Facebook上にタワーレコード板倉重雄さんより「マタイ受難曲」公演のご感想が投稿されました。
高い評価を頂き、光栄です。
いまだ、自分で長文を書くエネルギーがないので、ご報告も兼ねて、転載させて頂きます。
もちろん、板倉さんの御承認は得ております。
『めぐろパーシモンホールでの福島章恭指揮、バッハ:マタイ受難曲終演。キリストの受難の物語とバッハの音楽の生々しい人間ドラマが身に迫る素晴らしい演奏会でした。
キリストを十字架につけたのが時の権力者に扇動された群衆ならば、キリストを死に追いやり取り返しのつかないことになったと悔悟の念に苛まれるのも群衆。群衆心理の愚かさはワーグナーの「パルジファル」の聖杯騎士団にも描かれますが、マタイ受難曲の深いところは群衆心理で愚行を起こす群衆も、悔悟の念に駆られる群衆も、ともに同じ合唱団によって歌われるところです。
本日の福島さんの指揮は合唱団の音色にこうした人間の醜さや怒りや悲しみや温かさが滲み出ていました。キリストに唾し、鞭でうち、拳で殴り、十字架に架けろと熱狂する群衆の愚かさ、無実の罪でキリストを死に追いやった自らの愚行を後悔する涙、安らかに眠れと祈る優しさ、全てが合唱団の音色で表現されていました。その悔悟の念を表した第37曲、第54曲、そして最後のコラールは聴いていて涙をこらえることができませんでした。
これは今から2000年前を舞台とした物語ですが、2016年の1月の様々な出来事を思い浮かべるだけでも人間の本質というものは何も変わっていないと私は思います。日本国民全員が本日の福島さんの指揮のような優れた演奏でマタイ受難曲を聴くべきなのです。
本日の公演はソリストも素晴らしい歌声を聴かせてくれました。エヴァンゲリストの畑儀文の深い声、卓越した技巧の安定感、そして絶妙のニュアンス。世界的に見ても最高のエヴァンゲリストの一人でしょう。ソプラノの星川美保子は細く清らかな声質が宗教曲にぴったりで、そのあまりの儚さと美しさは落涙ものでした。アルトの谷地畝晶子は太く柔らかな歌声で声量も豊か。有名な第39曲で哀れを誘うヴァイオリン・オブリガートと絡みながら、キリストを憐れむ心を見事に描き出していました。若い3人の男声歌手の中ではバス・バリトンの山下浩司が抜きん出た実力を示していました。
今日のマタイは古楽演奏の東京バロック・コンソートの個々人の高い技量と豊かな音楽性、歌手や互いの奏者、そして聴衆に語りかけるようなアンサンブルも見事でした。
合唱団の東京ジングフェラインは1ヶ月後にバッハの聖地、ライプツィッヒの聖トーマス教会でマタイ受難曲を演奏する予定とのこと。心から成功をお祈りいたしますし、きっと本場の聴衆の心を打つに違いないと思います。』