吉野温泉元湯の案内文に「花の吉野山、人里離れた一軒宿 文人・修験者に
長く愛されてきた吉野の隠し湯」とある。この宿に一か月以上逗留したのが
島崎藤村である。筆者が心奪われた詩人・文学者。そのゆかりの宿を訪ねた。
記録:島崎藤村がこの宿を訪れた時は明治女学院の教え子佐藤輔子との情愛
に悩んでいた頃だ。藤村20歳、輔子21歳。この情愛の作品が 「初恋」 。
詩集若菜集に収められた詩文に胸を震わせた我青春を懐かしく回想す。
詩文:島崎藤村「若菜集」初恋より
『まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の
林檎(りんご)のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり・・・』
感慨:筆者は大学で島崎藤村の研究で知られる伊東一夫教授のゼミで島崎藤村
の「夜明け前」の講座を受講。しかし、苦学生時代であり、憧れの藤村
の足跡を辿ることは叶わなかったが、今回漸く藤村の足跡の一端を辿る。
考察:島崎藤村もまた生立ちから悲劇を背負っていた。父の近親相姦(姉)と
藤村自身も姪と関係を結ぶなど明治にあっては不義密通の呪われた家系
。また、尊敬していた北村透谷の自殺が彼の文学活動に大きく影響した。
大作「夜明け前」の深く重々しい筆致はこれらが反映されたのだろうか。
参照#①島崎藤村ゆかりの小諸の布引温泉 芸術&温泉文学者 探訪紀行