今宵は新国立劇場で「さまよえるオランダ人」を観た。
正直、序曲から第1幕はいまひとつ乗れなかった。
「基本的に、自分は飯守泰次郎とは波長が合わないんだな」ということを端々に感じてしまったのだ。棒が分かりにくいことも関係あるが、全てではない。そんなことを言えば、朝比奈先生やマタチッチを聴けなくなる。
飯守泰次郎の指揮は、腹の底から息をしているという気配が一見感じられず、腕だけを振り回したり、こねたり、押したりしているように見える。だから、腑(はらわた)にズシンと響く音がしない。それが原因なのだろうと思う。「パルジファル」の時から感じていたことなのだが、それを改めて認識せざるを得なかった。特に序曲では、アインザッツが分かりづらいせいかオーケストラも探りながら出て、決め所が決まらず、音楽が全体に平板だったように感じた。
ところが、第2幕の中盤から第3幕のラストまでは、音楽に独特の生命力と緊張感が生まれ、いつの間にやら音楽に引き込まれてしまったのだから不思議である。基本的に好きなサウンドではないのに、いつしか自分の好みを超越して、結局はワーグナーの素晴らしさを堪能させてくれたのだから、飯守泰次郎を名指揮者と呼ばないわけにはいかないのだろう。なんとも奇妙な理屈だが・・・。
歌手では、何と言ってもゼンタを歌ったエルベートに尽きる。終演後、オランダ人役のマイヤーが最も大きな喝采を受けていたが、ボクのベストは断然エルベート。その声のよく通ること! 他の全ての存在を超越して響く声は、ゼンタの自己犠牲的な愛を描くのに相応しい美があって胸を打たれた。マリーの竹本節子さんは、厚木のモツレクにご出演頂いたばかりだが、人間性溢れる素晴らしく深い声。男声陣では、ダーラント役のシヴェクのピッチ感がボクとは少し合わなかったが、舵手の望月哲也さんは本当に立派! 益々惚れた次第。
演出は、妙な読み替えのないオーソドックスなのは良かったが、もうひとつキラリと光る部分も欲しかった。特に、ゼンタとオランダ人が光に包まれながら昇天すべきところ、オランダ人だけが地上で人として死ぬ、というラストには夢がないように思う。
31日の千穐楽は仕事が入っているため、今回のプロダクションは、本日1回だけの鑑賞となった。
もし、どうしようか迷われている人に相談されたなら、「どうぞご覧なさい」と言うだろう。
新国立劇場 2014/2015シーズン
ワーグナー《さまよえるオランダ人》
【ドイツ語上演/日本語字幕付】
2015年1/18(日)14:00、21(水)14:00、25(日)14:00、28(水)19:00、31(土)14:00
新国立劇場 オペラパレス
■指揮:飯守泰次郎
■演出:マティアス・フォン・シュテークマン
■美術:堀尾幸男
■衣裳:ひびのこづえ
■キャスト
【ダーラント】ラファウ・シヴェク
【ゼンタ】リカルダ・メルベート
【エリック】ダニエル・キルヒ
【マリー】竹本節子
【舵手】望月哲也
【オランダ人】トーマス・ヨハネス・マイヤー
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京交響楽団