ラヴェルの愛弟子にして、フランス音楽のスペシャリストであったロザンタールが、「トスカ」の録音を残したことを、かつては不思議に思っていたが、その疑問が氷解したのは、ロザンタールの著作「ラヴェル - その素顔と音楽論」(マルセル・マルナ編、伊藤制子訳、春秋社)から次のエピソードを読んだときである。
ロザンタールがラヴェルに、マスネとプッチーニを非難したとき、ラヴェルが「トスカ」全曲を弾いたという。そして、ピアノで弾く手を止めては「すばらしい、よくできている!」と語っていたのだ。
後に、ロザンタール自身、その音楽そのものの力強さとオーケストレーションの完璧を賞賛している。
彼には「トスカ」を振る強い動機があったのだ。
プッチーニ:トスカ(全曲・仏語歌唱)
M.ロザンタール指揮パリ国立歌劇場管&合唱団.
トスカ: J.ロード(Sop. )
カヴァラドッシ: A.ラーンス(Ten. )
スカルピア: G.バキエ(Br.)etc.
仏VEGA VAL.118
ST20.003/ 005 STEREO 3枚組
仏VEGAに入れた「トスカ」、2枚組のモノーラル・プレスは架蔵していたが、ステレオ・プレスのあることを知ったのは最近のこと。
探しに探してようやく見つけたのが、このファースト・プレスである。豪華な赤い布張りボックスはモノーラル盤と共通だが、ロザンタールの名の下にステレオのロゴマークがある。
まず、針を降ろしての驚愕は、生半可な最新録音には太刀打ちできない素晴らしいオーディオファイルであるということ。仏Adesから出されたロザンタール指揮によるラヴェルやドビュッシーの復刻盤も優れた音質に違いないが、生々しさはまるで別物だ。
ロザンタールの指揮は、常に明晰で、見通しがよく、彼が愛したプッチーニのオーケストレーションの美を余すことなく伝える。オーケストラは生き物のように語り、歌手たちも情感豊かに歌い、演ずる。聴き慣れないフランス語であることも、いつしか忘れてしまう。
この春の仕事のため、ドビュッシーの「夜想曲」を聴きまくり、わたしの中でのロザンタールの再評価から、この盤の存在を知り、出会いに繋がった。ネットサーフィンならぬロザンタール・サーフィンとでも言えようか?