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アトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こす

2015-05-13 14:51:47 | ラジカル

アトピー性皮膚炎は皮膚の異常細菌巣が引き起こす
-黄色ブドウ球菌と皮膚炎の関係を解明・新たな治療戦略に期待-

慶應義塾大学医学部皮膚科学教室と米国National Institutes of Health の永尾圭介博士(元慶應義塾大学医学部専任講師)との研究グループは、アトピー性皮膚炎における皮膚炎が黄色ブドウ球菌などの異常細菌巣(注1)によって引き起こされることを、マウスを用いて解明した。アトピー性皮膚炎は小児から成人によく見られる疾患で、気管支喘息や食物アレルギーに発展し得ることから、一般的にはアレルギー性の疾患であると理解されています。しかし、皮膚
局所の炎症が起こる原因は現在まで解明されていなかった。一方、アトピー性皮膚炎患者の皮膚では黄色ブドウ球菌が多数存在していることは古くから知られていたが、これがどのようにアトピー性皮膚炎の病態に関わっているかは不明でした。今回本研究グループは、アトピー性皮膚炎のマウスを作成し、そこで見られる皮膚炎は黄色ブドウ球菌を含む異常細菌巣に起因していることを解明しました。これはアトピー性皮膚炎の理解を大きく前進させるばかりではなく、現在ステロイド剤で炎症抑制に頼っているアトピー性皮膚炎の治療法を大きく変える可能性があり、異常細菌巣を正常化させ、皮膚の炎症を沈静化させるための新しい治療戦略の開発を促す重要な基盤となることが期待されます。本研究成果は4 月21 日(米国東部時間)に米国科学雑誌「Immunity」電子版で発表された。

1.研究の背景
アトピー性皮膚炎は乾燥肌と慢性の皮膚炎を繰り返し、通常小児期に発症することの多い皮膚疾患で、気管支喘息、食物アレルギー、花粉症などのアレルギー疾患を合併し得ることから、トピー性皮膚炎そのものもアレルギー性の疾患であると考えられています。しかし、実際には生体が何に反応して皮膚炎を起こしているのかは不明で、原因となるアレルゲンはこれまでに特定されていません。血液検査ではダニやホコリに対する抗体が検出されることから、これらが原因であることも考えられていますが、それを支持する強い基礎および臨床的な証拠は存在しません。アレルギー疾患を引き起こすアトピー性皮膚炎は、何が原因になっているのかは今まで不明だった。
一方、アトピー性皮膚炎患者の皮膚から細菌培養を行うと、黄色ブドウ球菌が多数発育することが40 年以上も前から知られていました。皮膚で増えている黄色ブドウ球菌は炎症の原因なのか、それとも慢性炎症の結果なのかが長らく議論されてきました。近年、分子生物学的手法を用いたマイクロバイオーム研究(注2)では人間の皮膚表面には実に多種多様の細菌が住んでいることがわかってきました。しかし、アトピー性皮膚炎がひどくなった時には皮膚表面の細菌の種類は著しく減少し、その過半数が黄色ブドウ球菌によって占められることもわかりました。アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌は密接な関係にあることが明確ですが、適切な動物モデルが今まで存在しなかったため、その因果関係を証明することができなかった。
2.研究の概要
本研究では、ADAM17(注3)という酵素をマウスの皮膚から欠損させることで、アトピー性皮膚炎のADAM17 cKO マウスを作成した。ADAM17 cKO マウスは生後3週頃より乾燥肌を示し、6週頃から皮膚炎を発症します。同時に皮膚バリアの破綻を反映するTEWL(注4)と血清中の総IgE(注5)量が上昇し、総じてアトピー性皮膚炎と極めて類似した症状を示すマウスモデルを作成し得た。ADAM17 cKO マウスに皮膚細菌巣を培養すると、生後4週より黄色ブドウ球菌が大量に検出できることがわかりました。正常マウスと比較したマイクロバイオーム解析(注2)では生後2、3週間まで同一だった皮膚細菌巣は4週目からまずCorynebacterium mastitidis(C. mastitidis)(注6)の出現に続き黄色ブドウ球菌が出現し、C. mastitidis はCorynebacterium bovis(C.bovis)に置き換わり、最終的にはC. bovis と黄色ブドウ球菌が皮膚細菌巣を支配することがわかりました。よって、皮膚炎の発症と共に皮膚細菌巣は異常細菌巣へと劇的な変貌を遂げているといえます。
ADAM17 cKO マウスに離乳直後から、異常細菌巣に効く抗生物質2種類で持続的な抗菌治療を行ったところ、正常の皮膚細菌巣を保ち、皮膚炎を発症しませんでした。さらに、①離乳直後より
無治療で皮膚炎を発症していたが、10 週目で抗菌治療を開始した群(図1A)、②離乳直後より菌治療を行い、10 週目で抗菌治療を中止した群(図1B)に分け、症状の推移を観察しました。そうしたところ、①の群は抗菌治療によって皮膚細菌巣が正常化し、皮膚炎もほぼ治癒しました。一方、②の群はそれまで正常だった細菌巣は一気に黄色ブドウ球菌とC. bovis に置き換わり、激しい皮膚炎を発症しました。このマウスから分離された細菌らを抗菌治療にて一時的に皮膚炎が寛解していたADAM17 cKO マウスに接種したところ、黄色ブドウ球菌が最も強い皮膚の炎症を誘導しました。一方、C. bovis はIgE の上昇を来す免疫反応を誘導し、皮膚の細菌巣が病像を形成する上で異なる役割を果たしていることがわかりました。抗癌治療で使用されるEGFR(表皮発育因子受容体)阻害剤を服用中の患者では皮膚炎が起きることが知られています。この事実と、ADAM17 の下流にはEGFR が機能していることから、EGFR cKOマウスを作成しました。EGFR cKO マウスはADAM17 cKO マウス同様の皮膚症状を示し、その皮膚細菌巣のバランスも破綻していました。よって、細菌巣の破綻はEGFR シグナリングの異常に依存しているといえます(図2)。

3.研究意義・今後の展開
本研究でアトピー性皮膚炎マウスの皮膚炎は、偏った異常細菌巣によって起きることがわっかた。本研究の結果をもとに、細菌巣を正常化することのできる新しい治療法が積極的に開発され、現在ステロイド剤で炎症抑制に頼っているアトピー性皮膚炎の治療戦略を大きく変えることができるのではないかと考えられる。本研究では実験手法として抗生物質を使用していますが、この方法は腸内細菌への悪影響もあるため、臨床の現場でのアトピー性皮膚炎の治療法としては決して推奨できない(注7)。今後、抗生物質に頼らない正常な細菌巣を誘導する方法の検討が行われることを期待する。

4.特記事項
本研究は、主に以下の事業・研究領域・研究課題によって得られた。
■MEXT/JSPS 科研費 21689032,243902771
■厚生労働科学研究費補助金
(H22-免疫-一般-003(平成22-24 年度)、H25-難治等(免)-一般-001(平成25 年度))
■National Institutes of Health (NIH) NCI Intramural Research Programs
ZIA BC 011561: Principle Investigator: Keisuke Nagao
ZIA BC 010938: Principle Investigator: Heidi H. Kong
5.論文について
タイトル(和訳):“Dysbiosis and Staphyloccus aureus Colonization Drives Inflammation in
Atopic Dermatitis”(皮膚細菌巣バランスの破綻および黄色ブドウ球菌の定着がアトピー性皮膚
炎の炎症の原因となる)

著者名:小林哲郎、Martin Glatz、堀内圭輔、川崎洋、秋山治彦、Daniel H. Kaplan、
Heidi H. Kong、天谷雅行、永尾圭介
掲載誌:「Immunity」電子版
【用語解説】
(注1)異常細菌巣
私たちの腸には多数の腸内細菌が共存している。その多種多様な細菌社会をマイクロバイオータと言い、皮膚表面のマイクロバイオータの多様性は腸内をしのぐことがわかってきた。マイクロバイオータのバランスが破綻し、菌の多様性が失われた状態をディスバイオーシスと言う。本文ではディスバイオーシスを来している細菌種を異常細菌巣と呼んでいる。
(注2)マイクロバイオーム研究・マイクロバイオーム解析
今まではある臓器にて細菌を証明するためには細菌培養を行っていたが、実はほとんどの細菌は培養することができません。そこで、局所に存在する細菌由来遺伝子の配列を調べ、その種類を確認することで細菌巣の全貌(マイクロバイオータ)を把握する新しい分子生物学的な方法がマイクロバイオーム解析である。