Nの祝祭日

映画、読書などのメモ

湖のほとりで

2009-01-12 | chinema(欧米系映画)

 

★湖のほとりで
原題:La Ragazza Del Lago
監督:アンドレア・モライヨーリ
出演:トニ・セルビッロ、バレリア・ゴリノ、オメロ・アントヌッティ、他
2007/イタリア

ポスターを見ていると、北欧のような印象を受けます.
正真正銘イタリア映画です。
柔らかな緑が辺り一帯を覆い、清涼感溢れる風景です。
静かな湖の小さな波と連なり、
裸で眠っているような女性の絵が大きく前面に張り出し、
インパクトある絵です。

 


湖のほとりで、白い美女が裸で横たわっている、
そのシーンはとても幻想的でした。
その場面を観ただけでも、劇場に足を運んだ価値がありました。
死体には青い服が裸体をかばうようにかぶせられ、
女は深い眠りについているような、
時に微笑んでいるような表情です。
山間の小さな村の不思議な殺人事件の始まりです。


連絡を受けた刑事が現場に着きさっそく現場検証です。
美しい風景と不可解な殺人事件に呆然として湖を眺めています。
この美しい現場には似合わないような二人の男の姿ですが、
後ろ姿からは男の悲哀が感じられ、
湖のほとりの裸婦もいいですが、
無骨な男姿もいいですね。

 


現場は小さな村ですから、
お互いが互いを知り尽くしているちょっと窮屈なコミュニティです。
被疑者らしき人物たちがいろいろ登場してきますが、
それぞれに訳あり。
捜査が進むうちに、それぞれの家族の抱える複雑な感情が淡々とあぶりだされ、
捜査ドラマというより、現代人の抱える人間ドラマの様相を呈しています。
いくつもの話がドキュメントのように重なり、
ちょっと油断すると、物語の展開に追いつけないくらい。
焦点を絞った整理をしてほしかったと思うくらいです。
しかし、
その多様性が、若い女の謎の死を複雑怪奇にさらに一層神秘なものにみせたのではないかと思いました。
脚本の妙です。

 

 

捜査にあたる刑事(トニ・セルヴィッロ)にも、
誰にも言えない深刻な秘密が。
妻(アンナ・ボナイウート)がいわゆる若年性認知症により入院生活をしています。
病院を訪ねると笑顔で迎えてくれますが、
夫である事がわかりません。
このことを娘に話が出来ず一人苦しみます。
人にはそれぞれに誰にも言えないような苦しい秘密がある。

 


殺された若い女の秘められた思いだけがが透明な美のように描かれていましたが、
彼女の想いについては多くは語られず、
真実は深い湖に沈んでいるようでした。


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スカイ・クロラThe Sky Crawlers

2009-01-11 | chinema(日本アニメ映画)

映画を観た。

 

 

★スカイ・クロラ
The Sky Crawlers
監督:押井 守
音楽:川井 憲次
声の出演:加藤浩次、テリー伊藤、菊地凛子、加瀬亮、谷原章介、他
2008/日本


原作「スカイ・クロラ」シリーズは、
地上の人間臭さやしがらみを嫌い、空を舞い、ただただ戦う瞬間に生を燃やす「キルドレ」たちの刹那感や焦燥感、そして爽快感が語られ、「生きる意味」を繰り返し繰り返し、謎のように問いかけている。地上での物語の説明はできるだけ簡潔にして、空での飛行戦に多くの文章を費やしている。

 

このメビウスの輪のような物語を、
監督押井さんは、1作目の「スカイ・クロラ」の物語をある程度忠実に追いかけながらも、かなり解り易く人間くさいドラマに仕上げた。誰でもが感情移入しやすい地上のドラマの部分を再編することによって、ちょっとメロドラマ風にしてしまった。脚本チームは行定勲さんチームである。

映画の物語展開はかなり原作を追いかけているが、ドラマの再編にあたっての方向は「人間臭さ」という情緒面の強化である。そのためのいくつかの作戦が実施された。

1・整備士の笹倉を女性にしたこと。これは意味がある。キルドレを見守る母性愛を演出し、情緒の強化。
2・主題の「愛と生と死」というコピーを全面に押し出し、メロドラマ仕立てにしてしまった。その結果、地上の物語の鬱具合が増した。原作とは逆の方向に向った。
3・カンナミ:加瀬亮、クサナギ:菊地凛子、トキノ:谷原章介はこの映画の物語にはドンピシャ。特に、クサナギの声に菊池凛子さんの声の表情がばっちり合い、人間臭くて情緒の濃いそしてどこか子供っぽいクサナギが生れた。
4・舞台をヨーロッパ北西部の海岸地帯に限定したことで、物語に潤いを与えた。ケルトの文様の石碑などが描かれていたので、アイルランドなどの湿気の多い海岸地帯だろうか?
5・戦闘の3Dと地上の物語の線画を上手く使い分け、世界観の均衡を保っている。3Dの部分はほんとに美しい映像であるが、線画の部分はもう一工夫あっても良かったのではという物足りなさを感じた。

などなどかな。

テーマを絞り、非常に解りやすい(感情移入しやすい)映画だった。
不特定多数の観客に訴えるようにした戦略は成功である。
劇場でも男女を問わず年代を問わず、いろんな層の人たちがいた。
外国人も数グループいた。
原作のシリーズを読んでいるので、物語の展開の先は読めている。
アニメをどのように仕上げたかというところに関心いくのは仕方がない。
観てから読むのか、読んでから観るのか。
映画を先に観るほうが、新鮮な驚き、感動が高くて愉しめそうな気がする。

一番美しい所は、白い線が微妙に揺れながら、飛行場に着陸する場面。
白い線と黄緑の原野の対比が美しく、緩やかな間が心地よかった。
穏やかな間。
生と死の穏やかな間。


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