goo blog サービス終了のお知らせ 

お気楽ビジネス・モード

ビジネスライフを楽しくする知恵や方法を紹介する

リッツ・カールトン20の秘密

2010-01-31 21:40:10 | 経営戦略
世界最高級のホテルチェーン、リッツカールトン。このホテルのクレドは有名だが、この本を読むとそれを考えたシュルツ社長の深い考えと経営戦略がうまく結びついているのがわかる。この本は世界のリッツ・カールトンを制覇した日本人の旅行記と日本支社長のリコ・ドゥブランク氏の解説で構成されている。

旅行記ではリッツ・カールトンの顧客の誕生日から食べ物の好みまでを集めたデータベースが世界で共有されていて、それが印象に残るおもてなしに利用されているのがわかる。

サウスウエスト航空の本を読んだときも感じたのだが、サービス業に従事する人は根っから人にサービスすることに喜びを感じるひとがふさわしいのだろう。他人のために細かな気遣いを厭わず、人が満足して喜ぶことを幸せに感じる。サービス業にはこういう人が向いていると思うが、今や先進国の70%の人々がサービス産業に従事している。そのために、顧客満足度などをフィードバックするシステムが必要になり、サービスの品質保証が重要になる。

採用で応募者を振り分けることが重要になるのだが、根っからサービス業に向いている人は70%もいないと思う。これからの社会では、人間の資質から変えていくことがに求められているのかもしれない。しかし、教育で資質がどれほど変えることができるのかは疑問だ。

これからの社会でリッツ・カールトンのモットー「紳士淑女をもてなすわたしたちも紳士淑女なのです」に共感するような人々が増えるのだろうか。

社会の構造変化に人間の本質的な部分がついて行けない限り、職業選択のミスマッチは今後も続くのかもしれない。

カール・アルブレヒト、ロン・センゲ『サービスマネジメント』ダイヤモンド社

2009-12-28 23:09:19 | 経営戦略
 サービスマネジメントのフレームワークであるサービストライアングルを中心にサービスマネジメントの方法が説かれている。
 サービストライアングルとは、「顧客」を中心に「サービス戦略」「システム」「人」の三点を結ぶ図で示されるサービスマネジメントを捉えるフレームワークである。
 サービストライアングルは、顧客の経験のクオリティをすべての「真実の瞬間」において直接的、間接的に最大化するためにマネジメントに役立つフレームワークともいえる。

フレームワークとしてのサービストライアングル

 サービス戦略と顧客を結ぶ線は戦略を市場に対して伝達させるプロセスを表している。企業が顧客に価値ある存在であることを認知してもらう必要がある。
顧客と企業を結ぶ線は「真実の瞬間」において重要な意味をもつ接触や相互作用のポイントを表している。
 顧客とシステムを結ぶ線はサービスの提供を支援するもの。システムには抽象的な手続きのシステムも物理的な要素も含まれる。
 人とシステムを結ぶ線はやる気のある人がクオリティの高いサービスを提供できるようにシステムは設計される必要があるし、常に改善されなければならない。
サービス戦略とシステムを結ぶ線は物理的なシステムと管理上のシステムの設計と配置がサービス戦略の内容と論理的につながっていることを意味している。
 サービス戦略と人を結ぶ線はサービスを提供する人に対し、マネジメントは自らが設定した明確な哲学を通じて便益をもたらすべきだということを意味している。明確な視点、判断基準、優先順位がなければ社員にサービス・クオリティに注目してもらうことは難しい。

・優れたサービス戦略とは

・・単にやりたいことをしめしたようなものではない
・・他社との差別化を明確に進めるものである
・・顧客の視点で価値あるものが示されている
・・自社で提供可能である

サービス・パッケージとは

顧客に対して提供されるモノ、サービス、経験の総和である。

サービス戦略:ビジネスの定義
サービス・パッケージ:オファーの定義
サービス・システム:サービスの提供
サービス・パッケージは、環境、感覚、人間関係、手続き、提供物、情報、財務の7つの特性から捉える

 サービスマネジメントの実例として、ディズニーや病院、流通などさまざまな業種があげられている。
 サービスマネジメントを単にサービスに対する人の管理と捉えるのではなく、サービスに対するその企業の戦略、システムの構築、人の管理(価値の創造を伴う)ととらえるところがこの本の優れたところだ。

 サービスマネジメントのフレームワークを理解する上では良い本だと思う。

J.コリンズ『ビジョナリーカンパニー〈2〉飛躍の法則』日経BP社

2009-11-08 22:38:59 | 経営戦略
『ビジョナリー・カンパニー2』読書メモ

評判通りの味わい深い本だった。
以下、要点を抜き書きメモにした。


1.規律ある人材

(1)第5水準のリーダーシップ

 P.58 L.8
世の中には2種類の人間がいる。第5水準の芽をもっている人ともっていない人である。第1の種類の人たちは・・・・・自分の死後にも永続するものを築く大きな野心のために私欲私欲を抑えようとは考えない。・・・・何よりも仕事で得られる名声や財産や追従や権力などに関心をもっており、仕事によって築き上げるもの、創造するもの、寄与できるものには関心をもっていない。

P.56 L.1
第5水準のリーダーシップの二面性
職業人としての意思の強さ
個人としての謙虚さ


(2)最初に人を選び、あとから目標を選ぶ

P.81 L.10
どういう人が「適切な人材」なのかを判断するにあたって、・・・・・性格や労働観、基礎的な知能、目標達成の熱意、価値観はもっと根深いもの。

P.82 L.14
厳格であって冷酷でない
冷酷とは事業環境が悪くなると人員を大幅に削減したり、普段でも・・・・気まぐれに解雇したりすることを意味する。
厳格とは厳しい基準をつねに組織内のすべての階層に適用し、とくに上層部に厳しく適用することを意味する。
厳格であって冷酷でないのであれば、・・・・・従業員は仕事に全神経を集中できる


2.規律ある考え

(1)厳しい現実を直視する

P.115 L.5
社外の現実ではなく、自分の顔色を心配するような状況を経営者が許していると、会社は凡庸になり、もっと悪い方向にすら進みかねない。・・・・・カリスマ的でない経営者の法が長期的な実績が良くなることが多い理由のひとつはここにある。

P.119 L.12
ウルツェルは典型だが飛躍を導いた指導者はみなソクラテスのような方法を使っている。質問するのは・・・・・理解するためなのだ。


ストックデールの逆説
P.133 L.8 
一方では、決して目をそらすことなく厳しい現実として受け入れ、他方では最後には必ず勝利するとの確信をもち続け、厳しい現実はあっても、偉大な会社になって圧倒的な力をもつようになる目標を追求している

P.136 L.12
「クリスマスにまで出られることなんてない。その現実を直視しろ」


(2)針鼠の概念

P.152
3つの円が重なる部分に関する深い理解


3.規律ある行動

(1)規律の文化

P.203 L.12
コッテージチーズを洗うのは小さなことではあるが、この小さな方法によって自分の力がさらに少し強まると本人が確信していることにこそ核心がある。この小さな方法を他の多数の方法に付け加えることによって、強烈なほど規律のある一貫した計画を作り上げているのだ。


(2)促進剤としての技術

P.243
技術は促進剤


4.弾み車

「どんな一押しで、ここまで回転を速めたのか?」
P.265 L.2
重要なのは、これまですべての押しであり、同じ方向への押しを積み重ねてきたことである。

P.284 L.7
弾み車に語らせる方法をとれば、目標を熱心に伝える必要はない。弾み車の勢いをみて、各人が判断してくれる。「これを続けていけば、すごいことができるぞ」。

P.292 L.6
第五水準の指導者は・・・・・・派手な方針を打ち出して「これぞ指導者」とみられることを望まない。考えぬかれた静かな過程によって弾み車を押しつづけ、誰の目にも明らかな「実績」を生み出すことに関心がある。


5.ビジョナリーカンパニーへの道

P.330 L.1
本当に問題なのは「どの仕事なら偉大さを追求せずにいられなくなるのか」だ。
「そこそこの成功で十分ではないのか」と問わなければならないのであればおそらく仕事の選択を間違えている。

①偉大さへの道を歩むほうが犠牲が少なく、おそらくは仕事の量も少ない。効率を高められる魅力がある。
②ほんとうに好きなことだからクロスカントリー・チームを偉大なチームにしたい


ジョン・ムリンズ『ビジネスロードテスト―新規事業を成功に導く7つの条件』英治出版

2009-08-02 23:15:07 | 経営戦略
ロンドンビジネススクール(LBS)のムリンズ教授は、自身がこれまでGAPの創業にも関わるなど3度の起業を体験し、成功している。その後、教授職に転職したのだが、今も数々の会社のコンサルティングなども行っているようだ。ムリンズ教授は日本で言えば、千本倖生のような人なのだろう。いくつかの注目されるベンチャー企業で成功しながら、MBAでも教えているという貴重な人だ。世界的な企業で成功し、LBSで教えているので、千本さんよりスケールが大きいかもしれない。
教室のなかで起業についてどれだけ教えられるのかは疑問がある。でもベンチャービジネスを教えるビジネススクールでは今やどこでもこの人のつくった7象限のフレームワークを詳しく解説しているようだ。

ムリンズは、市場と業界は違うという。市場は買い手で構成され、業界は売り手で構成される。この簡単な説明をされるとなるほどと思う。
ムリンズのフレームワークでは、まず事業を、縦に<市場、業界>、横に<ミクロ、マクロ>で区分し、4象限で分析する。
そうすると、<セグメントの魅力度><市場の魅力度><業界の魅力度><顧客の付加価値・持続的な競争優位性>の4つの象限ができるので、それぞれに評価する。具体的な顧客を意識するため、<セグメントの魅力度>から始めるのが大切らしい。確かに技術的に優れていても、顧客がいなくて失敗する例もある。
真ん中に起業家を<使命、熱意、リスク許容度><主な成功要因の実行可能性><バリューチェーン上での人的ネットワーク>の枠組みで評価する。
業界分析ではポーターの5Fが便利だという。この本を読むと、5Fの使い方もあらためてよくわかる。
ムリンズの枠組みで考えると、何となく起業を考えている人には、その道で進むべきか、あきらめるべきかなども考えさせることになる。スモールビジネスで成功したいのか、業界を変えたいのか、市場に新たなサービスを提供したいのか、何で成功したいのか。その条件を自分はもっているのか、チームで持つことはできるのか。そういうことを考えるため、この本は人生についても考えさせてくれる。

以下はこの本のエッセンスと思えるp.295の抜き書きである。

ムリンズ教授の考案したフレームワークで、顧客中心のフィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)を行うには以下の順序でのメモづくりを進める。

①ミクロレベルでの市場評価(ターゲットセグメントの魅力)
・ターゲット市場、その市場セグメントを構成する顧客の悩み、解決策がもたらすメリットを特定する。ここでは「メリットの提供と引き替えにそれなりの代価を支払う意思が顧客にある」という根拠を添える。
・ターゲット市場のセグメント、規模、成長率
・その市場が他のセグメントに向かって拡大する可能性

②マクロレベルでの市場評価
・市場全体の規模と成長率
・市場の将来性や魅力の評価についてマクロレベルでの動向分析

③マクロレベルでの業界分析
・5つの競争要因による分析:業界に魅力があるか?
・いい方向に向かう可能性

④ミクロレベルでの業界評価
・特許権に関する要素
・簡単にマネできないほど優れた組織プロセス、能力、資源
・ビジネスモデルの採算性
-売上予測
-顧客獲得・維持コスト、顧客一人を獲得するために要する時間
-売上総利益率
-必要な投下資本
-損益分岐点分析
-キャッシュフロー分析

⑤チームの評価
・ミッション、熱意、リスク許容度
・この業界のCSFを実現する能力
・バリューチェーン上での人的ネットワーク

まとめと結論
・このビジネスチャンスには、なぜ魅力があるのか(ないのか)? その根拠となる成功条件を1つ(多くても2つ)挙げる。

ビジネススクールで実務家が行う授業は、自分の成功・失敗体験に偏りがちだ。ムリンズのフレームワークが好まれるのは、個人的な体験より汎用性があるように思えるからだろう。単に錯覚かもしれないが。

千本倖生『MBA式会社の作り方』PHP研究所

2009-07-30 22:19:34 | 経営戦略
千本倖生という人を『がっちりマンデー』で見て、普通のおっさんのように思っていた。しかし、この人はベンチャー・マネジマントの分野で、実務家であり研究者でもある日本の第一人者である。ハーバード・ビジネススクールやバブソンカレッジの教授とのコネクションもあるようだ。
この本は、サラリーマンが会社を作るというストーリーで展開されていて、読み物風になっているが、基本的なことはすべて書かれているように思う。起業のアイデアの「import/export」「模倣」「得意分野」「キャリア」などなるほどと思う。市場の分析やマーケティングなどは5Fや4P、3Cなどを使うことも応用できる。しかしこのストーリーでは商社の新規事業としての会社立ち上げ事例が描かれているが、これは普通のサラリーマンにとってはあまり当てはまらないケースだろう。個人で起業するとほんとはもっと資金調達やなんかで苦労することになると思う。運転資金の確保などもっと切迫感のあるほうがよかったと思うが、最初からそういう生々しい話にすると誰も興味を示さなくなるもしれない。
これを読んだから起業家として成功するかどうかは別問題だとは思うが。

松林博文氏もこの本の執筆メンバーだったのか。さすが顔が広いなあ。

伊藤元重『はじめての経済学(上)』日経文庫

2009-05-10 13:55:57 | 経営戦略
大学の新入生が読む本だが、入門書はなんでも勉強になる。本当にわかっている人でないとよい入門書は書けないと思う。
この本は数式が一切ない経済学入門というコンセプトで書かれており、数式が嫌いな人にはよいかもしれない。
経済のトピックから経済理論を説明する展開だが、GDPの基本的な考え方などは企業の経済活動を考える上であたらめて勉強になる。
後半ではジョン・ナッシュのナッシュ均衡の理論などゲーム理論で経済行動を理解する方法なども書かれている。
アダム・スミス、マルクス、ケインズ、ハイエクという経済思想の流れから、マクロ・ミクロ経済学の解説など多岐に渡るテーマを対象にしているわりには本が薄すぎて、表面的な記述にしかならないのは入門書の限界か。

ジェイ B.バーニー『企業戦略論(中)』ダイヤモンド社

2009-05-03 15:28:57 | 経営戦略
リアルオプションとは、工場設備、流通ネットワーク、または技術といった実物資産に設定されるオプションである。例えば、ある企業が新規に工場を建設する際、その企業はその新工場を操業する機会を得るだけでなく、将来いつの時点かでその工場を拡張する権利をも得るのである。・・・・ある特定の投資が最終的に価値を有するかどうかが非常に不確実である場合、戦略的柔軟性を最大化する統治選択を考慮することが重要になってくる。
(p.34)

ファイナンスのオプションを戦略的意思決定に持ち込んだのが、リアルオプションだが、数量化することが目的ではない。不確実性が高い選択のなかで、意思決定の柔軟性とその成功の可能性を見える形にするために数量化するのだろう。
柔軟性のタイプには、遅延、成長、縮小、閉鎖・再開、放棄、拡張などのオプションがある。

中巻では「リアルオプション」が中心概念だが、第10章の「暗黙的談合」も面白い。

バーニーは競争戦略も戦略の一つに上げているが、ジョイント・ベンチャー、ライセンス協定、流通協定、供給協定とならんで、「談合」(明示的談合・これは違法と暗黙的談合)を取り上げて、その経済的価値や裏切りのパターンも解説している。
価格を軸に行われるベルトラン型裏切り、供給量を軸に行われるクールノー型裏切りにかかわらず、談合関係の裏切りは企業のパフォーマンスを低下させる「競争を強化する力」を解き放つことになる。(p.244)
そのため、「こちらは裏切らないよ」というシグナルを相手に送る投資行動として、4つを上げている。

・可愛い子犬作戦(puppy-dog ploy)  非攻撃的な立場を維持する 
・太った猫効果(fat-cat effect) 競合相手が脅威に感じないような投資行動をとる
・勝者の強気戦略(top-dog strategy) もし攻撃的な行動に出ると報復を受けると脅す
・飢えた狼(lean-and-hungry look) 攻撃的で戦略的投資を行う能力を保持し、相手のインセンティブを減少させる 

バーニーの戦略論の魅力は、企業戦略を業界構造、競合関係、財務、人的資源、組織など企業の内外を取り巻く環境全体から導く方法だろう。VRIO、リアルオプションなどのフレームワークという分析概念の枠組みだけでなく、現象を数量的に捉えることもいろんな場面で応用できそうだ。

ただ数量化の過程で意図をもって条件設定するときはきわめてあいまいな要素が入り込むのも現実だろう。

川島蓉子『ビームス戦略』PHP研究所

2009-05-03 15:27:44 | 経営戦略
セレクトショップのことをあまり知らないので、南馬越和義というカリスマバイヤーがどういう人かも知らなかった。ユナイテッドアローズとビームスとの関係もこの本で初めて知った。
ビームスはアパレル・流通業界のセレクトショップという印象だったが、今やライフスタイル自体を提案する会社になっていることがわかる。
アパレルのマーケット区分を年齢やテイストではなく、流行に気づくタイミングで区分し、「サイバー」「イノベーター」「オピニオン」「マス」「ディスカウンター」と呼ぶと、ビームスは「オピニオン」を中心に、「マス」の一部をターゲットにしているらしい。


ルディー和子『ウォルマート「儲け」のしくみ』あさ出版

2009-05-02 19:49:52 | 経営戦略
サム・ウォルトンが創設したウォルマートの出店戦略は今も変わっていないらしい。
(1)競合相手のいない田舎町に出店する
(2)利益よりも客数の確保
(3)広告費をかけずに上手にPRをする
(4)クリティカル・マス早期達成を目指す

その天才サム・ウォルトンは1992年に亡くなっている。しかし、ウォルマートはその後の成長がめざましかった。1990年1525店舗が2002年には4414店舗になり、売り上げは258億ドルから2198億ドルにもなっている。
この成功要因の一つは消費動向を捉えるITへの投資である。データウェアハウスと呼ばれるデータベースは国防総省並みの容量らしい。
サム・ウォルトンの自伝を読むとサムはITへの投資をためらっていたが、それでも通信衛星打ち上げを了承している。サム亡き後、ITへの投資に反対する者はいなかったのかもしれない。

もう一つが物流システムだろう。ハブ・アンド・スポーク、クロス・ドッキング方式などいかに商品切れを無くし、在庫を減らすかを考えて、テクノロジーの進化とともにシステムを発展させている。
これらはサム・ウォルトンを引き継いだCEOデビッド・グラスの功績が大きいらしい。この本でもデビッド・グラスは『中興の祖』と位置づけられている。

これほど大きくなったウォルマートだが、従業員を掌握するのにも力を入れている。
この本では4つの従業員掌握術が紹介されている。
(1)従業員を大切にしているという精神を形で見せる 
     → 従業員をアソシエートと呼び、年次報告書などで一番大事だと強調する
(2)会社の利益や売り上げに貢献すれば昇進のチャンスがある
     → パートタイマーから店長への登用など日本のスーパーも模倣している
(3)会社が成功して株価が上がれば自分の金銭的な成功につながる
     → 給与を抑え、ストックオプションを与えている
(4)共同体の雰囲気をつくる
     → お祭り騒ぎやイベントで熱狂させる

ディスカウントストアから、会員制クラブ、スーパーセンターなど業態の変化にあわせてウォルマートは成長してきた。
しかし、エンロン事件後、ストックオプションに頼る報酬制も問題視され、EDLPを支える低コスト・低価格販売も途上国の労働コストの上昇で低価格のPB商品の生産が危うくなっている。

国際戦略については、ドイツで失敗し、その教訓をイギリスとカナダで生かして成功した。アジアへは日本だけでなく、韓国、中国にも進出している。ドイツでの失敗はサプライヤーの把握、現地安売店との熾烈な価格競争、労働組合対策などであった。

西友の「KY=価格(K)、安い(Y)で行こう」は、日本版EDLP(EveryDay, LowPrice)戦略なのだろう。
アメリカでの発展と異なり、すでに成熟市場である先進国日本でウォルマートが成功するにはいくつものハードルがあるように思う。

島田陽介『なぜウォルマートは日本で成功しないのか?』カナリア書房

2009-05-02 19:45:31 | 経営戦略
ウォルマートに限らず、外国から日本に進出する流通業は、ほとんど撤退を余儀なくされている。なぜ外国流通業の日本進出は、「失敗」続きになるのかについて、ウォルマートを題材に著者なりの解説をしている。
多くの人々その理由を日本の流通の特殊性というが、著者の視点はちょっと違う。
ウォルマートがアメリカで成功した要因がそのまま日本にあてはまらないのに、同じ方法で成功すると思って進出するからだ。ウォルマートがアメリカで成功したのは、アメリカの消費者の生活スタイルにあった商品の提供を行ってきたからなのだ。アメリカの人口密度や気候、競合他社の参入状況も日本とは異なるし、日本の消費者と生活スタイルも異なる。ウォルマートの成功はアメリカ人の生活スタイルにあったアソートメント(品揃え)を徹底した結果であるので、日本では同じ法則が通用するとは限らない。

これまで日本の流通業者の多くがアメリカの流通業に学ぶために渡米した。しかし今や「学ぶべきもの」、「学んではいけないもの」があるという。
例えば、セブンイレブンがアメリカで失敗し、日本のセブンイレブンが逆買収したのはなぜか。1万点以上もある店舗の品揃えや商品の補充を本部主導でなく、各店舗主導型のデマント・チェーンを実行しているからだそうだ。

「すでにある」マーケットをねらうのではなく、「マーケットを新たにつくる」のが重要だとう。
アメリカにアメリカで新たな業態が生まれ、日本でコピーしては失敗する事例も多い。
アメリカに学ぶべきこと、学んではいけないこと、これは流通業界だけでなく、他の業界でも同じ事がいえるかもしれない。