2011年9月19日 バークレー研 http://newscenter.lbl.gov/news-releases/2011/09/15/electronic-bucket-brigade/
「バケツリレー」で強誘電体の光起電力が増強されることを解明。
次世代の超高出力太陽電池に応用期待
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図1 ビスマスフェライトの薄膜上に分極方向が逆になったドメインが縞模様状に形成されている。ドメインの幅は平均140nm。各ドメインは厚さ2nmのドメインウォールで隔てられている。光が当るとドメインウォールの片側に電子、反対側に正孔が集まり、ウォールと垂直方向に電流が流れる。ドメインからドメインへと余剰電子が蓄積されるにつれて、電圧が増加する ( Image courtesy of Lawrence Berkeley National Laboratory )
電力をより高い変換効率で生み出せるようになるからである。研究チームが開発したデバイスは、強誘電体であるビスマスフェライト(BFO)の薄膜を用いるもの。このBFO薄膜では、内部に電荷の偏りがある領域(ドメイン)が縞模様状に並んだ構造が数百μmの範囲で広がっており、それぞれのドメインの幅は50~300nm程度。各ドメインは、厚さが2nmしかない「ドメインウォール」で隔てられていて、隣り合うドメイン同士は分極方向が逆向きになっている。こうした広範囲にわたる非常に規則的なドメイン構造を持つBFO薄膜を観察することによって、BFOにかかる電場の位置や強さを精密に調べることができるようになったため、各ドメイン内部や、ドメイン相互間で何が起こっているのかを微視的に理解することができるようになったそうである「BFO薄膜に光を当てると、材料自体のバンドギャップ電圧よりも何倍も大きな非常に高い電圧が生じる」と研究チームのリーダー Joel Ager氏は説明します。「入射した光は、電子を自由な状態にし、電子と対をなす正孔を作り出します。そして、太陽電池におけるpn接合がないにもかかわらず、ドメインウォールに対して垂直方向に電流が流れ始めるんです」ドメインウォールと直角に流れる電流を計測するために、研究チームはBFO薄膜に白金電極を取り付けました。「電極間の距離を離せば離すほど、電流が越えなければならないドメインウォールの数は増え、電圧はより高くなるんです」とAger氏。この実験結果は、分極方向が逆になっているドメイン間のドメインウォールが、電圧増大のカギとなっていることを明確に示すものであり、BFOの詳細な電荷輸送モデルを構築する手がかりになった。ドメイン内で余剰電荷がどのように発生し、それが隣のドメインにどのように受け渡されるかを説明するBFOの電荷輸送モデルは、非常にシンプルで、意外なものだった。ドメインウォールの両側はそれぞれ正と負の電荷を帯びており、ここから電場が発生。電場の働きによって、電荷キャリアの分離が促されます。つまり、ウォールの一方の側には電子が集まり、正孔は反発。同じウォールの反対側には正孔が集まり、電子は反発するということです。太陽電池では、電子と正孔がすぐに再結合すると変換効率は低下しますが、BFO薄膜ではこのキャリアの再結合が起こり強誘電体に光を当てると非常に高い光起電力が生じることは半世紀ほど前から知られていたが、それがどのようなプロセスで起こるのかは、これまではっきり分かっていなかった。今回、米ローレンス・バークレー国立研究所では、独自開発の強誘電体デバイスを使って、この現象が起こる機構の精緻な解明に成功。将来的に、太陽電池の高効率化に応用できる可能性がある成果だとしている。太陽電池で現在よりも高い電圧を出せるなら、より多くの電力をより高い変換効率で生み出せるようになるからである。ドメイン同士の分極方向が逆向きになることによって、ドメインウォールに強力な電場が生じている。「それでもまだ、電子と正孔はペアになろうとして、相手を探します」とAger氏は言います。そこで何が起こるかというと、電子と正孔はドメインウォールから離れ、電場が弱くなるドメイン中央部に向かって、それぞれ移動していくのだといいます。正孔に対して電子が過剰になっているため、余剰電子は一つのドメインから次のドメインへと汲みだされます。それぞれの電子が汲みだされる方向は皆同じで、これは全体の電流によって決まります。「これは、バケツリレーのようなものです。電子のバケツがドメインからドメインへと受け渡されるわけです」とAger氏は言い、段階的に増加する電圧を「のこぎり歯状のポテンシャル」と表現します。「各ドメインから電荷の寄与が加わるにつれて、電圧は劇的に増加していきます」ただし、BFO自体は、太陽電池材料の有望な候補ではありません。BFOが反応するのは青色と近紫外の光だけであり、太陽光スペクトルの大部分は発電に利用できないためです。「もっと多くの波長の光を吸収できる材料が必要」とAger氏は言います。BFOが光に反応する効率(入射した光子に対する電荷キャリアの比率)はドメインウォール近傍で最大になります。そこでは、非常に高い電圧が生じる一方で、高い電流値は欠けています。高出力太陽電池を実現するには、高電圧と同時に高い電流値も必要なのです。とはいえ、のこぎり歯状ポテンシャルを持っていれば、どんな系であってもこの効果は起こると考えられ、おそらくそれ以外の形状であっても同様の効果は得られるはず、と研究チームは確信しているとのこと。そして、すでに新たな候補材料の探索を開始しています。強誘電体におけるバケツリレー型の光起電力効果と、現在の最高性能の太陽電池が持っている高い電流値と変換効率が合体することによって、次世代の超高出力太陽電池が生まれるかもしれません。