あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

清方が過ごした明治の風情 ・鏑木清方記念美術館

2013-08-15 22:29:48 | 日本美術
 
 鎌倉に着いて吸い込まれるように小町通りをふらつくことにしました。
 小町通りに来たのは何年ぶりでしょうか?
 思い出せないほど遠い昔になってしましましたが、
 この賑わいには驚きました。
 まるで小京都、三年坂辺りの楽しい小さなお店が建ち並び、
 真っ直ぐ進めないではありませんか。

 一々のお店に立ち寄っていては目的地にいつ着ける事やら。
 それでも気になるお店が腕を引っ張ります。
 美味しそうな和菓子屋さん、骨董屋さん、
 小物屋さん、ブティック・・・・

 そこの路地にちょいと誘われて入り込んでみたり、
 帰りのお茶タイムはここにしようとか、
 先ずはランチよね、
 そんなことをいいながら遅延に遅延を重ねて、
 ようやくたどり着いた
 「鏑木清方記念美術館」

 明治の素敵なお茶人の旧居にお邪魔するような佇まい。
 趣味の良さが立ちこめます。

 開催中の展覧は「清方が過ごした明治の風情」
 
 初入館でしたが、入館料200円を払い、お宅訪問のような気持ちになります。
 手入れの行き届いた庭とそのお宅には
 清方の愛した画室が再現されていました。
 その建築には懇意にしていた建築家吉田五十八によるもので、
 昭和29年当時のものをそのまま使用しているそうです。
 「鏡花」の文字が染められた手ぬぐいが見えます。
 色々なものをしまう木箱が一つ一つぬくもりがあって丁寧な作りです。
 網代に組んだ棚もいい仕事ぶりです。
 障子からもれる陽も柔らかで、あの美人さんたちはここで生まれたのかと
 清方の画業が偲ばれます。

 広々としたホールの先には図書コーナーがあって、
 庭園も望めます。
 丁度桃色の百日紅が満開でした。
 挿絵を仕事としてきた本が沢山書架に管理されているようで、
 ゆとりがあれば、ぱらぱら拝見したいものでした。

 展示室はこじんまりとしているものの、
 清方のアトリエで鑑賞するようでほっとするし、
 美術館ではない温かさが感じられます。

 大作 「嫁ぐ人」「孤児院」「金色夜叉の絵看板」
 3作が並ぶと圧倒されます。
 嫁ぐ前のはにかむ若い女性の仕草、彼女を囲む女性たちの
 様々な年齢、立場が衣装や立ち姿から結婚への思いが伝わります。
 高貴な女性のボランティア精神を孤児院の援助でなお一層
 可憐な女性を輝かせます。慈悲を受ける側にとっても
 眩しく見えたことでしょう。
 金色夜叉のお宮のがっくりうなだれて許しを請う姿に
 横顔も美しい貫一はきりりとはね除けています。
 男女の修羅場とはいえ清方の手になれば、はんなりした華やかさがこぼれます。
 熱海の海岸に記念碑がありますが、
 この話がどれだけ日本中で盛り上がったのでしょうか。

 他、葉書になったもの、さらりとした水墨画、
 挿絵としたもの、などなど、
 抽斗を引き出して見る小品群も楽しい鑑賞でした。

 それにしても美人たちの横顔にはらりと落ちる髪の毛が
 どんなに謎めくか、
 今はあんな姿をする人はもはや絶滅したのではないでしょうか。
 女性のたどった歴史も生々しく、
 いつの世も女性は美しかったと
 清方の眼は言っているのかもしれません。
 そして、彼女たちの周りでかわされてきた、
 美しい日本語は、もはや古語となって使われなくなってれてしまうでしょう。
 そんなことおっしゃっちゃ、こまりますわ。

 文房具も恋愛小説も、手紙も、衣装や生活用品等々、
 今更ながらすさまじい変化を遂げてきたことを思います。
 明治の時を愛しんで慈しんで生活してきた人びとの表情に
 清方の絵を通してしっとりと教えてもらったような気がしました。

 この展覧は25日まで。
 次回は「大正期の美人画」
 チラシの色香匂い立つ美人図にくらっとします。

 鏑木清方記念美術館のサイトはこちら
 閑静な住居に鎌倉文士や芸術家たちの静かで思索に満ちた
 豊かな時間を夢想する、そんな事も出来そうな、
 しっとりした個人ならではの美術館でした。

 鎌倉の町中の画像をご紹介します。

























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