ビター☆チョコ

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あなたになら言える秘密のこと

2007-02-17 | 洋画【あ】行

ハンナ(サラ・ポーリー)は淡々と暮らしている。
無遅刻無欠席で4年も働いてる工場でも、人とのかかわりを避けているようだ。
そんなある日、ハンナは働きすぎを理由に、無理に1ヶ月の休暇をとらされることになった。
なんの当てもなく出かけた街で、ハンナは看護師の募集を知る。
ハンナの仕事は、海に浮かぶ海底油田掘削所で、事故のため怪我をしたジョゼフ(ティム・ロビンス)の看護をすることだった。

騒音のひどい工場で働く人々は、ヘッドフォンをつけて働いている。
ハンナだけはつけていない。
どうやら耳が不自由らしい。
補聴器をつけてはいるが、スイッチを切ってしまえば世間とのかかわりも切れてしまう。
ハンナは意図的にスイッチを切って、自分の存在すらも消してしまいたい様子だ。
ひとりで食べるお弁当は、来る日も来る日も米とチキンとりんご半分。
食べる楽しみすら、自分に許していないような寒々とした日常だ。
何もないがらんとした部屋に、それだけは豊富に積み重ねてあるアーモンドの香りのする石鹸。
その石鹸が、どうやらハンナの安らぎであるらしい。

休暇先で、ハンナの過去が少しずつ分かってくる。
火傷の患者を何人も世話をした経験がある看護師だったらしい。
油田の事故で一時的に視力を失ってるジョゼフは、
鋭い洞察力で
ハンナが何かを隠していることに気がつく。

海にポツンと浮かぶ油田の掘削所に暮らす人々は、
皆、どこかに傷を持っているようだ。
その気配や、ジョゼフとの何気ない会話がハンナの心をゆっくりとほぐしていく。
そしてジョゼフが、自分の秘密をハンナに打ち明けたとき
ハンナが長い間、鍵をかけていた自分をそっと開くのだ。

秘密。
その言葉には、どこか甘やかな響きがあるような気がしていた。
心の奥に密かに秘めてはいるけれど、
時々そっと取り出して確かめてみるもの。
でも、それは私が平坦な人生をあるいてきたからそんなイメージを持ってしまうのだろう。

ハンナの・・・・秘密というにはあまりにも重い過去。
心に鍵をかけただけではまだ不安で、自分ごと何重にも重い鎖で巻きつけて厳重に蓋をした過去。
かけた鍵の重さと共に自分自身も深い海の底に沈んでしまったような味気ない生活。
すべては、戦争がハンナを海の底に沈めてしまったのだ。

ここでも私は刃を突きつけられる。
1990年代はじめ、そういえばボスニアで内戦があった。
民族浄化という言葉がかすかに記憶に残っている。
ほんの少し前のことでも、もう私たちには遠い遠い過去のことなのだ。
でも、その内戦に巻き込まれて生き残った人々は、心と体に深い傷を持っているのだ。
傷だけではなく、生き残った自分を恥じてもいるのだということを知らされる。
その傷みは想像すら出来ないものだけど
悲惨な過去を語り継いでいこうにも、語ることすら出来ずにいる人々がいることを忘れてはいけないのだ。

戦争という名の下で
同じ人間に痛めつけられたのに、結局、その傷を癒してくれるのもまた同じ人間だ。

ジョゼフが大きな男の人でよかった。
ジョゼフにすっぽりと包み込まれたハンナに、もう鎖は巻きついていないように見えた。