あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

蔡國強展:帰去来 ・横浜美術館

2015-08-01 23:02:49 | 美術展

 蔡國強というアーティストをなんとなく気になる人として
 インプットしていたので、
 久しぶりに横浜美術館まで出かけてきました。
 北京オリンピックの開会式で会場に花火でつくられた足跡が
 ずんずん進んでいく空中ショーに魅せられたことが新しい記憶でしょうか。
 
 某テレビ番組でたけしさんと共演し、たけしさんも作品創作に加わったりして、
 火薬を使って火の燃えた跡を絵画に使うといったら、
 蔡國強の作品だと深く認識しました。

 爆音のとどろいた後、火薬が燃え、そして即刻消火されていきます。
 一瞬の火の痕跡は人為の力では及ばない力が生まれますし、
 蔡國強氏の作為によって仕組まれるわけですが
 火薬が爆発する瞬間は火の力にゆだねるしかないのです。
 それだけでもエモーショナルでドキドキさせられます。

 みなとみらい駅から直結状態の横浜美術館。
 上野から熱海行きに乗り込めばあっという間の横浜でした。
 目の前に広がる横浜美術館、前庭の両サイドが工事中で、殺伐感はありましたが、
 入館して目の前に巨大な墨絵のような壁画が現れると
 ただ見上げて引き込まれて見入ってしまいました。

 「夜桜」

 こちらの作品だけは思う存分カメラを向けることができます。
 iPhoneで撮ってきましたので、ご紹介しますが、
 迫ってくる大きさはぜひ目の前で確かめて欲しいものです。











 チケット売り場で夏休みとなった中学生の男の子たち、5人ぐらいのグループに
 係りの方が入館時の注意を丁寧にしていることを
 ほほえましく見ていましたら
 第4室は大人しか入れないところなので、入らないでね、
 え~~~~!
 というやりとり。
 最近はこの辺のアナウンスも微妙ですが、館側の立場も
 あるのでしょう。
 男の子たちは文句たらたらながらもしょうがないと諦めたようす。
 
 その第4室は「人生四季 春、夏、秋、冬」
 が展示されています。
 一作品が横 648センチ、縦 259センチもある巨大作品です。
 男女の営みが春夏秋冬に描き分けられていますが、
 何処が性的表現なのか、と思うほど、粘着性がありません。
 色の移り変わりが四季の移ろいとリンクして、
 二人のあり方にも変化が生まれているようです。
 生命体ならば皆、そういった営みが繰り返されてきたのです。
 悪徳と紙一重にあるところにある健全性はどうしたら守られるのでしょうか。
 ほのぼのとした自然体の健全なあり方を感じました。

 展示室を移動すると
 また目眩のする作品が壁一面に。
 こちらも「春夏秋冬」
 磁器タイルに火薬が撒かれている、それだけなのですが
 緻密極細超絶技巧をきわめた磁器の自然界の表現に息をのみます。
 菊の花弁一枚一枚の薄い重なりをどうやってやきものとして
 制作してきたのでしょう??
 日本美術の花鳥風月に描かれる動植物たちが共演していますが、
 微細な陶器の表現と黒く影を落とす火薬の墨色が
 死生観にも繋がるようで繊細でデリケートな命を思います。
 展示室の中央の高い天井からは朝顔の蔓が地上に舞い降りてきます。

 琳派の継承を感じます。鈴木其一が現代作家だったら
 このような表現をしたかも知れません。

 作品の間にはビデオが流れています。
 エントランスの「夜桜」に火薬の火がついた現場の映像や、
 蔡國強、その人を多方面から紹介する映像それ自体が
 「帰去来」を示しているようでもあります。

 圧巻は狼の99匹の大群が占拠した展示室6。
 「壁撞き」
 99体のオオカミたちが大挙して一番奥のガラスの壁に向かって突進し、
 そしてぶつかり、なだれ崩れおち、そして
 また立ち上がる、一連のループを横長の展示全体を使い切って
 動き回ります。
 これは見えない壁に向かう勇気、チャレンジ精神、それに
 ぶつかった後の立ち上がる奮起、諦めない気持ち、
 そんなわき上がるものが充満しています。
 オオカミたちのなかで、誰かが一声遠吠えすると
 威勢良く立ち上がり、飛び上がり、空中を行進し、
 壁へと向かうのです。
 まるで剥製のようで、つい触りたくなってしまいますが、
 鉄の芯に藁などで身体をつくり
 表面の毛皮は羊のものを着色したものだと教わりました。
 群れの中のおきにいりオオカミを見つけるのも楽しいことかも知れません。
 この作品がドイツ銀行のものと知るのも興味深いものでした。
 
 彼らのタフな生き様、エネルギーをもらって、
 また「夜桜」見下ろすとまた違って見えてきます。

 蔡國強というアーティストの地球サイズの活動と、
 中国に生まれたというアイデンティティ、
 火薬武器をアートに、東洋的美的感覚、
 現状の世界の混沌にアートの繫がりで体温のつきあい方を目指し、
 その中で火花を散らすのは深い愛情のあり方なのかも知れないと
 スケールの大きさに圧倒されながらもすがすがしさを感じたのでした。
 この空間から溢れるエネルギーを浴びる体験を、
 お勧めしたい展覧会です。

 同時に横浜美術館のコレクション展を見ることができます。

 これもまた大変なコレクションで、
 気になったところだけピックアップします。
 コレクション展はカメラOKなので、鑑賞の楽しみもふえます。
 
 ・ダリ ガラの測地学的肖像



     幻想風景ー暁・英雄的正午・夕べ







 ・北脇 昇  眠られぬ夜のために



        自然と人生



 ・藤田嗣治 腕を上げた裸婦



 ・中村 宏 観光帝国
 




 ・荒川修作 作品



 ・宮崎 進 俘虜

       精霊の踊り
  
       沈黙




 ・下村観山 ラファエロ「椅子の聖母」模写


   
       ミレイ「ナイト・エラント」模写



 ・平櫛田中 帰去来




 ポール・ジャクレーと新版画

 ・ポール・ジャクレー


















  
 ・橋口五葉 髪梳ける女



    
      化粧の女




      夏衣の女




 ・伊東深水 十五夜



       洗い髪



 ・山村耕花 段四郎の鉄心斎




 最後にまた「夜桜」を。
 裏側も2階から間近に見ることができました。









 横浜から世界へ発信するスケール感を
 ぜひ体感してみて下さい。
 
 10月18日までのロングランです。

 久しぶりの横浜美術館をすっかり堪能してご機嫌良く英気を頂戴し
 また帰路は順調かと思いきや、
 車両点検などに引っかかり、あれやこれや乗り継ぎをし
 時間稼ぎをしながらの帰宅となったのでした。
 そして私も、はるばると「帰去来」(かえりなんいざ)したのでした。

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