岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

「ツルウメモドキ(蔓梅擬き)」の雄花

2009-06-01 05:36:25 | Weblog
(今日の写真はニシキギ科ツルウメモドキ属の落葉性で蔓性植物の「ツルウメモドキ(蔓梅擬き)」の花だ。しかも「雄花」である。)

 拙著「岩木山・花の山旅(438種)」にはこの「ツルウメモドキ」は掲載されていない。仲間である「ニシキギ科」の花は数種掲載してあるが、これだけが「省かれ」ている。
 何故だろう。これに答えることは「弁解」でしかない。「岩木山の花」を主題にした「書物」に、「岩木山に生えている」にも拘わらず「省かれている」花は多い。その数は20種を越えている。この「ツルウメモドキ」もその1つだ。
 「省かれている理由」は1つには「出版後に出会った花」であること、2つには「科名・種名が不詳」であること、3つには、ただ単純に「掲載の見落とし」であることなどだが、この「ツルウメモドキ」の場合はかなり違う。
 …津軽では、これを「ヤマガキ」と呼ぶ。私は長いことそう覚えていた。だが、この呼び方は津軽地方特有のものであるらしい。緑から黄色を帯びてくる頃の果実は「柿」を思い起こさせないわけではない。
 ツルウメモドキの果実は淡い緑黄色で直径7~8mmで、割れると赤い実と黄色の「仮種皮」の絶妙なコントラストを示して美しい。実が割れて中から赤い顔を覗かせると、もはや「柿」には見えない。三つに裂けた黄色の部分が果皮で赤橙色の部分は種皮である。 コントラストが美しいので、生け花の材料として重宝され、秋から冬の最高の花材やリースに用いられるのである。
 これが、一般的な「ツルウメモドキ」に対する評価であろうし、扱い方であろう。しかし、冬山で、雪上に出ているものや「他の樹木」に絡みついて、この「絶妙なコントラスト」を見せて垂れ下がっている「ツルウメモドキ」の風姿は、一面の枯れ野と落葉樹の林縁という「寒さ」と「寂寥感溢れる」白い世界の中では、そこだけが天上の別世界、涅槃の花園か果樹園に見えるのだった。
 「厳寒と死滅の中での安息」が、私にとっては「ツルウメモドキ」の実、つまり、「ヤマガキ」だったのである。私が「ヤマガキ」を思う時、そこには「花」はなかったのである。岩木山の「冬山」に40年登り続けて体験出来た感慨である。私が「津軽」の人間であり、「ヤマガキ」を贔屓(ひいき)眼で見るというわけではない。
 私の眼中には「ツルウメモドキ」の「花」はなかったのである。「花」が主題の書物に「果実の写真」を載せることは出来なかったのだ。…

 津軽では、このように、「ツルウメモドキ」を「ヤマガキ」と呼ぶ。だが、「今日の写真」からも分かるように、この花からは「柿」を連想することは、絶対に出来ないだろう。
 「柿」の花はしっかりした「花弁」よりも大きい、しかも「果実」になっても残る萼を持っている。それらがまったく見えないのだ。葉も革質で、黄色の4弁の「雌花と雄花」をつける。雌雄同株なのだ。
「ツルウメモドキ」は雌雄異株である。花名も「枝や葉が梅に似ている」という「ウメモドキ」、それに似ていて「蔓性」植物だから「」と呼んだのだ。つまり、「モドキ」は「擬き」と書く。「偽物」のことだ。「ウメモドキ」は梅の偽物で、その偽物に似ていて蔓性だから「蔓性でウメモドキに似ている木」ということになったのである。非常に厄介な由来である。だが、由来の説明として、一応論理がとおる。
 しかし、「ヤマガキ」の方は「花や葉、枝、幹」とはまったく無縁な「名付け方」なのだ。秋になると実をつけるが、その「果実」が小さな柿の実に似ているというだけの視覚的「単純」であって、植物の分類的な理由付けはどこにもない。だが、本当に、「ツルウメモドキの実」は柿に似ている。ところが、生えている場所が「山」とは限らないこともあるので、「ヤマガキ」という呼称には「無理」がないわけではない。
 正式名「ツルウメモドキ」は「枝と葉」からの連想であり、「ヤマガキ」は単刀直入に生えている場所と果実からの連想である。
 なお、この「ヤマガキ」については今年の1月17日と18日の「ブログ」でとりあげているので、興味のある方はそちらを覗いてほしい。

 「ツルウメモドキ」の花も他の「ニシキギ科」の植物と同じように今を盛りと「花」を咲かせる時季になってきた。
 それにしても、同じ「ニシキギ科」の花はどれも非常に似ている。これには驚いてしまう。
 「ニシキギ科」は大きく分けると「ニシシギ属」と「ツルウメモドキ属」になる。
ニシキギ、コマユミ、マユミ、クロツリバナ(ムラサキツリバナ)が「ニシシギ属」であり、ツルウメモドキだけが「ツルウメモドキ属」である。
 「今日の写真」は100mmのマクロレンズで写したものだ。ツルウメモドキは落葉性の「蔓性植物」で、日本全国、朝鮮・中国に分布する雌雄異株の樹木である。
 花は非常に目立たなく、小さい上に藪に隠れるようにして咲いている。見つけようとしないと「見えない」花だろう。
 雌花の花弁は淡緑色で、長さ約2.5mm。雌しべの柱頭は3つに分かれ、下部は花盤となって、周辺に退化した雄しべがある。雄花は雌花に比べて大きく、花弁の長さは4mm。5本の雄しべがあり、中心に退化した雌しべがある。
 私の「マクロレンズ」は等倍撮影が可能なのであるが、この「マクロレンズ」で、接写しても、「雌しべ」の柱頭などはよく分からないであろう。