
(今日の写真は、ムラサキ科ワスレナグサ属の多年草「ワスレナグサ(勿忘草)」だ。これはヨーロッパ原産の帰化植物である。水辺や湿った所の道端や草地に多い。野生化して増えて北海道や長野県に多い。
…とはいうものの私の家の近くでも、咲いているところがあることを確認している。「本州中部より北にしか自生しない」といわれていることを実証しているようなものだ。
高さは20~50cmで、花期は5月~7月で中心が黄色で花径6~9mmの淡紫色または青色の花を咲かせる。桃色の品種もあるらしく、主に観賞用として栽培されているのだそうだ。この写真のものも、恐らく「観賞用」の栽培種が、どこかの庭から「逃げ出した」のに違いない。)
私はまだ「嗅いだ」ことはないが、枝先に淡青色の花を「沢山つけると群落内は甘い香りに包まれる」そうである。事実は「嗅いだことがない」というよりは「群落」に出会ったことがないといった方が当たっているのだ。
葉には、春から夏にかけて下部のものは柄があり披針形で、上部のものは柄がない。葉の形は楕円形で、付き方は互生だ。
花名の由来は、ヨーロッパ原産の帰化植物だけあって、英語の「Forget-me-not」やドイツ語の「Vergiss mein nicht」などの「私を忘れないで」という意味から来ている。
ところがである。それを、日本人は器用にも「古語」の中でも「難しい副詞と終助詞」を使い「日本人受けする」ような「花名」にしてしまったのだ。これはやり過ぎではないのか。「花名」の意味ははなはだ難解である。
さて、カタカナ表記の場合は、「ワスレナグサ」をどこで区切って読むか。 「ワ+スレナグサ」か「ワス+レナグサ」か「ワスレ+ナグサ」か「ワスレナ+グサ」か「ワスレナグ+サ」のいずれかということになる。
ところが、漢字表記の「勿忘草」では、この問題を一挙に解決すると思いきや、漢文の素養がないとこれも解決はしない。大変な「翻訳語」なのだ。
漢字の意味に当てはめて読むと「ワスレナ+グサ」となる。つまり、「忘れるな、この草」だ。「この草を忘れるな」「この草花のことを忘れないでね」となるのである。
これを解くには「忘れな」の「な」について理解が必要だ。「な」の意味だが、まず、動詞の連用形の上に付けて禁止の意を表す。万葉集には「吾が背子は物な思ほし事しあらば火にも水にも吾なけなくに」という用例がある。
次は、「な…そ」の形で動詞の連用形を挟んで、相手に懇願してその行動を制する意を表す。これは次の禁止の終助詞「な」よりも意味が婉曲である。「どうか…しないでおくれ」という意味を持つ。
万葉集には「放ち鳥荒びな行きそ君まさずとも」、また源氏物語(夕顔)「あが君、生きいで給へ。いみじき目な見せ給ひそ」という用例があり、これらは「副詞」である。
さらに、活用語の終止形に接続して、禁止する意を表す。これは「終助詞」と言われ、上記のものとは「品詞」が違う。
『平安時代には主に男性が目下に対して用い、女性は「な…そ」を用いた』と広辞苑にはある。万葉集には「いたづらに吾を散らすな酒に浮べこそ」、また源氏物語には「われ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるな」と言う用例が見える。
この終助詞の「な」は現代でも「するな」という形で「禁止」の意味を持って使われている。
少し、逸れて、「文法講義」になってしまったが、花名の謂われは、次に示す「ドイツに伝わる悲しい伝説」である。
…若い騎士ルドルフが恋人ベルタとドナウ川の岸辺を歩いていた。彼女が河畔に咲いている可憐で美しい花を欲しがったので、ルドルフはベルタのために花を取ったのだが、足を滑らし川にはまってしまった。
しかし、川の流れは速く鎧をまとっていた騎士は流れに巻き込まれてしまった。騎士は最後に花を恋人に投げて「私を忘れないで」と叫び力尽きてしまうのである。そして、命を落とす時「私の事忘れないで」と言ったとして「忘れな草」とされたという。
恋人ベルタは騎士を忘れず、生涯その花を髪に飾り続けたそうである。…
日本人は、とりわけ、この「外来種」が好きであるらしい。詩や歌謡、短歌にも、よく登場する。
詩人の「西條八十」には「わすれなぐさ」という作品がある。
わすれなぐさは空のいろ/わすれなぐさは水のいろ
わすれなぐさは忘れじと/ちかいて遠く別れたる
かなしきひとの眸(まみ)の色 (集英社文庫『花の詩集』より)
また、歌謡曲としては…
菅原洋一とグラシェラ・スサーナが1978年に、その後、倍賞千恵子が歌った「忘れな草をあなたに」がある。
…分かれても分かれても/心の奥にいつまでもいつまでも/覚えておいてほしいから/幸せ祈る言葉にかえて/勿忘草を/あなたにあなたに…
短歌も結構ある。さすが「外来種」である。旧い歌集には出てこない。
・淡き夢勿忘草の呼び覚ましじっと佇む和みの中に
・まるごとの私を消去しただらう道ばたに咲くワスレナグサも
・騎士の死の身代わりの花忘れな草深ぶかき青水底思わす
歌集「貨物船」から
因みに「花言葉」は…「私を忘れないで」「真実の愛」だという。
ところで、「雑草」と一般的に呼ばれている「草花」の中には、可憐な姿で咲くものが多い。普通に歩いてても、全然気がつかないで通り過ぎてしまうほどである。
ところが、カメラの「マクロレンズ」で覗き込むと、足元に咲く草花の「小さな世界」に感動する。「キュウリグサ」や「ハナイバナ」も、2mm程度の大きさだが、写真に撮ると、なんと可愛いことだろう。普通に畑や道端に咲いているのだ。
ふらりと散歩のついで、登山のついでに、土の匂いのする場所で、しゃがみ込んで、見てみよう。足元にも沢山の「草花」が咲いる。雪の降る前の時期に「雑草」の「春芽」を探すにも楽しいものである。(明日に続く)
…とはいうものの私の家の近くでも、咲いているところがあることを確認している。「本州中部より北にしか自生しない」といわれていることを実証しているようなものだ。
高さは20~50cmで、花期は5月~7月で中心が黄色で花径6~9mmの淡紫色または青色の花を咲かせる。桃色の品種もあるらしく、主に観賞用として栽培されているのだそうだ。この写真のものも、恐らく「観賞用」の栽培種が、どこかの庭から「逃げ出した」のに違いない。)
私はまだ「嗅いだ」ことはないが、枝先に淡青色の花を「沢山つけると群落内は甘い香りに包まれる」そうである。事実は「嗅いだことがない」というよりは「群落」に出会ったことがないといった方が当たっているのだ。
葉には、春から夏にかけて下部のものは柄があり披針形で、上部のものは柄がない。葉の形は楕円形で、付き方は互生だ。
花名の由来は、ヨーロッパ原産の帰化植物だけあって、英語の「Forget-me-not」やドイツ語の「Vergiss mein nicht」などの「私を忘れないで」という意味から来ている。
ところがである。それを、日本人は器用にも「古語」の中でも「難しい副詞と終助詞」を使い「日本人受けする」ような「花名」にしてしまったのだ。これはやり過ぎではないのか。「花名」の意味ははなはだ難解である。
さて、カタカナ表記の場合は、「ワスレナグサ」をどこで区切って読むか。 「ワ+スレナグサ」か「ワス+レナグサ」か「ワスレ+ナグサ」か「ワスレナ+グサ」か「ワスレナグ+サ」のいずれかということになる。
ところが、漢字表記の「勿忘草」では、この問題を一挙に解決すると思いきや、漢文の素養がないとこれも解決はしない。大変な「翻訳語」なのだ。
漢字の意味に当てはめて読むと「ワスレナ+グサ」となる。つまり、「忘れるな、この草」だ。「この草を忘れるな」「この草花のことを忘れないでね」となるのである。
これを解くには「忘れな」の「な」について理解が必要だ。「な」の意味だが、まず、動詞の連用形の上に付けて禁止の意を表す。万葉集には「吾が背子は物な思ほし事しあらば火にも水にも吾なけなくに」という用例がある。
次は、「な…そ」の形で動詞の連用形を挟んで、相手に懇願してその行動を制する意を表す。これは次の禁止の終助詞「な」よりも意味が婉曲である。「どうか…しないでおくれ」という意味を持つ。
万葉集には「放ち鳥荒びな行きそ君まさずとも」、また源氏物語(夕顔)「あが君、生きいで給へ。いみじき目な見せ給ひそ」という用例があり、これらは「副詞」である。
さらに、活用語の終止形に接続して、禁止する意を表す。これは「終助詞」と言われ、上記のものとは「品詞」が違う。
『平安時代には主に男性が目下に対して用い、女性は「な…そ」を用いた』と広辞苑にはある。万葉集には「いたづらに吾を散らすな酒に浮べこそ」、また源氏物語には「われ亡くなりぬとて口惜しう思ひくづほるな」と言う用例が見える。
この終助詞の「な」は現代でも「するな」という形で「禁止」の意味を持って使われている。
少し、逸れて、「文法講義」になってしまったが、花名の謂われは、次に示す「ドイツに伝わる悲しい伝説」である。
…若い騎士ルドルフが恋人ベルタとドナウ川の岸辺を歩いていた。彼女が河畔に咲いている可憐で美しい花を欲しがったので、ルドルフはベルタのために花を取ったのだが、足を滑らし川にはまってしまった。
しかし、川の流れは速く鎧をまとっていた騎士は流れに巻き込まれてしまった。騎士は最後に花を恋人に投げて「私を忘れないで」と叫び力尽きてしまうのである。そして、命を落とす時「私の事忘れないで」と言ったとして「忘れな草」とされたという。
恋人ベルタは騎士を忘れず、生涯その花を髪に飾り続けたそうである。…
日本人は、とりわけ、この「外来種」が好きであるらしい。詩や歌謡、短歌にも、よく登場する。
詩人の「西條八十」には「わすれなぐさ」という作品がある。
わすれなぐさは空のいろ/わすれなぐさは水のいろ
わすれなぐさは忘れじと/ちかいて遠く別れたる
かなしきひとの眸(まみ)の色 (集英社文庫『花の詩集』より)
また、歌謡曲としては…
菅原洋一とグラシェラ・スサーナが1978年に、その後、倍賞千恵子が歌った「忘れな草をあなたに」がある。
…分かれても分かれても/心の奥にいつまでもいつまでも/覚えておいてほしいから/幸せ祈る言葉にかえて/勿忘草を/あなたにあなたに…
短歌も結構ある。さすが「外来種」である。旧い歌集には出てこない。
・淡き夢勿忘草の呼び覚ましじっと佇む和みの中に
・まるごとの私を消去しただらう道ばたに咲くワスレナグサも
・騎士の死の身代わりの花忘れな草深ぶかき青水底思わす
歌集「貨物船」から
因みに「花言葉」は…「私を忘れないで」「真実の愛」だという。
ところで、「雑草」と一般的に呼ばれている「草花」の中には、可憐な姿で咲くものが多い。普通に歩いてても、全然気がつかないで通り過ぎてしまうほどである。
ところが、カメラの「マクロレンズ」で覗き込むと、足元に咲く草花の「小さな世界」に感動する。「キュウリグサ」や「ハナイバナ」も、2mm程度の大きさだが、写真に撮ると、なんと可愛いことだろう。普通に畑や道端に咲いているのだ。
ふらりと散歩のついで、登山のついでに、土の匂いのする場所で、しゃがみ込んで、見てみよう。足元にも沢山の「草花」が咲いる。雪の降る前の時期に「雑草」の「春芽」を探すにも楽しいものである。(明日に続く)