映画『武士の家計簿』は、森田芳光監督により製作され、2010年の公開当時評判になったと記憶していますが、その原作の磯田道史著「武士の家計簿」(新潮選書、2003年発行)が面白そうだったので、購入し読んでみました。
著者の磯田道史さんは、1970年岡山市生まれで、慶応大学文学部博士課程修了、茨城大学准教授、静岡文化芸術大学教授を経て、現在、国際日本文化研究センター准教授。専門分野は日本史学。
(目 次)
はしがき 「金沢藩士猪山家文書」の発見
第一章 加賀百万石の算盤係
第二章 猪山家の経済状態
第三章 武士の子ども時代
第四章 葬儀、結婚、そして幕末の動乱へ
第五章 文明開化のなかの「士族」
第六章 猪山家の経済的選択
(概 要)
一般向けの新書ですが、興味深くて一気に読了しました。本書は、金沢藩士猪山家の家計簿に焦点をあて、江戸時代から明治・大正にかけて、武士・士族がどのような日常生活をおくったのかを描いたものです。約37年間にわたる家計簿などが残されていて、著者はそれを読み解き執筆しています。
(感 想)
猪山家は加賀藩の「御算用者(ごさんようもの)」で、会計のプロであるので、詳細な家計簿がつけられたようです。猪山家は例外的な出世を遂げますが、武士は世襲が基本ではあるものの算術が関わる職種は例外で、比較的身分にとらわれない人材登用がなされていたと記されいます。
幕末の当主の猪山成之は、兵站事務の腕を買われて、新政府にヘッドハンティングされ、後には日本海軍の会計担当になります。明治7年時点の年収は、現在に換算して3600万円で、これに対し官員になれなかった士族は年収150万円で、親戚の間でもすごい格差が出ています。
薩長派閥を中心とする新政府の役人は高給取りでしたが、その中に成之が入れたのは実務能力の発揮によってであり、明治維新を経て能力がより評価される時代になったことをうかがわせます。当時、猪山家では子の教育や資産投資について、将来的な観点から方針を立て、合理的なので感心しました。
ドラマとしても面白く映画化されたのもうなづけました。