岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

十勝岳連峰・上ホロカメットク山で発生した雪崩とその事故について考える(3)

2007-12-03 07:00:23 | Weblog
(今日の写真は、岩木山で出会ったボタン科ボタン属の多年草である「ヤマシャクヤク(山芍薬)」だ。図鑑によると「ヤマシャクヤク」は関東・中部以西の本州、四国、九州に分布するとある。しかし、岩木山にも生えているし、青森県発行の「レッドデータブック」には希少種として掲載されている。青森県にもある花なのである。
 ミズナラやコナラ林下の明るい落葉広葉樹林の斜面下部や谷頭などに生育してい。高さは 30~50cmほどで数枚の茎葉をつける。5月中旬に白色の清楚で美麗な花を咲かせる。
 この花も激減した植物である。花が美しいので山草愛好家などによって、手当たり次第「盗掘」された結果である。「ヤマシャクヤク」は「開かれて明るい場所」を好むのである。杉の植林地でも、こまめに間伐してやると「ヤマシャクヤク」が生育出来る明るさになり、復活するかも知れない。
  「シャクヤク」は漢名の「芍薬」の音読みである。中国では薬草として栽培されていた。「ヤマシャクヤク」は「山」に咲く「シャクヤク」という意味である。
 この美しい白い花を亡くなった日本山岳会北海道支部の4名の方々に供したい。)

(承前)
 この「遭難」から想起される様々な問題点を新聞情報(毎日新聞電子版)に従って、私の雪山経験なども参考に検証してみたい。
 冒頭でこの「雪崩遭難」のニュースに接して「愕然とした」と書いたが、その意味は…
 短絡的だが、どうして、今日のような「雪質や積もり方」の時に、雪崩の頻発する、しかも樹木のない場所を登っているのだということであった。
 私には、この「遭難」には「位置、地形、気象」などの違いを越えた共通する「人為的な要因」を感じてならないのだ。

   ■■ 十勝岳連峰・上ホロカメットク山「雪崩遭難」に関する検証 ■■

 ■検証5 同時に同じ場所に入山していた他のパーティの動向に気を配ったか ■
 
 同時に同じ場所に入山していた他のパーティの動向に対する視点が見られない。雪崩の発生は、その殆どが「人為」的な事柄に起因する。
 「23日も複数の団体が入山、多数の人が雪上を歩いたため雪の層に衝撃が加えられ、雪崩を引き起こす可能性がある」にもかかわらず、そのようなことにリーダーもパーティ全員も注意を払っていた形跡がない。これも毎年来ているという安心感からであるとすれば「自然」をとらえる目を持っていないと言われても仕方がない。

        ■検証6 「弱層」発見のテストをした形跡がない ■ 

 さらに、「弱層」発見のテストもしていない。雪崩発生が予知される場所では「弱層」の発見のため積雪を50cm角に切り出して、その雪層に「異層」があるかどうかを検証することが常識的なことだ。固い「異層」があればそれが「弱層」と呼ばれるものであり、その上に積もっている雪面は、早い時間に「雪崩」となって滑落する。 この手法を知っていたのか知らなかったのかは定かではないが、しなかったのだから明らかに「手抜き」である。11人パーティである。2、3人が「弱層」発見のテストをしてもいいのではないのか。
 そして、25日の調査で、雪の斜面から深さ0.6mの所に厚さ1cmの霜状の「弱層」が発見されているのである。

■検証7 持ち分や役割を分担するという中での「自己責任」はどうだったのか ■

 思うに、このパーティは持ち分や役割を分担するということに欠けているようだ。ひょっとして、ハードな「踏み跡(通り道)」造りをも、その時点で「トップ」である鈴木さんに任せきりだったのではあるまいか。そのような懸念さえ持ってしまうのである。

 また、パーティ全員に「雪崩」などに対する危機意識が希薄だったのではないのかという懸念も抱くのである。何となく甘えの集団であるという雰囲気が読み取れる。これは当該支部全体のムードだったかも知れない。
 このことは次のことからも推論することは可能だろう。
 死亡した助田陽一さんについて、会員の海老名名保さんは「いつもリーダーかサブリーダーとしてパーティーを引っ張る、責任感の強い人だった。奥さんといつも一緒だった。被災したことがまだ信じられない」と語っている。本来、パーティ行動の場合は、夫婦での参加は遠慮するのが一般的である。しかも「いつもリーダーかサブリーダーとしてパーティーを引っ張る、責任感の強い人」として位置づけられているわけだから、そこにはとりわけ、客観性が要求されるのである。「リーダーかサブリーダー」として参加する時は、主観的な立場にならざるを得ないような「身内」の参加は断るのが筋であろう。
 このようなことが許されてきたところに、当該山岳会の甘さを見ることが出来るように思える。登山行動には「なれと甘え」があってはいけない。

■検証8 ビーコンの装着と使用の習熟がなされていたのか。ビーコン・ゾンデ棒・スコップという3種の道具で機能がが最大になる。ゾンデ棒やスコップは用意していたのだろうか ■

 4人中2人がビーコンを装着していても、そのビーコンが発信する信号をキャッチする訓練がなされていなければ、ちゃんと受信できる能力がパーティ内の他のメンバーに備わることはない。装着する意味がないことになる。
 発信装置に内蔵されているアンテナは「ダイバシティ」型にしろ「バーチカル」型にしろ偏波特性がある。さらに、この機器は相互に干渉し合う性質もあるので、位置によっては受信感度に斑(むら)があるものだ。
 この斑、すなわち「特性」を熟知していないと「埋まった人」が送信する電波を短時間に補足することは出来ない。事前に何回も補足のための訓練をしていなければ、「ビーコン」はただの「物」に過ぎない。
 埋まった人の発見には雪中に差し込んで探すためのゾンデ棒が必要である。そして掘り起こすためのスコップも必要である。この3つがうまく使われることで発見が早くなる。「2時間後に発見」では遅すぎるのだ。 
                          (この稿は明日に続く。)

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