Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

057-朽ちていくスフィア(後編)

2012-12-03 23:17:25 | 伝承軌道上の恋の歌

 ここに来るのは四人で集まったあの夜以来だった。暗闇に浮かび上がる壁の朽ちた廃墟のようなジャングルジムを見てアキラは思わず足をすくませた。
「ねえ、どうしても入らなきゃいけない?」
 アキラはあの時のモノを思い出してる。
「アノンの言っていた『ゆらぎ』。それがここにあったんだ」
「…わかった。でもすぐ戻るよ?アノンちゃんも心配だし」
「…ああ」僕はそう言って僕達は公園に足を踏み入れた。
「あそこにあったんだ。ここに文字のようなものが…」
 そう言って僕は緑色のペンキで塗られた鉄柵を示す。
「それをアノンは『ゆらぎ』と言っていた」
「シルシ君はどう思う?」
「…あれは多分、『マキ』が書いたものなんだ」
 そうだ。あの異国の文字。それはあの事故が起きるほんの少し前、研究所から逃げ出した少女マキが何かの証につけた刻印だったんだ。今ならそれが意味するところが分かる。書いてあったのは二人分の名前だ。ひとつはマキの本当の名前、それに彼女の大切に思っていた誰かだ。誰にも知られなかったあんな些細な証『ゆらぎ』がいつの間にかここまで大きな現象を作り出した。マキは今でも生きているんだ。もっと大きな意思の塊のようなものになって。それは大きい一つの存在で皆を支配していて、また、ほんの小さな欠片になって皆の中に偏在している…
 そしてそれを願う人が彼女の『まねび』を行った。イナギとヨミ。確かに二人は伝承の人物になろうとしている。ただ街中にある公園の片隅に書かれたただの刻印がまるで秘儀のように知り得たものだけに奇跡を起こしてる。アノンはそれを知っていた。いや、どこかでその働きを理解した。そして新たな模倣者を作り出さないために、むしろそれを予感したから『ゆらぎ』を確かめたかったんだ。
「…あった。これだ」
 僕はペンキの剥がれかけた表面に手をすべらしてそれを見つけた。初めの『ゆらぎ』は既に消されていた。そこに僕が見つけたのは『モノ』そして『トト』の名だった。それが意味するものはすでに僕達には明らかだ。
「二人でまた事故の再現をしようとしている…止めなきゃ…」僕はつぶやく。
 少なくともトトを見つけるわずかな手立てはできたという気持ちがどこかにあった。
「でもどうやって?」アキラが乞うように僕に言う。
「そうだな…マキはこの『ゆらぎ』を少なくともスクランブル交差点とここの二つに残した。誰にも知られることのなかった自分の存在をああいった形で誰かに伝えたかったんだろう。そして足跡をたどるようにそれが残されているとしたら…それでモノはマキーナ神話を上書きして自分達のものにしたがってる。なら、他の場所も同じようにするはずだ。そこに先回りして押さえることができれば…」
 淡い期待だけど、今はそれに頼る他ない。
「ねえ、シルシ君、このサインの前に書かれてたのって具体的にどんなの?」
「そうだな…こんな感じのだな」
 僕は携帯の画面に白いキャンバスを開いた。頭の片隅に眠る記憶を呼び出してそこに投影してみる。アノンと二度目に出会った時少し目にしただけなのに、自分でも不思議なほど再現ができた。
「…あったよ」全てを書き終わる前にアキラがつぶやいた。
「え?」
「同じのあったよ?」 

…つづき

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