Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

059-静かな開闢(前編)

2012-12-06 23:30:29 | 伝承軌道上の恋の歌

 突然それは現れた。スクランブル交差点の巨大スクリーンは突然、最新鋭のエアー・クリーナーのCMを中断し、ノイズの嵐が画面全体を覆った。次第にその嵐の中に像を結び、そこに一人の少女の顔が現れた。モノクロームに映るその姿は、白い病衣を来て、左目に眼帯をしていた。ノイズ混じりに微かな声がのっているが、しかしそれは誰かに伝わる言葉まで届かない。画面の向こうで少女は顔を歪ませ、悲壮な面持ちで何かを伝えようとしている。そして何かを叫ぼうとしたところで終わった。
 ただの数十秒。何事か起こったがしかし一体何なのかが分からずにただ皆それを眺めた。ただただ驚いているもの。怖がるもの。冷ややかに笑うもの。それより好奇心が勝っておもしろがってるもの。反応は様々だ。でも、ほんの僅かな時間に人々に響いた。聞こえない音で辺りに反響して、残像はいつまでも留まっていた。
 『ゆらぎ』。アノンならそう言っていたかも知れない。あの少女が誰だったのか?ヤエコという人もいたし、ヨミだという人もいた。後に宗教団体の配ったビラの少女とよく似ていると評判にになった。が、その真相が知られることはなかった。
 ミドリは細い路地の奥から覗き込むようにそれを目撃した。
「マキーナ…本物のマキーナだ…!」
 思わずカバンの肩掛けを握りしめてミドリは心の中で叫んだ。『良かった。生きてんたんだ…』ミドリはほっと胸をなでおろすと同じく
 すぐにアノンの口元が何か短いフレーズを繰り返しているのが分かった。『何だ?何を言ってる?』二度、三度、時々ノイズの嵐が画面を歪めながらもミドリはまばたき一つせずにひたすらスクリーンを凝視する。
「と、…も、マキ」
 だんだんとそれは音と音がつながりを持って意味を作っていく。
「…とりもどそう、マキーナを?そうだ。マキーナを取り戻そう。そうか…」
 一度、口に出してつぶやいてからミドリは辺りを眺めた。皆、そろって一瞬スクリーンを見上げていた。五秒、そして十秒、それからざわめきが起きはじめた。それがその少女が彼らの日常にヒビを入れて伝えた『ゆらぎ』だった。視覚化された『ゆらぎ』は、どこかでずっとここから彼らを眺めて、何かを予感させた。彼らのほとんどは慣性のついたそれまでの日常に戻っていくにしても。
 ミドリはすぐに携帯電話を取り出す。
「あ、俺、今の見た?マキーナだ、マキーナのオリジナルが生きてたんだよ。スフィア?いや、ここの話だよ。今ここで現実に起きたんだよ。で、マキーナ、いや、謎の女の子、…それも違うな…とにかく『オリジナル』が言ってたんだ、マキーナを取り戻すんだって。え?とにかく今から仕事休んででも来いよ!あの場所だ」

…つづき

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