少し前になるが、身近なパリの風景を中心に描いたフランス人画家、モーリス・ユトリロの作品展を観に行った。
今回の展示作品は、日本初公開作品を集めたものとのことで、兼ねてから日本での人気が高いユトリロ。平日の昼間にもかかわらず、かなり混んでいた。
ユトリロは10代でアルコール中毒になった時に、リハビリで医師に勧められたのがきっかけで絵画を始めたのだが、その初期の作品を集めた “モンマニーの時代” の3枚の絵からスタート。
最初の治療を終えたあと暮らした、母方の祖母がいたところがモンマニーで、フランス北部にある町。
一般的に知られているユトリロの作品とは違い、油彩の絵の具が盛り盛りの、かなり重い印象の作品だった。
続く “白の時代” が後に傑作と評される作品を次々と描いた数年で、アルコール依存症だった頃。そしてユトリロと言えばモンマルトルと言えるほど、パリのモンマルトルの風景を独特の白を使って描いた。
ユトリロがこだわったその白は、モンマルトルの建物の外壁の漆喰。その材質を抽出するために、絵の具に石灰を混ぜたり、はたまた鳩の糞や朝食に食べた卵の殻などを混ぜたのだそうだ。
そんな “白の時代” の作品の中には、ユトリロが生涯通して何度も何度も描いたモンマルトルのシャンソニエ 「ラパン・アジル」 が2枚展示されていた。
ラパン・アジルの外壁には、まだあの “はねうさぎ” はないんだ・・・とか、自分のこの目で実際に見て歩いたことのある、モンマルトルの建物や通りを描いた作品を鑑賞するのはとっても楽しかった。
『ラパン・アジル、モンマルトル』(1914) 『バイアン通り、パリ』(1915頃)
今回の出展は、続く “色彩の時代” からの作品がほとんどだったのだが、“白の時代” の作品に比べるとやはり何かが違う。
ステキなのもたくさんあったのだが、気になったのが人物。題材はあくまでも風景や建物なのだが、通りを歩く人々を必要以上に描いていて、それがなんとも幼稚というかやたらとお尻の大きい婦人がたくさん歩いているのが多く、私はそれらの人物が絵を台無しにしていると感じた。多くの画家が描いている肖像画こそないが、ユトリロは人物を描いてはいけないとさえ思った。
また、“白の時代” から30年後に描かれたラパン・アジルはとっても雑な感じがしたし、同じく何度も描いているサクレ=クール寺院もなんだか子供っぽい感じだった。
他にも線が太すぎてバランスの悪いものや、色使いが多いものはぬり絵のようにベタベタしていて、逆にやたらと淡白すぎるものなど、だんだんと魅力が薄れていくのが目に見えて感じた。
後に初期の “白の時代” の作品が高く評価されるようになるのは、同じものを描いた作品を比べてみると明らかだった。
『パリ北部の城壁群』(1925) 『モンマルトルのサクレ=クール寺院』(1933)
とは言え、後期の作品の中にも “白の時代” を思わせるものもあり、そんな中でこの2点は特に気に入り、とても惹かれた。
『雪の通り、モンマルトル』(1936頃) 『サン=リュスティック通り、モンマルトル』(1948頃)
★『モーリス・ユトリロ展 -パリを愛した孤独な画家-』 は、新宿の損保ジャパン東郷青児美術館で7月4日(日)まで開催。割引券の付いたしおりが、紀伊国屋書店のレジ・カウンターに置いてあり、100円引き(大人900円)になる。
現在のラパン・アジル(2009)