4.Si-FETのEDMR(Electrical Detection of Magnetic Resonance:電流検出ESR)
SiFETに高電圧パルスを引加するとシングルスピントラップが生成する。このとき、I-V曲線に図3aのようなRTS(random telegraph signal)が現れる。これはゼーマン分裂した2準位間のアトランダム遷移を意味する。また、図3aのc領域で45.1GHzのミリ波存在下、source/drain電流を磁場の関数としてプロットすると3bの信号が得られた。これはシングルスピンを電流の変化として検出した最初の例で、画期的である。g=2.01の信号は既知の信号データと合わない。やはりその理由は目下不明。シングルスピンの挙動は統計的平均のデータとは異なる真にローカルな情報を示す模様で、まだまだなぞが多い。
図3 SiFETと高圧パルスで生成したシングルスピントラップの模式図。a: I-V曲線。シングルスピン存在下では図のようなRTS(random telegraph signal)が現れる(T=1.3 K)。b:シングルスピンのESR信号を電流の変化で捕らえた初めての例。g=2.01で信号が現れているが従来のデータのどれとも合わない。
5.AFM-ESR(MRFM)
AFM(Atomic Force Microscopy)を利用したESR観測法はMRFM(Magnetic Resonance Force Microscopy)と呼ばれている。2004年、IBMが中心になり、長年の成果として、1K以下でのシングルスピンの観測に成功した(図4参照)。これは金と力の成果であろう。本装置の特徴は磁気共鳴に必要な磁場を、左右に振動するカンチレバー上に付着させたSm-Co系希土類磁石にある。この磁石の表面から距離の3乗に反比例して磁場が小さくなり、適当な位置、図ではお椀状のスライス(白色)部分で共鳴条件に合致する。コイルで2.96GHzのマイクロ波を照射しているので、100mT近くになると共鳴する。試料(赤色)はガンマ線照射したガラスで、孤立した不対電子(緑の矢印)が当スライスに入ると共鳴して、カンチレバーの振動数が変化し、レーザー光による干渉計に感知される。測定結果を図5に示す。
図4 AFMを利用したESR観測法(MRFM)。IBMのHPにはこの図を基本とする共鳴のアニメーションが公開されている。磁気共鳴を理解するうえでも、是非、一見に値する。
http://domino.research.ibm.com/comm/pr.nsf/pages/news.20040714_nanoscale.html
本装置により確かにシングルスピンが観測された。ただし、これがどのように量子コンピュータ開発と結びつくのか、将来が楽しみである。
図5 シングルスピンの共鳴を示す結果。 横軸は基準点からの距離をあらわし、縦軸はカンチレバーの振動数変化。スピンが反転すると、磁石とスピンとの引っ張り合う力が変化するため、振動数が変わる。
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