Nの祝祭日

映画、読書などのメモ

彼とわたしの漂流日記

2011-10-29 | chinema(アジア系映画)

 


★彼とわたしの漂流日記
原題:김씨표류기
監督:イ・ヘジュン
キャスト:チョン・ジェヨン、チョン・リョウォン、他
2009/韓国


笑ってはいられない切なさ。


純粋にフィクションだからこそ、
純粋に面白い物語が生まれる。
ありえない奇抜な偶然が重なり合いながら、
しだいに二人だけの濃密な物語世界が描かれていた。
そのありえないけれども、もしかして、、、、と思わせる物語リアリティ。
「希望」という切なるものを追いかけた
可笑しくも美しいお話。

 


ソウルの中心を流れる川・漢江(ハンガン)に
身を投げたものの死にきれず、パム島に漂着。
その島で驚異的なサバイバル能力を発揮するキム役には、
本作で第32回黄金撮影賞主演男優賞を受賞したチョン・ジェヨン。
漢江対岸のマンションで3年間にわたって
引きこもり生活を続けている女性にはチョン・リョウォンが演じる。

 


そして、極めつけのスパイスは、《訓練空襲》。
平和ボケした僕ら日本人にはちょっとびっくりなことだが、
今だ北との戦争状態である韓国事情が一瞬描かれる。
が、彼ら二人にはこの短い訓練時間が《希望の時間》になる。
《二人の絶望と二人の希望》が鮮やか。 


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岸田劉生展

2011-10-18 | 展覧会

 

 

★岸田劉生展
大阪市立美術館


劉生といえば、《麗子》。
したがって、《麗子がいっぱい》
生誕120周年記念 岸田劉生 展 Kishida Ryusei
2011年 9月17日(土)~11月23日
大阪市立美術館(天王寺公園内)Osaka City Museum of Fine Arts


大阪市立美術館は久しぶり。
来るたびに辺りの環境が綺麗になっているような気がする。


大阪市立美術館は久しぶり。
来るたびに辺りの環境が綺麗になっているような気がする。
劉生は、酒と放蕩で命を縮めています。
画風からは想像しにくいですが。
人生晩年の自画像はまるで《大黒天》のようにぶくぶく、
精神の腐りさえ自ら描いています。

 

大阪市立美術館は堂々とした風格。
美しい、綺麗と単純に想う容姿。


劉生は当時のいわゆる《外光派》の絵からスタート。
印象派、後期印象派、そして、時に、フォービズム的色彩の扱いが見られる作品を残している。
写生に徹しているし、学びの精神があるので、清新な感情が伝わり観ていて気持ちいい。
後の《劉生の絵》になる前の絵ではあるが、この時代の劉生の絵は好きだ。
見る眼と描く技術の確かさと骨太な精神を感じる。
《劉生の首刈り》として恐れられたが、
とにかく顔だけを描く人物画がたくさん展示されていた。
丁寧に顔に当たる光の階調を追いつつ、顔の塊と存在感を表現している。
絵の具で描くというより、絵の具を盛り上げくっつけ、塑像を作っているような。
遠くを見つめるような凛とした表情の絵が多い。 
これでもかーと自画像も描きまくっている。
尋常ならぬ量である。
必然と、自分の内面に深く入り込むような絵になる。

劉生の息づかいが伝わるような、
ドキリとするような絵を、
息をひそめながらまじまじと見つめた。
そんな中から、
特に、これはいいなぁ、ほしいなぁとため息をついたのを紹介してみる。

 

● 麗子肖像(麗子五歳之象)1918年 東京国立近代美術館 蔵
アルブレヒト・デューラーに心酔していたようだ。
描き方はもちろんのこと、手がデューラーそのもの。
写生に徹しているだけ、劉生の麗子に対する愛情が伝わる。

● 麗子裸像 1921年 個人蔵
上半身裸にされて、麗子さんはちょっと不機嫌そう。
その表情を的確に捉えている。
しかし、何処か、日本の仏像を連想させる、半跏思惟像あたり。
これは初めて見る《麗子像》。


● 静物(湯呑と茶碗と林檎三つ)1917年
大阪市立近代美術館建設準備室 蔵

存在を確認するかのように、執拗に描いている。
一瞬セザンヌの静物画を連想したが、方向性が違う。
林檎や陶器に対する愛情が伝わる。
三つの林檎は劉生一家3人を表しているとか。


● 支那服着たる妹照子之像 1921年  ひろしま美術館 蔵
この作品も劉生の愛情が伝わる作品。
妹だからこそ滲み出る《慈しみ》がジワリ。
支那服の描き方がとても美しい。


1923年(大正12年)9月1日、関東大地震。
どんな状況に陥ったのかわからない。
劉生一家は京都に避難。
そこで彼は研鑽するどころか、
祇園のお茶屋さん通いで酒と女(どの程度か?)に浸った生活をしている。
若いころはほとんど酒は飲めなかったようだが、京都では大酒飲みに変身。
この頃の自画像は顔はぶくぶく膨れて、大黒さんのような雰囲気。
多少鋭い目つきはしているが、内面の腐りと言うか、充実感の乏しい表情である。
とうとう骨董趣味にはまったようで、
京都時代の絵は相当に東洋的というべきかあるいは日本画的というべきか。
後世に《劉生の絵》として残したものとはかなり質が違うように思う。
しかし、道を踏み外していることなど微塵にも感じなかったようで、
そこが劉生の劉生たるところである。
彼は相当のナルシストだった。

最期は、大酒などの不摂生がたたり、山口で38歳の若さで亡くなっている。
絶筆と伝えられる作品は、酒宴の席で余興で描いたような屏風絵である。
《青木繁》の時も思ったが、画家のほんとに充実した輝く時間のなんと短いことかと。

 

 


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ローマ・サンタ・チェチーリア管弦楽団

2011-10-02 | 音楽

 

★ローマ・サンタ・チェチーリア管弦楽団
指揮:アントニオ・パッパーノ(音楽監督)
京都コンサートホール

ロッシーニ : 歌劇「ウィリアム・テル」 序曲
ヴェルディ:歌劇「アイーダ」序曲
ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
リムスキー=コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」

 

チェチーリア管の来日演奏プログラム。
指揮者のアントニオ・パッパーノさん。

 

オペラの国イタリア初にして最高のシンフォニー・オーケストラとして20世紀初頭に創設され、約100年の歴史を誇る名門、ローマ・サンタ・チェチーリア管弦楽団。2007年のパッパーノとのコンビで果たした来日公演では、その色彩豊かな響きに絶賛が寄せられました。欧米で人気ナンバーワン指揮者の一角をなすアントニオ・パッパーノとともに、オペラ序曲集と千夜一夜物語(アラビアンナイト)の「シェエラザード」を携え、京都初登場! (京都コンサートホールHPより)


はじめは、なんともっさりした音楽かと思ったが、進行するにつれ、大化け。
楽器の奏でる音の煌き、音楽の透明感、色彩をも感じさせるような響き。
これは《何だ?》と思っているうちに、
遠く彼方へ、持っていかれてしまいました。
あとは、ただただ、楽器の音色にしびれるだけ。
これだけ個性的だと、音楽が楽しい。

音楽を聞きながら感じるのは、演奏家の個性みたいなものでした。
一人ひとりが妙に独立しているんです。
これは一体いどうしたことでしょう。
指揮者のアントニオ・パッパーノはそれを楽しんでいるかのように、タクトを振る。
ビジュアル的にもたのしいコンサートでした。
彼らの演奏スタイルが、音楽をつくっているようにも感じました。
特に打楽器ティンパニーの叔父さんの演奏スタイルが魅力的。

 


こんな魅力的な「シェエラザード」は初めてです。
アナログ感、アコースティック感たっぷり。
(当然ですが、普段はCDで聴いていますので)
楽器の音色が、直に届いていました。
イタリアの音楽魂をみせられた、いや、聞かされた時間でした。
終演しても、会場の中にはしばらく興奮が残っていました。
楽団員が舞台から引き上げても
あちこちで拍手!
熱気がしばらく続きました。
初めての体験でした。


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