岩木山を考える会 事務局日誌 

事務局長三浦章男の事務局日誌やイベントの案内、意見・記録の投稿

14日出会った「コヨウラクツツジ」の森、標高1600m付近、赤倉登山道

2009-06-16 05:33:53 | Weblog
 (今日の写真はツツジ科ヨウラクツツジ属の落葉低木「コヨウラクツツジ(小瓔珞躑躅)」だ。というよりも「コヨウラクツツジ」の森といってもいいかも知れない。
 「コヨウラクツツジ」は、岩木山の場合一応標高の高い場所に生えている樹木である。だが、その「高い」場所よりも、かなり低山帯から生えているのが、赤倉登山道沿いのもので、それが明らかに顕著である。
 標高800m付近の伯母石岩稜帯に始まり、標高1600m付近の岩稜帯でピークに達する。今日の写真はその到達点に生えている「コヨウラクツツジ」であり、その森なのだ。この写真はその「森」を写したものだから、果実は小さくて、この写真からは実像は窺えないだろう。
 とにかく花は小さくて可愛らしい。緑の若葉の間から、赤い「果実のような花」が見える。実際、傍によって「花」を見ると、外側は黄色を帯びた紅赤色で、裏側はやや薄く、「歪んだ」壺形をしていることが分かる。それが枝先に長い花柄で垂れ下がってつくのだ。花の大きさは5mm程度だ。葉は表面に荒い毛のあることもよく見える。

 この時季、この登山道では標高500mを越えた辺りから先ず朱色の「ヤマツツジ」が登場する。間もなくそれに混じって「ウラジロヨウラクツツジ」が出てくる。そして、伯母石岩稜帯から「コヨウラクツツジ」が出てきて「ヤマツツジ」や「ウラジロヨウラクツツジ」は姿を消す。標高1000m近くになると、今度は「ムラサキヤシオツツジ」が登場する。しばらくはこれと「コヨウラクツツジ」が競うようにその花影を見せるが、いつの間にか「ムラサキヤシオツツジ」は山の霧に紛れるかのようにその姿を消す。
 岩木山では「ツツジ科」の花は多い。標高1000mよりも高いところで、真っ先に咲き出すのは「コメバツガザクラ」だ。これは5月の中旬というと花をつける。だから、この時季は花期は終わっている。
 低山帯では「イワナシ」の花が早い。イワナシはすでに、「梨色」で「梨形」の実をつけている。
「ヤマツツジ」や「ムラサキヤシオツツジ」はツツジ属だが、「コヨウラクツツジ」は属が違って「ヨウラクツツジ」属だ。「ヨウラク」は漢字で「瓔珞」と書く。
 これは、簡単に言うと「宝石」のことだ。昔、インドの貴族男女が珠玉や貴金属に糸を通して作った装身具のことであり、仏像などの装飾ともなったものである。また、仏像の天蓋や建築物の破風(はふ)などに付ける垂れ飾りのことをいうのだ。
 この「ヨウラク属」の「ツツジ」に共通する花の特徴は「筒型」であるということと「垂下」するということである。

 最初に出会ったのが石仏4番辺り「ヤマツツジ」だった。これは「ツツジ科ツツジ属」の半常緑低木だ。北海道南部から本州、四国、九州の暖温帯域全域に分布し、丘陵帯から山地帯下部に生育している。岩地を好むようで、人に知られていないようだが、毒蛇沢上部の左岸崖頭には大群落地がある。その花の色から、別名を「丹(に)ツツジ」という。

 「ツツジ科」の花は、万葉集でも「細領巾(たくひれ)の鷺坂山の白つつじわれににほはね妹に示さむ(読み人しらず)」と歌われるなど、古来から親しまれてきた花である。
 この和歌は「恋の歌」である。その気持ちになって読解してほしい。
 「盛りなる春曼荼羅の躑躅かな(高浜虚子)」という俳句もある。だが、岩木山の「ヤマツツジ」にしろ、「ムラサキヤシロツツジ」にしろ、「春」というよりは「初夏」、夏の花だ。
 「ムラサキヤシオツツジ」はツツジ科ツツジ属の落葉低木だ。北海道、本州の近畿以北に分布する。山地帯上部から亜高山帯の林縁や雪渓の縁などの湿り気の多いところに生える。
 高さ1~3mの落葉低木で、直径3~4cmの濃紅紫色の花を葉が出る前か、出ると同時に小枝に2~6個咲かせる。
 雄しべは10本もあり、上の5本は短くて基部に白毛が密生し、下の5本は長くて無毛であることが特徴だ。
 長たらしい花名だが「ヤシオとは8回も染料で染める意。紫色の染料に何度も浸して染め上げたような美しいツツジである」ということが由来だ。

 別名は「ミヤマツツジ」だ。だが、この「別名」で呼ぶ人は少ない。それどころか、長たらしい故の省略か「ムラサキヤシオ」と呼ぶ人が多い。
 ところが、俳人の中には「別名」を知っている人もいるようで、「阿波野青畝」には「みよしののみやまつつじの中の滝」という俳句がある。
 この風情と句題を岩木山で味わうことの出来るところも、この「赤倉登山道」沿いである。
 その場所は標高1200mを越えている「大開」だ。ここには石仏22番、23番、24番が並んで立っており、眼下に深い赤倉の谷を望むことが出来るのである。
 そして、その周囲や眼下、対岸の崖や崩落地の上部にミヤマツツジの咲いているのが見えるのだ。
 赤倉沢の源頭にはまだ深い残雪があり、そこから解けだした流水は「滝」をなし、深淵からごうごうという音を運んでくれる。ときおり、沢からは雲が登ってくるが、その音は消えることもない。雲が霧消すると、艶やかな薄紫の花の乱舞がそこにあるのである。
 「阿波野青畝」の句を借りて「岩木峰のみやまつつじの中の滝」とすると、この「大開」で味わえる風情を一挙に「俳句」にしてしまうことが出来るのである。

 ところで、「ツツジ(躑躅)」の語源だが…
①連なって花が咲く・続き咲きということ。
②花が筒状になっている・筒咲きということ。
③躑躅は足踏みをして佇むの意から「美しさに見とれて佇んでしまう」こと。
…だと言われている。

 昨日はNHK青森放送局のY報道カメラマンと助手に同行して、「赤倉登山道」を登る予定だった。しかし、朝の5時に「延期」の知らせがあった。数日前から「風邪気味」で「今日は登山の出来る体調ではない」が延期の理由である。
 14日の登山は、後付けの理由だが、そのための「下調べ」という要素もあった。19日に変更になった。花の撮影のためなのだが、「赤倉登山道」にテレビクルーが入るということは最初かも知れない。
 来週の夕方6時台に放映される予定だから、どのような視点で「撮られる」ものかと今から楽しみである。