大阪国際女子マラソンで、福士加代子さんが2位(日本人一位)という世界陸上選考ラインに
残ったのを確かめて、休日のお散歩へ。
湯島天神です。
受験間近で大にぎわい。
合格大福餅もあったりして。
私も頭が良くなりますようにと手を合わせ、さてと向かったのが
没頭する黒い世界。
春日通りにさりげなく出た看板が入り口です。
ties(タイズ)さん。
ここから先は、小心者の私にはカメラのシャッターを切るどころか、
カメラを持っていることさえ悟られてはならぬと思わせる雰囲気の店内です。
全面ガラスの明るい入り口が、一歩進むごとに夜の旅籠へと遷る
ダークな照明。
落ち着いたチーク材系のカウンターと奥には二人用と四人用のテーブルがあり、
全部で15人が座れることになっています。
女性客が多いように見受けられますが、ジャズのかかる空間に
声高な人はいません。
カウンターの中には店主の坂爪氏が黙々と無駄の無い動きで立ち働く姿があり、
2人の女性スタッフが笑顔でサービスを担当しています。
一杯ごとに豆をひき、一杯ごとにネルドリップする坂爪氏。
寸分違わぬ位置に湯の放物線を落とすため、腰が入ったいいスタイルで立っています。
達人の姿は、どの世界でも美しいものです。
フランネルのシャツだなあ、と何気に気を紛らわせないと、
無言のコーヒーマジックに、口をつける前からくらくらしかねません。
注文したのは、オールドビーンズを使ったオリジナルブレンド。
20グラムと30グラムが選べるので、濃い方を注文しました。
10分ほど待って、静かにカウンターに置かれたのは、
厚めの陶器カップに入った、110ccの、トロリとした視覚感触のコーヒーでした。
照明に透かしてみると、少しワインの色合いが見えるような漆黒とでもいえばいいのかもしれません。
立ち上るコーヒー独特の、切っ先のうちに甘い蜜を潜めたような柔らかい刺激が鼻をくすぐります。
少しだけカップを傾け、舌の真上を外してコーヒーを口に流し入れました。
トロリとしているのは見立ての通りでした。
口の中でフワンフワンと回ります。
苦みと酸味と甘みが、質量の違いで順番に落ちてくるような味の展開が何とも面白いのです。
それはきっと、きれいにコーヒーの味がお湯に溶け込まされているからなのでしょう。
荒々しさとも表現できる雑味はひとしずくも無く、ひとえに豆が焙煎によって開放した味を
丹念に抽出した技術のなせる技なのだと想像しました。
こんな風に思いながら飲ませるところが、すでにコーヒー魔術にはまっています。
一生懸命本を読もうとしましたが、110ccのコーヒーが
ぬるくならず、また空気に触れて化学変化を起こさないうちに含み切るには
あまり時間をかけるわけにはまいりません。
また残念なことに、坂爪氏が自分で焼くという自慢のケーキも、夕方にはほとんど売り切れていたので、
飲み終われば、目を閉じて音楽に耳を向けるくらいの過ごし方で、席を立つことにしました。
一杯600円。
東京の手仕事としては、きっとぎりぎりのお値段でしょう。
良い魔法の時間を過ごせる場所を、また一つ見つけた日曜の夕方でした。
『TIES』
最寄り駅:本郷三丁目
徒歩5分 春日通り沿い
営業時間:11:00~18:30
休み:月曜 火曜