばりの、賜物ですね。嬉しいニュースです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
なんといいましょうか、童心に還ったような喜びです。