あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

野中ユリ 美しい本とともに ・神奈川県立近代美術館別館

2013-08-15 16:04:35 | 美術展

 野中ユリ、その人の作品には澁澤龍彦のまわりをうろちょろしていると
 ひっかかってきます。
 去年、千葉の川村美術館で開催されていた
 「FLOWER SCAPES」展でも
 思わぬ独立コーナー出現に感嘆しました。
 その図録も丹念に美しく仕上がっていてお気に入りの図録となりました。

 あぁ、野中ユリ展が神奈川の近美で開かれるのかと、
 ワクワクしていましたが、
 なにしろ、鎌倉ですから道連れをお願いしないとちょっと遠方で一人では
 心許ないと思っていたので、
 旧友のお盆休みを狙っていざ鎌倉となったわけです。

 松田正平展で癒やされながらも
 まだまだ太陽光線の容赦ないじりじりにふーふーいいながら
 緩いカーブの坂道を上がっていくと
 神奈川県近美、に行き当たります。

 解放感ある近代建築。
 
 夏空に大高正人の建築が切り立った岸壁のような岩の塊が両翼を広げています。
 対を成すかのように本館の建築とどことなく類似をみます。

 初入館が野中ユリ、というワクワクも嬉しいものです。

 一階で受付し、荷物をコインロッカーに収めて
 クールな線に囲まれた階段を上がります。

 会場は左右に展示場が広がり、左から大体年代順に並んでいるとのこと。
 川村美術館で見たものがあっても、
 場所が変わると初見のような新鮮さがあるものです。

 野中ユリ展は2002年に鎌倉館で「透きとおったゆめ、野中ユリ」という展覧を
 開催したそうですが、残念ながら見ていないので、
 私のとっての初個展を見る気持ちなのでした。

 野中ユリ、その人の作品からは
 挿絵作家という範疇ではない、もっと広く高く深く謎めいた宇宙に生息するものと
 甘美な言葉で語り合ってきたその残像を切り取って、
 その欠片を精神世界の地図に美麗に標本する、
 コラージュのミステリアスが最大の魅力です。

 初期の銅版画から、デカルコマニー作品も見ることが出来ます。
 「妖精たちの森」シリーズに作家のことばが一段と光ります。

   翔ぶものと地に這っているもの
   すぐ近くにいるものと最も遠いもの
   のびあがるものとみつめているもの
   成長するものと消えていくもの
   ただよっているものと動かないもの
   光をつくるものと捨てられる側にあるもの
   そして、同時にそれらのすべててもあるものに
   この本を贈りたい。
   たぶん<妖精>というのは、そのようなもの
   にあたえられた名前の一つであろうから。 Y.N
      
   (野中ユリ「野中ユリ画集 妖精たちの森」あとがき、1980年)

 彼女の近くに美術評論家の瀧口修造がいます。
 シュールの香りは当然で、澁澤龍彦、寺山修司、種村李弘、巌谷國士、
 そんな人びとが繋がります。
 
 作品の中には
 ランボー、ボードレール、に捧げている作品もあります。

 「蓮華集」の白蓮はちょうど蓮の季節と重なり、
 一段と切なく神々しく光ります。

 野中ユリの世界観はどこの誰にもない、美しいものだけを集め
 その世界に住むものだけに味わうことが許されたイメージの世界。
 その陶酔は一度見てしまったら最後、
 自分の生息する現実の惨めさを突きつけられつつも
 憧れというのはただただ見果てぬ美の宇宙への扉であることを
 教えてくれます。
 それが手のひらに乗る小さな本だったとしても。

 野中ユリ展のさいとはこちら。
 9月1日までの開催。
 神奈川県立美術館といえば、野中ユリ、そんな印象を強く持ちました。





 また、本展覧の図録がコンパクトにまとまって1000円というお値打ち価格が嬉しかったです。
 特筆すべきは松田正平展と併せて900円で鑑賞できるので、
 晩夏の鎌倉へぜひぜひ。

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