Bunkamuraザ・ミュージアムは、好きな美術館のひとつ。こじんまりしているが、展示の仕方が見やすくて好きだ。
今回行ったのは、ストラスブール美術館所蔵の作品展。ストラスブールとはフランスの都市で、ドイツとの国境近くのアルザス地方にある。そして、その地方の10の市立美術館・博物館を総称してストラスブール美術館と呼ぶらしい。
ピカソの絵があるということで行ってみたのだが、展覧会のタイトルが示すとおり、いろいろな風景画がずらり。美しい風景画が多くて、癒された。
6つにテーマ分けされていて、最初のテーマは、遠近法で描いた作品が5点並ぶ 「窓からの風景」。会場にも実際に窓のようなセットを造り、雰囲気を出していた。
続いて 「人物のいる風景」。農民など、自然と一体化した人物を描いた作品が中心。ここにピカソがあったのだが、人物にしか興味のなかったピカソの好奇心の対象は、風景の中の人物だったそうだ。そう言われてみると、ピカソの描く風景だけの絵はないかも・・・。
でも、これを風景画と呼ぶのはちょっと無理があるような・・・・・。
パブロ・ピカソ 『闘牛布さばき』(1956)
ここでのお気に入りは2点。ひとつはアルザス地方の画家ルイ=フィリップ・カムの 『刈入れ』。もうひとつはこれ。優しい色使いの点描画で、農作業の合間に食事をしている老夫婦の穏やかな表情がゆったりとした気持ちにさせてくれる、ほのぼのとした作品だった。
モーリス・エリオ 『年老いた人々』(1892)
次は19世紀のヨーロッパの街の情景が並ぶ 「Ⅲ-都市の風景」。まるで絵葉書のような、風情のあるヨーロッパの街が描かれている。一度でもヨーロッパの古都を訪れたことがある人なら、きっとどこか懐かしい気分にさせられるだろう。
特に惹かれたのは、この2点。雰囲気ありすぎで、旅に出たい気分を掻き立てられた。
ジョージ・ジョーンズ 『ストラスブールのグーテンベルク広場』(1827) ロタール・フォン・ゼーバッハ 『雨の通り』(1895)
海や河、池を題材にした 「Ⅳ-水辺の風景」 では、明るく爽やかな色使いのものから、逆にダークで重い色使いのものまで、時間や場所や天候などによって様々な表情をする自然の様子を柔らかく描かれている絵が多かった。
コローの絵は、彼が描く特徴的なモコッとした木々と、時が止まったように静かな水面に浮かぶボートの構図がステキだった。
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー 『ヴィル=ダヴレーの池』(1860-63頃)
フリッツ・トーロフ 『ソンム河の古い工場、夕暮れ』(1886-87頃) イポリット・プラデル 『ガロンヌ河畔の風景』(制作年不詳)
更に、大自然の広大な情景が並ぶ 「Ⅴ-田園の風景」 へと続く。
中でも、空の面積が4分の3を占めるアンリ・ジュベールの羊の群れの絵に、とても惹かれた。果てしなく広がる大地と全てを包み込むかのような大空を見ていると、心の奥底から洗浄されて行くようなすっきり感があった。
コローの弟子であるアントワーヌ・シャントルイユの 『太陽が朝露を飲み干す』 は、彼が大自然の中に初めてイーゼルを立てて描いた作品なのだそう。
間もなく夜が明けるのを、ひっそりと息を潜めて待っているかのような森の様子が伺える。左下に、朝日を待とうと明るくなりつつある空をじっと見つめる鹿がいるのも印象深い。
アンリ・ジュベール 『ヴュー=フェレットの羊の群れ』(1883) アントワーヌ・シャントルイユ 『太陽が朝露を飲み干す』(制作年不詳)
このセクションには惹かれる作品が結構多く、ショップで売っていたポストカードの中にもネットでの画像にもなかったので作品自体は紹介できないが、同じタイトルでもアドルフ・キルスタインの 『雷雨』 は、雲の間からの黒い線がハッキリ描かれていて、いかにも雷雨と言った感じで、ジョルジュ・ミシェルの 『雷雨』 は、どんよりした雲が今にも動き出しそうで、似ているようで全く違うふたつの作品を見比べるのは、なかなか面白かった。
何度もイタリアを旅したというドイツの画家オスヴァルト・アッヘンバッハの 『古代ローマ遺跡のある風景』 では、突然降り出した雨に急ぎ足で行き来する人や、明るい空の方へ走って行く人々の姿が、とても躍動的に描かれていたのが印象的だった。
あとはこの2点もお気に入り。
ヨハン=フリードリヒ・ヘルムスドルフ 『キンツハイム城の眺め』(1830頃) ジョルジュ・ミシェル 『風車のある風景』(1820頃)
実は知らない画家の作品がほとんどだったが、それぞれの画家の目を通して描かれた様々な自然の風景に、すーっとした心地良い風を感じながら、安らかな気持ちで鑑賞することができた。