あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

画鬼 暁斎 ・三菱一号館美術館

2015-08-23 16:14:45 | 日本美術
 
 三菱一号館美術館で、画鬼暁斎展が開催中です。
 暁斎展のサイトはこちら
 「狂っていたのは、俺か、時代か?」
 画鬼 暁斎 
  幕末明治のスター絵師と弟子コンドル

 この展覧会タイトルからも熱気が帯びてきます。

 いつの頃からか、暁斎と聞けばすぐに反応してしまう御贔屓絵師となりました。
 おかげで河鍋暁斎にかんする本もたまってきましたが、
 「河鍋暁斎」ジョサイア・コンドル著 山口静一訳 岩波文庫
 「もっと知りたい 河鍋暁斎 生涯と作品」 狩野博幸著 東京美術
 
 この二冊が最強のガイド本として側にあります。
 また、最近の芸術新潮7月号、 
 美術手帖7月号 がそれぞれ河鍋暁斎を特集しました。


 
 かの、画伯、山口晃氏の「へんな日本美術史」においても
 「一人オールジャパン」の巨人ー河鍋暁斎
 と、彼の巨人さをひとしきり熱弁をふるい、
 文章にも鼻息が荒く力がこもっていました。
 
 東博でのプライスコレクションでもうまいなぁとため息が出た
 一枚の絵が展示され、印象深く記憶しています。
 今年はダブルインパクト展や、今も開催中のうらめしや~展でも
 芸大美術館が暁斎作品をピックアップしました。
 同時に東博で「花鳥」や
 「地獄極楽図」を展示しました。






 その度に暁斎作品を見るとアドレナリンが活発化します。
 画力の自由さ、巧みさ、色遣いのツボを知り尽くし、
 見る人の喜びを知っている、画題もセンセーショナル。
 一枚の絵の物語が必然と目を集めてしまうのです。

 三菱一号館美術館では9月6日までの会期、
 是非とも沢山の方に暁斎の画鬼を才能にため息をもらして欲しいものです。

 1暁斎とコンドルの出会い
  そもそもこの二人が出会ったのは暁斎がすでに50才を超えていた頃、
  上野で開催された「第二回内国勧業博覧会」に4点の作品を出品した年。
  その会場はコンドルが設計したもので、宮内庁の役人を通して
  暁斎を紹介されたようです。
  その時に展示された、「枯木寒鴉図」も三菱一号館に出品されました。
  これが百円の高値を付けて顰蹙を買った後、日本橋榮太郎の主が
  その値で求めたのが大評判となった物議醸し出した一作です。
  コンドル29才、暁斎51才でした。
  三菱一号館も彼の設計によるとなれば、
  ここでの師匠と弟子による展覧会は想像以上に
  意義深いものとなるはずです。
  三菱一号館美術館開館5周年祈念にふさわしい企画だと思いました。

 2コンドルー近代建築の父
  コンドルは明治10年に来日します。
  24才の若き建築家です。
  日本で工部省造家学科教師、官営建造物設計施工に従事しました。
  コンドルは建築家になる前に画家になりたくて
  美術学校に通っていたそうです。
  暁斎はコンドルを大変気に入り、「暁英」という名を与えます。
  コンドルも弟子として稽古に精を出し、真面目な絵を描きました。
  当時励んだ、コンドルの絵をみると、彼の誠実さが見えてきます。
  また、日本の芸事に大変興味があり、歌舞伎、踊り、いけばなも学び、
  造園や、いけばなの本も出したのだそうです。
  器用で才能ある人は何をやっても形にしてしまうのだなぁと感心しきりです。
   
 3コンドルの日本研究
  それらの成果がここで紹介されます。
  展覧会で受賞した作品「鯉図」は暁斎の薫陶輝くものでしょう。
   
 4暁斎とコンドルの交流
  暁斎のつけていた絵日記で日常の姿が垣間見えます。
  楽しそうにスケッチの旅に出かけたのでしょう。
  写真家、小川一真との交友もあり、欠かせない人となったようです。
  「大和美人図」の写真を小川が撮り、精緻な木版になりました。
  コンドルコレクションとなった作品が紹介されます。
  「鯉魚遊泳図」鯉の正面の顔を絵画で初めて見ます。
  コンドルの「河鍋暁斎」にもこの鯉のスケッチのことなど詳細に
  記してありました。
  コンドルコレクションの中の頂点にある、
  「大和美人図屏風」を間近に見ることができて
  大変喜びました。本当に極彩色で緻密で綺麗でした。
  静嘉堂所蔵の「地獄極楽めぐり図」を見る機会を逃しましたが、
  また、いずれ時を待ちたいと思います。
  
 5暁斎の画業
  1英国人が愛した暁斎作品
   今回初めてメトロポリタン美術館所蔵の暁斎作品が展示されました。
   さすがのコンディション、素晴らしい絵が所蔵されています。
   これを見ることができるだけでも意義深いものと思います。
   特に動植物の緻密微細な作品が多く展示されました。

  2道釈人物図
   毘沙門天、布袋、白衣観音、中国の神仙、鍾馗、
   龍神、風神雷神、などなど歴史のヒーローヒロインが
   続々と現れました。
   どの作品も空中間が素晴らしく、
   「風神雷神図」は狭い幅の中に勢いある風神雷神が浮かび上がり
   迫力満点でした。
   
  3幽霊・妖怪図
   このコーナーは暁斎の真骨頂でしょう。
   「九相図」は人が死ぬとこんな姿になってしまうという絵姿。
   死体を描くことは暁斎の幼い頃からの癖でもあるようで、
   執着が半端ではないことを感じます。
   上部木の枝に描かれるはずの鳥に色がつかなかったところがあって、
   それも興味深く観察に励みました。
   百鬼夜行や、妖怪の並ぶ屏風にはどこかしらユニークなふふ、
   と笑いを招く楽しさがあります。

  4芸能・演劇
   以前、三井記念美術館で「河鍋暁斎の能・狂言画」展が開催されました。
   その時に初めて暁斎が能を稽古していたことを知りました。
   猿楽、三番叟や、高砂、石橋、熊野、など、能舞台を描いていたことに
   驚きました。
   演劇を学ぶことによって得た人の動きや衣裳、小道具などの表現は
   自分の画力を上げるために一つも無駄にならないのです。
   團十郎や、菊五郎との交流もあったそうです。
   ここでは河竹黙阿弥の「漂流奇譚西洋劇」をパリス劇場で公演するときの
   表掛かりの場、が展示され、仕事は日本に留まっていなかったのでした。
   
  5動物画
   メトロポリタン美術館所蔵品からもわかるように、
   暁斎は動物がとても得意のようです。
   猿の毛の表現の凄さには猿を得意とした森狙仙をしのぎそうです。
   「月に狼図」のぎょっとしたくわえものには驚かされましたが、
   時として生首を登場させるのがお好きだったように思います。
   幼い頃から生首に執着があったからでしょう。
   
  6山水図
   今回、一番驚いたのが、この山水図作品群です。
   暁斎の静かな山水図を初めて見たように思います。
   さすがに狩野派に学んだだけのことはあります。
   しっとりとした山村の佇まいにきっちりとした
   狩野派が潜んでいるようでした。

  7風俗・戯画
   暁斎が幼い6才の頃に入門したのが狩野派ではなく、
   浮世絵師、国芳だったということ、これが彼の絵心の
   奥深いところに絶え間なく潜んでいるように思います。
   国芳が師匠で浮世絵を学ぶ、狩野派にも入門し、山水も描く、
   その学べる環境があったこと事態が今思えば奇跡のように思えます。
   師匠国芳は猫を沢山描いてきたが、
   暁斎はそれを蛙としたようです。
   あちらこちらに蛙が登場します。
   ユーモア精神旺盛な戯画作家としての作品は
   既に有名な暁斎さん。
   浮世絵も抜かりはありません。
   「放屁合戦図」の愉快なこと、ばっちいこと!!
  
  8春画
   今回初披露の春画コーナーがお目見えしました。
   日本の春画は先にロンドンでも展覧会が盛況だったニュースがありましたが、
   国内での展示にはいささかハードルが高いのが現状で、
   色々物議をもたらすことがあるようです。
   三菱一号館、頑張ったのでしょう。
   秋には細川の殿が永青文庫で春画展を旗揚げされます。
   昔の方がそんなことオープンで、猥雑だったんですけれどね。
   暁斎の春画はほのぼの系で、熟年女性もしっかりご覧になっていました。
   取り扱い注意に躍起になるのはそれだけ魅力と毒があるということなのでしょう。
   
  9美人画
   さぁ、暁斎作品、見過ぎて目が痛く、疲労感も出てきます。
   ラストに美人画で気合い入れ直します。
   どの作品も本当に女性の美しい様子がしっとり描かれていて、
   女性の物腰の柔らかさや、まなざしの美しさにうっとりします。
   遊女たちからも私を見て、という媚び、挑発がなく、
   そこがとても清々しい姿に映るのです。
   そして、暁斎は赤の使い方が大変巧みだと感じました。
   毒々しい赤もピリッとした赤も情熱の赤も
   大変効果的な使い方をすると感心しています。

 それにしても大変な展覧会ですが、
 いっぺんに暁斎を見てやろうなどと思ったら知恵熱がでてしまいそうです。
 山下祐二先生曰く、「暁斎スピリットを継ぐのは誰だ?」の視線を
 山口晃氏に投げかけつつも、
 威勢のいい脂ぎった大酒飲みで監獄入りもものともせず、
 川に流れ着いた生首をひっさげて怒られる幼少期をもって、
 ひたすら執念深く絵を描くことに拘った人生は
 なかなかこの現代にあらわれるかどうか、と暁斎おじの弾けた
 出っ歯に想いを投げかけるのでした。

 9月6日までの会期末が見えてきました。
 そろそろ混雑してきそうです。
 何でも描いてしまう暁斎と、その弟子、コンドルとの交流に
 ぜひ、注目して頂きたいものです。 
 これからも、暁斎の仕事、注目していきたいと思っています。 



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