Nの祝祭日

映画、読書などのメモ

幸せはシャンソニア劇場から

2017-06-30 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★幸せはシャンソニア劇場から
監督:クリストフ・バラティエ
2008/フランス

歌って踊って、ミュージカルのような映画でした。観ている方もすっかり幸福感で満たされますが、フランス物語はちょぴり苦味も残しています。パリの街並のあまりの美しさに、カメラはただものではないなと思いました。撮影者トム・スターンを調べてみると、2002年の『ブラッド・ワーク』以降、クリント・イーストウッド作品の撮影を手がけていました。もちろん、あの「グラン・トリノ」のカメラもやっています。キャスト、スタッフとなかなかのつわもの達が練りに練った作品です。ラインハルト・ワグナーの音楽が素敵です。舞台ミュージカル音楽として聞きたいと思いました。

ノラ・アルネゼデールは、体格の大きさを感じさせない可愛さがあるんです。歌がうまいというか透き通るような声で、聞き入ります。フランス映画の女優さんは、やはり歌がお上手です!

 


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サン・ジャックへの道

2017-06-30 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★サン・ジャックへの道
原題:Saint Jacques... La Mecque
監督:コリーヌ・セロー
2005/フランス

フランス映画らしい、見事なエスプリの効いた癒し系作品。
スクリーンからマイナスイオンがたっぷり。
俳優たちの見事なまでの演技。
シュールな幻想シーンもとても印象的。
人間というのはほんとに笑える生き物である。
無茶苦茶笑った。
フランス女性のグループがいたが笑い続けていた。

「サンティアゴ」はスペイン語で、フランス語では「サン•ジャック」というらしい。
中世の巡礼の道である。
自然と関わりを持って行くことで孤独が癒されていく様子がおもしろおかしく描かれ、映画を見ながら、一緒に心の旅をする。




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マイ・ブルーベリー・ナイツ

2017-06-29 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★マイ・ブルーベリー・ナイツ

ウォン・カーウァイの映像をたっぷり楽しんだ。超望遠、あるいはフィールドスコープで撮ったような映像と、心地よい揺らぎに酔いしれた。夜のレストランのシーンが多いので、昼光色系の灯りをたっぷり使った濃厚な映像。逆光をうまく利用した煙草の煙のシルエットは美しい。脱臭フィルターをかけているので臭わない。ロードムービィ的な物語展開は時間の動き、背景の広がりは空間の豊かさを感じさせてくれた。この映画は時空間の浮遊感を味わうもの。

これは癖になる。
映像がいつまでもまとわりつく。
疾走する電車のライト。
この効果絶大。

ノラ・ジョーンズの初々しさを引き出しているのは監督の手腕です。
人物の表情を超望遠を使ってアップで捉え、不思議な存在感を出している。

香港+フランス+アメリカすれば、無国籍なムービィ。


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バンテージポイント

2017-06-29 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★バンテージポイント
監督:ピート・トラヴィス
2008アメリカ

大統領狙撃の事実を8人(?)の視線を通してこれでもかぁこれでもかぁと繰り返し映像を流してくれる。変わるたびにフィルムが巻き戻され、めまぐるしく状況が変化する。いくつかの視点を変えてモザイク的に物語を構成する手法は、よりミステリアスによりサスペンスにそしてよりスリラーにさせるには効果的手法。それぞれの視点に重要なポイントを伏線として張られ、それを繋ぐように物語は進行する。

いま読んでいる、伊坂幸太郎さんの小説の手法とよくにているなぁと感じ、感覚の一部がシンクロ。

Sigourney Weaver (シガニー・ウィーヴァー)がTVプロデューサーとして登場し、映画が始まる。期待感アップだけど、物語への絡みはなし。ちょっと物足りない。

Forest Steven Whitaker(フォレスト・ウィテカー)はこの映画に多少なりとも落ち着きを与えている。鶴瓶さんににているね。

モザイク的にサスペンスが進行するが、テロリスト集団が明らかになると、しだいに追跡劇にかわる。スピード感溢れるカーアクションが続く。終わり方がどこか漫画的で、余韻が浸る事なく、見終えてしまった。


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悲しみが乾くまで

2017-06-28 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★悲しみが乾くまで
監督:スサンネ・ビア

ポスター、キャッチコピー、出演者、監督などをみて、「おお、おもしろい」「おお、みたい」と心が動けば、劇場へGO!この映画にはハリー・ベリー(Halle Berry)が出演している。「おお、みたい」。

バディは相変わらず美しく硬質なシルエット。プールで子どもを抱き上げ、水着をパシッとするところは、いいですね。表情アップのカメラワークで、視線の鋭さ、感情の強さを出してくれた。母親として、女として、感情むき出しのかなりナチュラルな演技に、僕としては好感度さらにアップ。

この映画で思っても見なかったというか、ベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)の渋い、存在感ある役者ぶりに、思わず最後まで魅せられた。知的で硬質的なハリーと、低堕落で軟派的なベニチオの好対照な存在がこの映画の魅力かな。この二人の関係は、映画では意識的に曖昧にされている。監督スサンネ・ビアの嗜好なのかもしれない。

邦名「悲しみが乾くまで」とは、誰の悲しみだろうか。男も女も子どももみなそれぞれに悲しみをひきずり生きている。悲しみは刻が癒してくれるというものではなく、それぞれが自らの力で乗り越えていくもの。互いに善意の力を信じながら。ラストの場面でそんなメッセージを受け取りました。

後でわかったことだが、テーマ曲はグスターボ・サンタオラヤ、今や引く手あまたの映画音楽の作曲家とのこと。

 


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ダージリン急行

2017-06-27 | chinema(欧米系映画)

映画を観た

★ダージリン急行
2007/アメリカ

茂木健一郎さんの「それでも脳はたくらむ」を読んでいた。たまたま「無菌状態というリスク」の項。インド訪問時、ホテルまでに行く車はずうとクラクションを鳴らし、信号はなく、人やオートバイが奔流のように流れている。香辛料のせいか空気の中に独特の臭いがある。あちこちに人が群れになって寝ころんでいる。茂木さんは「インドは好きになるか嫌いになるかどちらかである。」と書く。

映画は突然何の脈絡もなく、ナタリー・ポートマンがあれよあれよと大胆に脱ぎ始めた。というか脱がされた。そしてあれれと思っている間に、ショートストーリィは終わり本編へ。なにこれ?

インドはあらゆる色彩に満ち溢れている。放漫状態で、どの色に焦点を合わせていいのか混乱。そのカオス的雰囲気が映画全編に流れ、インドワールドに翻弄される。話はいくつもいくつも展開され、ロードムービー的にダージリン急行が走りゆく。 この映画制作のために作りかえられたというダージリン急行。ポップなアイテムをあちこち登場させ眼をたっぷり楽しませてくれた。彼らの持っていたオシャレなカバンがとても気になった。アジアの風景によく似合う。

音楽はかなり技あり?というか何でこうなるの?夜のたき火のシーンでは、な、な、なんとドッビシーが流れた。こんな使い方があるのかと新発見。ストーンズもドンドン。ラストに「おお、シャンゼリーゼ」。何でここで?と思ったがついでに口ずさんでしまった。 まったくのカオス状態で、心地よいノイズがいっぱい。乾いたゆるいイエローな雰囲気が心地よいものだった。

ラストでは、全てを捨て去り自由になる。
何で靴履いてないの?
何で荷物まで置き去りに。


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その名にちなんで

2017-06-26 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★その名にちなんで
原題:The Namesake
監督:ミーラー・ナーイル
2006年/アメリカ・インド

アジア人を主人公にしながら、人間のアイデンティティの問題を取り上げているので、興味が湧く。親は生まれてくる子に名前を付ける。子どものよりよい将来のために、愛をこめて夢をこめて名付けする。そこには親子の絆が隠されている。誰でもその物語を持っていることに気づかされる。

現代ニューヨークとインドの対比が面白い。高層ビルとタージマハールの美しい建物。違和感なく物語の映像として共存させているところが、監督ミーラー・ナーイルさんの繊細な感性のなせる技。父親アショケを演ずるイルファン・カーンさんの飄々とした演技にどこかインドらしい悠々とした時間を感じる。母親アシマを演ずるタブーさんのどっしりとした母性愛はこの映画にしっとりとした落ち着きを与えている。ゴーゴリー役のカル・ペンさんは将来有望のイケメン。坊主頭の姿は次に生かせそうな雰囲気が漂う。

名前。それ自身がもうドラマである。
それにしても監督の目にはアメリカという国はどのように映っているのだろうか。あまり好印象には描かれていないけど。

 


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ペネロピ

2017-06-21 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★ペネロピ
原題:PENELOPE
監督:マーク・パランスキー
2006イギリス/アメリカ

気軽に楽しむ「自分探しの映画」。
現代風おとぎ話といってもいい。

夜の街はとても幻想的で美しく、前を向いて生きる歓びに溢れている。
登場人物みなどこかおかしく優しい。
魔女までが、面倒見の良さをみせてくれる。
ポップ感覚な映像、ウイット溢れる会話。
小粋なイギリス映画である。


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フローズン・タイム

2017-06-20 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★フローズン・タイム
監督:ション・エリス

監督は、
フォトグラファーとして活躍しているション・エリス。
現実世界の瞬間を切り取るという写真家の発想から一歩進めて、
「もし、時間をフリーズさせたら、どんな物語と映像が生まれるか」。

さすが写真家である。
瞬間の映像の美しさをしっかり魅せてくれた。
モデルさんを使ってのヌードはお手の物。
スーパーの中でのあり得ないヌード幻想的風景にうっとり。
マネキンのような均整のとれたモデルさんをつかっているので、
まさにビジュアル雑誌さながらの世界。

「時間をフリーズさせる能力」は誰でも持っているものかもしれない。
その世界でより自由に遊び生きているのがアーティスト。
過去、現在、未来と繋がる時間もあれば、
現実と想像を行き来する時間もある。
時空を止めたり動かしたりと自由自在。
芸術家の発想は自由で遊び心いっぱい。

美大生のじっと見つめる目、
見つめられる女の目が美しい。
画家の目、写真家の目。
するどい視線を描いているのも写真家の視線でしょうか。
雪の降るラストのシーンが美しく、
とびっきりのラブストーリィになった。

子どもの頃「不思議な少年」という人気ドラマがあった。
いつもテレビにかじりついていた。


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THIS IS ENGLAND

2017-06-19 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★THIS IS ENGLAND

少年が海に向かって投げるのは、いわゆるUKのイギリス国旗ではなく、白地に十字マークのイングランド国旗である。このラストシーンが、未来に向け、一人の「大人の個人」として自立しようと決意する瞬間。そこで突然、映像は消える。見事な青春映画である。

80年代のイギリスといえば、ダイアナが週刊誌を賑やかにしてくれた時代と記憶する。そして、あの「鉄の女サッチャー」の時代であり、彼女が指揮した「フォークランド戦争」を思い出す。「紛争」というか、「戦争」というかはともかく、数ヶ月戦い、イギリスの勝利で終了したが、軍事力で勝っていたはずのイギリス側が思っていた以上に苦戦した。人的、物的被害も相当なものだった。 数年後、メキシコワールドカップ、マラドーナの活躍などで、アルゼンチンがイングランドに勝利し、アルゼンチンは狂乱乱舞した。いまでもあのはしゃぎぶりを思い出す、20年以上も前のことである。

映画は、80年代イギリスの一断面を見せてくれた。
不況と貧困の中で生きる青年たちの、はけ口を吐き出すような、あるいは吐き出しようのないような、やるせない物語。当時のファッションや、スカやレゲエ、そしてパンク、ニュー・ウェイブなど流行した音楽がBGMとして流れ、ある種のノスタルジーを感じさせるが、あの時代の閉塞的状況は、現代の若者にもどこか通じるような気がした。経済、政治状況が苦しくなると、保護主義が復活し、右翼勢力が勢いを増し、排他主義に陥る。ちょっとやばい。

パソコンも携帯もまだ日常化していないアナログ時代。
パンクのリズムと、アコースティックなメロディーが同居して、ちょっと可笑しいが、そんな時代もあったかと振り返ったが、パンクとスキンヘッドがくっつき、極右になると、不気味だ。そんな気まずい雰囲気の時代感を鮮やかにきりとって見せてくれた。


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アメイジング・グレイス

2017-06-19 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★アメイジング・グレイス

大変、高尚なお話である、
文部科学省推薦、東京都推薦。これでどれだけ高潔なお話かわかろうというもの。
《アメイジング・グレイス》に関わる物語、
しかもイギリスの18世紀の物語。
奴隷解放に奔走した男の話。
これだけでも一度は必見の要素はあると思った。
時代考証的な面に関して、非情に興味深かった。
イギリス映画であるというのが劇場に足を運ばせた一番の理由かも。
この手の物語はしっかり作ってくれる。
写真を見ているだけで愉しいでしょう。
これが映画だと思わせてくれる。

《アメイジング・グレイス》といえば、本田美奈子を思い出す。
彼女の必死な歌声には、空間を突き破るエネルギーがある。


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英国王のスピーチ

2017-06-18 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★英国王のスピーチ
原題:THE KING'S SPEECH
監督:トム・フーパー
脚本:デヴィッド・サイドラー
撮影:ダニー・コーエン
キャスト:コリン・ファース、 ジェフリー・ラッシュ、 ヘレナ・ボナム=カーター、 ガイ・ピアース、 他
2010/イギリス/オーストラリア

実話に基づく物語となれば、歴史の裏舞台を見ているようで、妙に感慨深いもの。演説上手なヒットラーを向こうに回して、国民を奮い立たせるスピーチをするところは感動ものでした。やはりイギリスだね。王室を題材にしてもウイット感覚が生きている。

第二次世界大戦前夜における、この国王のスピーチは素晴らしかった。内容は史実と照らし合わせて正確かどうかは分からないが、威厳ある言葉に唸ってしまった。低い調子ながらも強い意志を感じさせ、国民の団結を促すにふさわしいリズムだった。スクリーンの下に書き込まれる日本語の訳文がいい。まさに名文である。ラジオスピーチだからこそ生まれる威厳かもしれない。状況も内容も全く異なり、比較すること自体ふさわしくないが、映画の中の流れたスピーチリズムは、1945年の《玉音放送》を連想させた。人を扇動する政治家の激しいスピーチではなく、統合の象徴である王室や皇室の静かな威厳あるスピーチである。この場面だけを聴くだけでも価値がありそうな。コリン・ファースは好感の持てる人間らしいジョージ6世を演じてくれた。

王族と平民との友情物語は特にめずらしい話ではないが、やはりお国柄を反映してか、かなりフランクな関係である。ジェフリー・ラッシュ(ライオネル・ローグ)は、王様相手に、へつらうことなく、一人の人間としての人格に真摯向きあう姿勢が潔く、しかし節度はしっかり守られている。
助演男優賞ものではないですか。

幸せそうな家族の肖像。公務を離れれば、ごくごく普通の家族である。それが普通であり、それが人間の普通の姿である。ジョージ6世はあの性格で過酷な第二次世界大戦の中をキングとして君臨したことになる。子供たちは女の子。右の子がエリザベス2世となる。余談だが、エリザベス女王が京都に来られた時、京都円町辺りで、一行の車を沿道から見た。一瞬に走り去っていった記憶がある。


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エリザベス・ゴールデンエイジ

2017-06-17 | chinema(欧米系映画)

映画を観た。

★エリザベス・ゴールデンエイジ
監督:シェカール・カプール
キャスト:ケイト・ブランシェット、ジェフリー・ラッシュ
2007/イギリス

大英帝国の歴史物語となれば、それはもうゴージャスで、気高く、時に仰々しく、時に禁断の物語をちりばめ娯楽性を追求しながらも、イギリス国民を震いたたせ納得させるべく物語でなければなりません。おそらくその期待に充分こたえているのではないでしょうか。あまりのゴージャスな映像美にフィクション性が一層際立っています。しかし、人間というのは何と多くの人の命を奪い続ける営みをするのでしょうか。あらためて驚く。スペインの無敵艦隊を破った後、イギリスは長く世界に君臨することになります(始めの部分は1998年の前作を見ていないんで、物語の展開が解りにくかった。それともイギリス史をよく理解していないからでしょうか?)

ヨーロッパでの戦争は宗教戦争の側面を持っています。この映画でもその宗教戦争の一面もしっかり描いているところはさすがです。
エリザベスが白馬にまたがり、兵士を鼓舞するシーンはフランスのジャヌダルクを連想させる姿。このシーンが最高でしょう。

今のエリザベス女王が京都に来られたとき、京都円町辺りで、女王一行の車の列を見ました。ゆっくりとしたスピードで目の前を走り去りました。その後、いろんなスキャンダラスな出来事がありましたが、イギリス王室はかなりオープンであるという印象を持ちます。この映画でも、女王の人間的な葛藤に焦点を合わせ、生き抜く姿が描かれ、スピード感溢れるリアル表現になっていました。

でも見終えた後、さすが肩こりしましたね。
「人の脳は協調と裏切りを重ね進化する」。
人間の歴史です。


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世界地図の下書き

2017-06-09 | 

本を読んだ。

★世界地図の下書き
著者:朝井リョウ
出版社:集英社 (2013/7/5)

朝井さんの繊細な視点に惹かれて、小説は三冊目。
今回の物語は理想郷にはまりすぎたきらいがする。
子どもを奇麗に描きすぎる。

児童養護施設の子どもたちを描いている。というより、この施設に関わる大人の人々の希望と願いを、子どもの姿に託して描いていると言い換えたほうがいい。

インタビューを読むと、
施設の職員への取材は周到にやっているが、子どもへの取材、観察は敢えてしていないようだ。朝井さんは、《無責任な関わりを避けたい》ということだったと書いている。そのことの意味は痛いくらいよく解る。

朝井さんは、子どもたちの現実を見つめたが故に、作家として《希望と願い》を描かざるを得なかった。そうせざるをえなかったということだと思う。子どもの心の深い闇に、不遠慮に入り込むことをためらった。だからちょっと奇麗になりすぎた。
童話のような世界ではある。中学生や高校生はどのような読み方をするのだろうか。

 


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何者

2017-06-08 | 

本を読んだ。

★何者
著者:朝井 リョウ
出版社: 新潮社

直木賞(2012年下半期)作品である。
平成生まれの作家が何で直木賞?
映画化されたが観ていない。

就職活動に集中する学生群像物語ではあるが、
青春の臭いのまったくしない、閉塞感漂う、ある種、不気味な世界である。
《これが現代就活学生の日常実態》
といえば、それまでの話で、
《で、それがどうした?》

就活スタイルは時代とともに大きく変わってきたが
(パソコン、携帯等の時代になり、いっきに変わった。
持ってないとあるいは知らないと、就活そのものができない)
ひとり一人の学生にとって、その悩みと苦労は変わらない。
(何十年前の僕らの頃も変わらない)
若者は、常にいつも何者かになろうと悪戦苦闘する。

登場するのは就職活動する男女数人のみ。
まるで半径1キロメートルの範囲の中で蠢いているような閉塞感を感じた。
同年代の若者が、互いを意識し監視しているようにさえ思う不気味な日常。
面と向かっては素直な言葉を言えず、ツィッターの世界で自分の想いをつぶやく。
互いにツィッターを覗きながら、身近な生身の人間を瀬踏みをする。
《これは密室劇か?》
とさへ感じた。

以前に、朝井さんの《桐島、部活やめるってよ》を読んだが、
ある状況を設定し、そこに蠢く高校生の姿を観察描写した作品だった。
《箱庭の世界を作り上げ、その中で生息する人間を観察する》
瑞々しい観察力に驚いた。

人生経験を積み重ねることによって少しずつ世界が広くなり、
登場人物に多様性が出てくると、
彼の観察眼力を生かしたさらに面白い物語が期待できそうだ。


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