最近、ギターの音よりもピアノ、特に生ピアノの音が中心の音楽が増えてきたような気がする。
“美メロ” とか “エモ” という言葉が氾濫し出した頃からだろうか・・・。
泣きのギター・メロ同様に、ピアノの美しい旋律はやはり心にぐっとくるものがある。
ここにまたひとつ、ピアノの美しい音色が響く音楽が、私のCDコレクションに仲間入りした。
Duke Special、北アイルランドBelfastのアーティストのデビュー・アルバム 『Songs From The Deep Forest』。
ちょこっと試聴した時のピアノの音と、ジャケが可愛かったので、聴いてみようと思い購入した。
それまでピアノの美しいサウンドを生み出すバンドと言えば、御大Ben Foldsを始め、Mae、Jack's Mannequin、The FrayなどUSのバンドが目立っていたので、このDuke Specialが北アイルランドと知って、少なからずとも意外な感じがした。
と言うのも、アイルランド(南)は緑豊かな美しい自然が溢れる国で、昔訪れたDublinの町は本当に美しかったが、私の中の北アイルランド、特にBelfastのイメージはやはりIRAのテロ行為の印象があまりにも強すぎて、Londonの地下鉄のBomb騒ぎやCovent Gardenの爆破を知っている私にとって、Belfastは恐ろしい町というイメージが未だに消えていなかったから・・・。
今では停戦して武装解除もされているので、きっと美しい平和な国に生まれ変わっているんだろうが、勝手に怖い町と決め付けていた町から生まれた美しい音楽。
そのギャップが、更に私を惹きつけたのかも知れない。
そしてもうひとつギャップが・・・。CDをトレイから取り出した時に飛び込んできた、透明トレイの下にあった写真。
それはそれはびっくりした! The Cureかと思った。Robert Smithがそこに居た。
まるでロバ・スミ!
M-1 「Wake Up Scarlett」 から流れてきた、力強いイントロ。歌に入ると優しいメロディが流れてきた。
そしてオーケストレーションをバックに展開する、まるで映画のクライマックスに流れてくるようなドラマティックなサビ。
このクマさんが指揮するジャケの秘密は、ココにあったのか・・・とひとり頷く。
Duke Specialオーケストラの幕開けにふさわしい、ダイナミックなアレンジの壮大な素晴らしい曲。
ガラッと変わって、M-2 「Everybody Wants A Little Something」 はとても軽快で楽しいメロディ。
間奏のホルンの音色が、ほっこりと温かく沁みてくる。
USのバンドの音と違うところは、どこか陰のある憂いがあって、軽快なリズムの曲の中にも、哀愁がそこはかとなく感じられる。
やはりそれは土地柄なのかも知れない。
オーケストラ曲は第一楽章~最終章で構成されているが、正にこのアルバムもそんな感じ。
M-6 「Portrait」 のジプシーっぽい曲は、まるでアイリッシュ・パブで演奏しているかのようで、M-7 「Last Night I Nearly Died」 と共に明るいメロディでアルバムの中盤を彩る。
ジャケの中にもクマさんのイラストが書かれていて、物語性を感じさせられる。
歌詞付きなのだが、それが曲順とは異なる順に載っているのが意味あり気なので、今度じっくり歌詞を解読してみようと思う。
最終章では、“これは、私の最後の日” と繰り返し歌い、希望と失望が歌われ、切なく幕を閉じる。
ストリングスやホーン・セクションをふんだんに取り入れたアレンジが、どの曲もドラマティックに色づけされ、完成度の高い楽曲が連なっている。
Qマガジンで “Sumptuous, symphonic pop anthems” (Sumptuous=豪華な) と評されたのも、十分に納得できる。
それにしても、こんな綺麗でセンチメンタルなサウンドを生み出すルックスには、とても見えない。まだ慣れない・・・。