クナッパーツブッシュの「ワルキューレ」第1幕の録音は、数あるレコードの中でも、わたしの最愛のひとつ。
演奏も凄いが録音も優秀。
たとえば、カートリッジ、ケーブルなどを交換したときに、その性能を試すためにまず最初に針を降ろすのが、このレコードなのである。
最愛なだけに、色々なバリエーションで楽しみたいとのことで、いまは4種類を手元に置いている。
なお、第1~3面が「ワルキューレ」第1幕で、第4面が、ジークフリートの「夜明けとラインへの旅」「葬送行進曲」というカップリングは共通している。この2曲も名演中の名演。
1. まずは、王道中の王道。
英デッカのオリジナル盤、SXL2074-5である。
とにかく、気品、風格という点では随一。
2. 英デッカのモノーラル・プレス。LXT5429-30。
同じデッカによるエーリヒ・クライバーの「フィガロ」、ベーム「魔笛」などのような、ステレオとモノーラル間でのミキシングやバランスの違いは認められないが、クナッパーツブッシュの荒ぶる魂がよりストレートに味わえる場面もあり、捨てがたい。
3. こちらは、米ロンドン OSA1204。
英デッカ・プレスによるアメリカ向け輸出仕様。箱の裏面が青いため、ブルーバック盤と呼ばれる。
基本的には、SXL盤と変わらない筈だが、イコライジングのカーヴなどに違いがあるのだろう。イメージに違いのあるのは確かだ。こちらには、RIAA CURVEと明示されている。
SXL盤の近寄り難いまでの威厳に較べると、親しみやすさのある音だ。
なお、本来は、イコライジング・カーヴを選択でしるフォノイコライザーを用いるべきなのであろうが、我がシステムにはその装備はない。悪しからず。
また、他のセットは知らないが、わがセットは、ディスク1(第1&4面)とディスク2(第2&3面)でレーベル・デザインと盤の厚みが異なる。
前者が所謂パンケーキ・レーベルで盤が分厚く、重みのある。
4. 最後に、最近入手した独デッカ盤。
実は、上記のステレオ2点は素晴らしいものの、ひとつ気になることもある。
いずれも、第3面、即ち、第1幕のラスト近くにきて、音が歪むのだ。クリーニングをしても変わらないし、たまたまかも知れないが、これまで何度か出会った他のセットでも同じであった。
というわけで、「独プレスならどうだろう?」という興味から、手配したのである。
結果的には、完璧ではなかったが、英プレスよりも遥かに歪みのない音で、ストレスなく聴くことができた。
スタンパーそのものは英盤と共通しているわけだから、スタンパーにあった歪みの要素がプレス技術によって最小限に抑えられた、とも考えられる。もちろん、仮説の域は出ない話ではあるが。
基本的な音質だが、英プレスよりも重心が低く、剛毅な質感。黒く底光りするようなサウンドが素晴らしい。
英盤を外に向かって開かれた音と呼ぶなら、独盤は内に向かう音。とにかく密度の高さと充実感が堪らない。
暫くは、こちらを選ぶ機会が増えそうな予感。
なお、キングレコードによるスーパーアナログ盤については、未架蔵。いずれ機会があれば・・・。