1970年代も半ばに差し掛かると、電気仕掛けJAZZの圧力も弱まり、雌伏していたハード・バップのリバイバル機運が高まった。その象徴的な事例として、欧州で活動していたD・ゴードンがメジャー・レーベルのコロンビアから三顧の礼を以って迎い入れられ、1976年に録音したタイトル名もズバリ”HOMECOMING”だった。クリスもそうした流れにピッタリと嵌ったミュージシャンの一人だった。
この3枚、”CRISS CRAFT”(MUSE)、”SATURDAY MORNING”(XANADU)、”OUT OF NOWHERE”(MUSE)は全て前年の1975年に吹き込まれていて、当時、ジャズ喫茶でも随分、人気を博している。
MUSE盤2枚とXANADU盤の違いをザックリ言えばカヴァからのイメージ通りMUSE盤の「陽」とXANADU盤の「陰」で、前者は60年代後半にシュリッテンがプロデュースしたPRESTIGE盤とほぼ同じライン上にあり、一方、シュリッテン自身が興したレーベル、XANADU盤は、さすがに単なる延長線上ではなく、クリスのメランコリーな側面を深掘りしている。
好みの順で行けば”SATURDAY MORNING”、”OUT OF NOWHERE”、”CRISS CRAFT”です。
”SATURDAY MORNING”は”Angel Eyes”から始まるプログラミングも演奏も素晴らしくクリスのBEST1と思います。ただ、ハリスの朴訥なpが多弁なクリスのasに良くフィットしているけれど、クリス抜きのピアノ・トリオ曲は果たして必要だったのだろうか?ちょっと疑問が残ります。前後の曲の出来栄えを高める効果を狙ったシュリッテンの独特のセンスなのかな(笑)? 全曲、カルテットで、例えば”The Masquerade Is Over”でも入れてくれたら個人的に最高だったのですが。
”OUT OF NOWHERE”はF・ナバロの人気曲「ノスタルジア」の元ネタになるタイトル曲でゲイルズの強引なベース・ワークに乗り快楽的に吹き上げるプレイに惹き付けられ、コーカーがあのメロディを弾き出すと思わず一緒に口遊んでしまう。”Brother ・・・・・・・”の抑制されたエモーショナルな語りも聴きものです。”CRISS CRAFT”は曲によりクロフォードのgが単調になっている所が惜しい。
初来日が予定されていた1977年、クリスは目前になって謎のピストル自殺している。計画通り公演が開催されたならば、きっと記録にも記憶にも残るステージになっただろう。日本ではフュージョンを演らなくてもいい、と大いに喜んでいたそうです。他殺説が根強く残るワケですね。
”SATURDAY MORNING”のラスト・ナンバーはクリスの愛奏曲の一つである”Until The Real Thing Comes Along”(本当の事が解るまで)、意味深にして名演です。
なお、この3枚の後、クリスはIMPULSEにフュージョンぽい(未聴ですが)アルバムを2作、吹き込んでいる。いつの時代も「理想と現実」は悩ましい問題です。
死後、10年経った1987年に発掘されたイタリア・Bologneでのライブもの(1974年)。この頃、患っていた精神面でのトラブルを感じさせない。
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