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お気楽ビジネス・モード

ビジネスライフを楽しくする知恵や方法を紹介する

BUFFALO無線LANルータ WZR-HP-G301NH

2010-05-23 22:04:06 | デジタル・ツール
家のインターネット環境を改善するためにルータを換えた。

思えば引っ越した頃にISDN回線を引いて家庭内LAN環境を整えたのはよかったが、すぐに光ファイバーが普及したのでeo光ネットに換えた。家の中の回線は幸いカテゴリー5だったので、ISDNから光回線への変更に関係なくそのまま使っていた。そのうちに家の中で使うPCも増えて、有線LAN回線が取れない部屋では無線LANにするために、ルータの空きジャックに無線LANのルータを差し込んで増設した。たこ足配線でむりやり無線・有線LAN環境を作っていたのだ。

さらにzaurusにもつなぐため、無線の暗号化もしなかった。我ながら危ないことをするものだ。北朝鮮のスパイがいたらどうするのだろうか。機密情報は何もないが。

そうこうするうちにインターネットのサイトの重量化にルータがフリーズする回数が増えてきた。ほぼ毎日フリーズする。

そこで思い切って、無線LANと有線LANをひとつにするバッファロのルータに換えた。

昨日までのモタモタが嘘のようにスイスイつながるようになった。

回線の速度のスペックを見ると、
最大300Mbps(IEEE802.11n)、最大54Mbps(IEEE802.11g)、最大11Mbps(IEEE802.11b)
だそうだ。

光回線が100Mbpsなので、300Mbpsは全く意味がないのだが。

家庭内を見ても、PCの技術と通信技術の向上はこの15年でものすごい勢いだ。

さて、これからどうなるのか。

案外、家の中で無線LAN300Mbpsという速さの回線を使うのは、そう遠くない未来なのかもしれない。

ステファン・ロス他『コーポレート・ファイナンスの原理』金融財政事情研究会

2010-05-23 15:57:23 | 財務・会計
1300ページを超えるとにかく分厚い本である。それに高価なので第6版をアマゾンの古書で買った。今は第8版が出版されているようだ。

日本語訳もところどころわかりづらい。専門用語の知識が不足しているせいもあるのだろう。読んで理解するというより、読んだそばから忘れ、ただページを繰っているだけという感じもする。

リチャード・ブリーリーの『コーポレートファイナンス』は世界のビジネススクールでファイナンスのテキストに最も多く採用されているらしいが、この本もかなり有名な本のようだ。しかし前書きにはMBAの入門クラスまたは学部のファイナンスのテキストとしてふさわしいと書かれている。

さすがに分厚い本だけあって、コーポレート・ファイナンスのほとんどのテーマが網羅され、事例も多い。

例えば配当政策について。
モジリアニ・ミラー理論(MM理論)によれば配当政策と企業価値は無関係という理論が紹介された後、しかし、実際には・・・・と、配当課税とキャピタルゲイン課税の問題、投資家へのシグナリング効果、有力なNPVプロジェクトの有無、株価への影響などが論じられている。最後にアップルの事例が展開され、結局、配当政策に黄金律はない、というような結論だ。

デリバティブの章では、優先株を扱う事例で、ヨーロピアン・コール・オプションとしてブラック・ショールズ式の応用なども論じられている。
ブラックショールズ式はワラント債のオプション部分の計算にも必須なのでファイナンスの世界ではホッチキスかセロテープくらい当たり前の道具なのだろう。

ファイナンス理論は数式が多く、経営学の中では最も科学っぽい体裁である。
実際ノーベル賞を受賞した学者の理論もいっぱいでてくる。けれどそういう理論の多くは、実際の現場ではなく、完全市場など様々なノイズを取り除いた実験室の経済社会を想定して作られているものが多い。まあ、そうでないと数式なんかは適用できないとは思うが。

DCF法で企業価値を計算するときも、将来のFCFの条件設定で、減価償却額をどういう方法で算定するか、運転資本における売掛金をどう見積もるかなど恣意的な要素が多い。客観的と言うより希望などが入る余地が多い。経営全般が、投資家や顧客の心理で動いたり、経営者の好みや信条が反映される面も多いように思う。

日常的にファイナンス実務に携わっていない者にとって、基本的な理論を理解するには『道具としてのファイナンス』を繰り返し読むことが必要だ。そうでないとこういう本の原理的な部分が理解できない。理論をもとに実際の場面での応用をあれこれ考える。当てはまらない場合も多いと思うが、そういう積み重ねで理論と応用力が身に付くのだろう。

鈴木克明『教材設計マニュアル』北大路書房

2010-05-13 01:11:13 | 教育
独学を支援する教材作りのための本。

(1)教材をイメージする
(2)教材作りをイメージする
(3)出入口を明確にする教材の構造を見極める
(4)テストを作成する教え方の作戦を立てる
(5)教材を作成する
(6)形成的評価を実施する
(7)教材を改善する

というプロセスに沿って、ケースとして『釣り入門』という教材をつくる面白い構成である。

この本は教材作りの本だが、クリティカルシンキングの考え方とフレームワークがよく似ている。

ロジックツリー、プロセスチャートなどのフレームワークは、教材を構造化して考えることや教材の作成・評価・改善をプロセスで考えることにそのまま応用できるのだ。

クリシンっていろんなところで結構役立つ。

この本は入門書なので深みに欠けるが、考え方は企業研修などの設計でも役立ちそうに思う。

西田宗千佳『クラウドの象徴セールスフォース』インプレスジャパン

2010-05-09 17:49:33 | デジタル・ツール
最近、クラウドコンピューティングが日本で評価された事例は定額給付金や子供手当だ。これらの支給にセールスフォースのシステムを使った自治体があった。山梨県甲府市の場合だと同規模の自治体でオンプレミス(自社運用型)で処理したところと比べて2分の1から3分の1のコストだったようだ。インフラがもともと整っているので導入期間も短くできる。

クラウドコンピューティングは単純に説明すると、データやアプリケーションはネットの向こう側にあるコンピュータのシステムだ。こちら側にあるのはOSとブラウザとネットだけ。クラウドはこれからが本番なのだろうが、すでに日本でもこの原理を使ったサービスをGoogleやアマゾンが始めている。

セールスフォースは企業の営業支援ツールだ。顧客との商談などの情報を一元化して営業マンをナレッジマネジメントで助けるしくみのようだ。
この本に知人の社長がセールスフォースのユーザーとして登場している。ねじの商社というニッチな分野で成功している。あの人がこんな先進的なことを考えて、すでに導入していたのかと驚いた。

その社長は、何年も使い続けることを考えるとオンプレミスで同じシステムを構築した方がコストが安いかもしれないと言っている。このあたりはクラウドを使ったビジネスモデルの課題だろう。

セキュリティーも問題視されていて、大企業は自前でシステムを持つ傾向がある。ただこれまでの事例でも明らかなようにセキュリティー問題はシステム問題というより人的管理の問題が多い。その意味ではクラウドもオンプレミスも変わらないと思う。

大学でもクラウドと携帯電話を使って授業アンケートやミニッツテストを行うシステムを開発している教授と業者がある。一時的な処理をインフラの準備なしに行うことではクラウドはとても有効だと思う。

しかし、個人レベルのクラウド利用を考えると、ワープロや表計算などの作業をクラウドで行うイメージがわからない。アプリケーションのバージョンアップやメンテナンスの必要がないのでメリットはあるのだろうが。
ただ、スケジュール管理ではサイボーズはイントラネットでは使いやすいと思うが、Googleカレンダーなどを個人レベルで使うのは必ずネットがなければ成り立たないのが不安だ。ネット環境のない田舎に行くときなどは困る。

でもネット環境は飛躍的に整備されているし、そのうち通信料金も低価格になると思えるので、クラウドが当たり前の時代が来るのかもしれない。


夏目剛『一兆円を稼いだ男の仕事術』講談社

2010-05-08 22:59:01 | 仕事術
夏目氏の経験則から感じる成功の要因は、才能10%、努力20%、運70%らしい。
運70%というのが面白い。
チャンスの女神に後ろ髪はない。毎日全力で仕事に取り組むことでチャンスに巡り会える。
人生経験からこの実感が大きいようだ。

本当に自分はこれ以上できないといえるほど頑張ったのか、といつも問い直す。など当たり前だけれども、実行するには難しいことがいくつも書かれている。

夏目氏はドコモでもよくケンカをしたので「タケナカ大臣」と揶揄されていたらしい。仕事で譲れないときの3原則というのがあるらしい。
①自分が成功を確信していること
②論理的に筋道、理屈が通っていること
③社会、会社のためになっていること

夏野氏は、一浪のあと早稲田大学政経学部に入学し、卒業後、東京ガスに入社。在職中にウォートンスクールに留学し、MBAを取得した。その最中にインターネットでビジネスが変わるという授業で衝撃を受け、帰国後ITベンチャー企業に移る。倒産間際にNTTドコモに移り、iモードの立ち上げやFOMA事業の立て直しなどを行った。11年後に退社し、ドワンゴなどの会社の取締役や慶応大学のビジネススクールで教えている。
離婚経験も一度ある。現在は妻と2女。失敗から学ぶ人らしい。失敗は大学受験失敗、離婚、ベンチャー企業・ハイパーネットの倒産など。まだ45歳と若いが、人生の密度が違う。この人から学ぶことがたくさんあるように思う。

仕事は利益のみより社会的に役立つことなのかどうかが最も重要という。
しかしニコニコ動画を黒字化するが目下の仕事らしいが、ニコニコ動画に社会的貢献の意義がほんとうにあるのだろうか、という疑問はある。夏目氏は東京ガスに始まって一貫してインフラに興味があったらしい。東京ガスはガス供給網、ハイパーネットはインターネット接続インフラ、ドコモが携帯電話のインフラ。ニコニコ動画もYouTubeと同じく無料動画配信のインフラと考えると意義があるのか。

夏野氏をドコモに引っ張った松永真理さんとの出会いは人生において大きかったようだ。松永さんは元リクルートの編集者で夏野氏が学生時代にリクルートでアルバイトをしていた頃からの知り合い。この本では何度も何度も自分の人生は松永さんにドコモへスカウトされたことで変わったというフレーズが出てくる。感謝してもしきれないということか。

夏野氏のMBAについての考え方には共感する。MBAは有益だがあくまで道具である。それを使って何をしたいのかが大事。MBAの知識は最低限のレベル。何でもわかっているわけではないので、その後の研鑽が重要。

夏目氏は失敗から学び、いつも前向きに生きているので、この本は読んでいて元気になる。楽天の三木谷氏の本と同じような読後の爽快さがある。ただ三木谷氏より人生の悲哀も感じる。

本とは関係ないが、この人のtwitterは本数こそ少ないが質は高い。

村上春樹『1Q84 BOOK3』新潮社

2010-05-05 22:10:26 | 文学・小説
とてもおもしろい小説なのに一日で読んでしまった。

楽しい時間は持続したいので、よい小説は時間をかけて読むことにしている。
けれど、おもしろすぎたので、読み進めていたら一日で読み終わってしまったのだ。

読後感もとてもさわやかだ。
よくある「次号に期待!」というようなハリウッド映画の作り方とは違う。

今年この小説に出会えたのをほんとうに幸せだと思う。


村上春樹の小説に大げさなテーマなど求めるべきではないのかもしれない。

けれどこの小説には恋愛やミステリー、あるいはSF小説としても楽しめるストーリーのおもしろさとは別にテーマがあるように思う。


「いったん自我がこの世界に生まれれば、それは倫理の担い手として生きる以外にない」

ヴィトゲンシュタインが言った言葉としてこの台詞をタマルが青豆に言う。


同じような意味のことを、実存主義では、現存在が世界に開かれた可能性をもつというような意味で「投企」という概念を使っていたように思う。確かハイデッガーの概念だ。


人間はこの世に生を受けた運命、歴史、人間関係、その他いろいろなことを受け入れなければならない。
人間は歴史的必然ではなく、この世界に投企される。
生きる意味は自分でつくるのだ。

そういう当たり前のことを作者は伝えたかったのではないだろうか。

家族や遺伝など血として宿命的なことと、愛情の欠如や絆のない関係という対立する世界がこの小説で描かれている。

サザエさんのような家族的な幸福に恵まれている人物は一人も登場しない。
みんなが何らかの欠如によって、孤立し、孤独のなかで生きている。


小説の最後で、天吾と青豆が見る世界の月は2つでなく1つになった。

けれど、また新しい秩序がある世界に来ただけかもしれない。
過去の世界にあった危険はないが、おそらくこの世界には新たな危険があることを予感している。


BOOK3に出てくる登場人物にもまだまだ不可解なところがある。
空気さなぎ、リトルピープルとは結局何を意味するのか。

これはおそらくBOOK4やその次の作品で描かれるのだろう。

その前に村上春樹が生き続けているのかどうか。

例えば、村上春樹が作品を完成させる前に亡くなっても、読者の一人ひとりが自らの小説を書けばいいのだろう。
そういうことを言いたかったのではないのだろうか。

まあ、小説を楽しむことにおいて、作者の真の意図などどうでもよいことなのだが...。




小説のストーリーとは直接関係ないことで気になることもある。

タマルが牛河を拷問しているときに、ユングの言葉を繰り返させる。
ユングが湖畔に自ら建てた石の家に刻んだという「冷たくても、冷たくなくても、神はここにいる」という言葉だ。
この言葉が妙に気になる。
拷問している最中という場面を考えると、心理学者の生活のことを持ち出すなど不自然だ。けれど、この言葉は何度も同じ章に出てくる。

『1Q84』は現代の宗教をひとつの題材にしており、神、生、死などを考える上でキーとなる言葉のつもりなのだろうか。


音楽ではBOOK1・2と同じようにヤナーチェックのシンフォニエッタが出てくる。

牛河がバスタブで聴くシベリウスのバイオリン協奏曲は、ちょっと風呂場に合わないと思うがどうなのだろう。
けれどきっとCDで買う人が増える。

こういう小技を入れるのも村上春樹の小説がベストセラーになるひとつの要素なのだろう。
そういえば、小説にでてくる料理や音楽を研究した本も出ているらしい。

小説を読む楽しさとはあまり関係ないと思うが、村上春樹の小説が100万部も売れるのはいろんな要素が詰まっていて、いろんな楽しみ方ができるからなのだ。

世界はそれでいいのだ。

伊藤元重『はじめての経済学(下)』日経文庫

2010-05-03 21:07:17 | 経済・金融
経済学の入門書。難しいことをやさしく説明するのはなかなか骨が折れるのだろう。
主に国民経済などマクロ経済学に関することが説明されている。
そのなかに貨幣の機能や年功序列制と人質などミクロ経済的なトピックも混ざっていて、概論を理解したいひとにはちょっとごちゃごちゃした印象。

伊藤教授の本では『吉野屋の経済学』がやはり一番おもしろいと思う。

森生明『MBAバリュエーション』日経BP社

2010-05-01 20:02:30 | 財務・会計
1年ほど前に読んで記録するのを忘れていた。
内容はほとんど忘れていまい、確かマルチプルに詳しかったなあ、という印象しか残っていなかった。

あらためて折ったページを読み返すと薄い本なのに内容が深い。

実際にデューデリジェンスの実務に携わっている人の本だけあって、ファイナンスのテキストの常識とは違う視点を感じる。

企業価値評価について4つのステップの解説がある。

ステップ1:向こう5年間の事業計画が基本
ステップ2:最終年度における企業価値は類似会社から
ステップ3:類似取引事例で評価額を検証
ステップ4:企業価値を会社価値に修正

ステップ1:向こう5年間の事業計画が基本

「事業計画は3年でも10年でも構わないが、M&Aの場合、当初2年ほどは新体制の整備期間、3年目から買収効果が数字に表れ始め、5年くらいで安定軌道に乗るというのがイメージしやすい計画なので私は5年を好んでいる」
「経営陣の作成した事業計画は・・・前提の甘いところ、厚化粧をしている部分は厳しく質問して確認した上で、無理のないものに修正する。売り手と買い手が共通の土俵を持つことができればDCF方式は合意点を見いだしやすい」

ステップ2:最終年度における企業価値は類似会社から

「ターミナル・バリューの算定には類似会社比準方式(EBITA倍率ないしEBIT倍率)を用いる。収支予想期間が5年なら5年後に株式公開または会社売却をして投資回収すると想定して、5年後のその会社の類似会社のものを使う」
「永久還元の定義式は成長率gをどう置くべきかで価値が振れるし、売り手と買い手で水掛け論になる可能性が高い」

ステップ3:類似取引事例で評価額を検証

「先の2つのステップのキャッシュフローとターミナルバリューの現在価値が企業価値となるが、この評価額をもとに足元の実績・予測数字を使ってEBIT倍率やEBITADA倍率を逆算してみる。・・・類似会社と比較し、プレミアムの水準を検討する。高いプレミアムの場合、収支予想の前提に問題があるか、類似会社の選び方に問題がある可能性が高い」

ステップ4:企業価値を会社価値に修正

「こうして算定された企業価値は裸の企業総価値なのでネットデット分を調整する。ネットデットを差し引いて余剰のキャッシュがBSにのっていればその分価値が上がり、逆に借入金を引き継ぐならその分を差し引く」

実際の手順の過程では、売掛金に回収不能、販売不能分がないか、有形資産・無形資産の簿価と時価の差、繰延資産に含まれる本来の費用、貸倒引当金や退職給与引当金の適正な積み上げ、BSにのっていないリース債務などを調査することなどが書かれている。実務では参考になるのだろう。

後半にはM&Aをめぐる国民性問題やM&Aの歴史な問題の考察もあってバリュエーションの奥の深さを感じる。

星薫ほか『心理学入門』日本放送出版協会

2010-04-29 09:48:17 | 心理学
『心理学入門』を読んでいると、論文発表や実験実施の年が気になる。自分が大学を卒業した後かどうかでその研究が古いのか新しいのかの判断をしてしまう。1985年の研究でももう25年近く前になるのに「新しい研究」などと思っている。それでもピアジェやパブロフ、ワトソン、スキナーなどの研究はまだテキストに載っている。心理学のパラダイムは基本的には劇的な転換はしていないようだ。

今はやりのヒューリスティックもアルゴリズムとの対比で説明されている。ヒューリスティックが判断を曇らせる例として、信念バイアス、アンカー効果、受け入れバイアスなどがある。うーん、こんな薄い本でも勉強になる。

心理学の概論書が昔と違うのは臨床心理の分量が増えたことか。その他の分類はあまり変わっていないように思う。どんな分野でも入門書、概論書はできるだけ多く読んで今の相場観を捉えるのが大事だ。

大森不二雄【編】『IT時代の教育プロ養成戦略』東信堂

2010-04-29 09:39:29 | 高等教育
インストラクショナル・デザイナーと呼ばれる専門職がある。教育の効果・効率・魅力を高めるシステム的方法論の専門家だ。アメリカやカナダ、韓国、シンガポールなどで活躍し、eラーニングの量的普及と質的向上に寄与している。英国では公的な資格になっている。その専門家を日本で、それも国立大学で育成しようとしているのが熊本大学大学院だ。この本はそのスタッフたちがインストラクショナル・デザイナーとはどういうものか。eラーニング支援者をめぐる欧米やアジアの動向、企業の社内教育におけるeラーニングなどを解説し、熊本大学はインストラクショナル・デザイナーをどうやって育成しようとしているのかを紹介している。

通学制の大学院なのに、フルオンラインでカリキュラムを編成しているのも画期的だ。カリキュラムはID(インストラクショナルデザイン)、IT(情報通信技術)、IP(知的財産権)、IM(情報マネジメント)の4つで構成されている。

この本の中ではIMの分野で江川准教授の論文がとくに興味深い。

・・・大学という組織はフラットなネットワーク組織組織であり、とくに国立大学は部局(学部、研究科等)が大学事務局機能に連邦国家のようにつながっている特徴がある。この組織は権限が機能別に分散され分担される一方、「原始民主主義」とも呼べる権限と責任を全員が平等に保持した形態か、あるいは学長・理事長など一部のマネジメントにだけ集中したオーナー集中型の形態になりやすい。そのため、一般の企業のようなシステマティックな意思決定ではなく、全員合意もしくはトップによる独断という意思決定が行われる。大学における組織マネジメントの仕組みは教育サービスを提供するという点で効率的に機能していないのが現状である。部局間平等主義や前年実績主義が根強く、実質的な意思決定がなされていない。企業型マネジメントへの全面的意向でも文部科学省による競争原理の導入でもない「第三の道」を模索していく時期だろう。・・・

教育におけるオペレーションマネジメントについても述べている。

・・・教育におけるオペレーションマネジメントはサービスの戦略構築やマーケティング立案にたいしてその実行をマネジメントすることが対象である。効果的なオペレーションを実現することで、サービスとしての教育の付加価値やコスト・パフォーマンスはアップし改善され続けていく。特にQCD(Qualitu;Cost;Delivery)と呼ばれるプロセスが重要であり、カリキュラムの品質管理、労力やコストの効率化と適切な配分、あるいはサービス提供のス
ピードやタイミングの最適化といったことが検討される。このようなオペレーション・マネジメントを実現するためには教育現場の徹底した「見える化」が不可欠。指導計画や学習者の理解度調査、アンケートなどを図やグラフ化するだけではない。それらから導かれる問題点や情報の共有化を行い、組織としての能力向上にならないといけない。今後はどうやってそれを実現するかが課題である。・・・

こういう画期的な教育プログラムが国立大学で実施できたのは、アメリカで教育を受けた日本のIDの第一人者である鈴木克明教授の存在とこの本の著者である大森不二雄教授の政治力が大きな要因だろう。
大森氏はもと文部官僚だが、ゆとり教育が推進されているときにそれを批判する本を出版して話題になった経歴の持ち主である。こういう人を受け入れるパワーが国立大学のなかにもあるのだと感心した。