あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

禅・茶・花 正木美術館40周年記念展 ・東京美術倶楽部

2008-10-01 23:02:14 | 日本美術
そんなわけで、今一番記憶が新しい、
正木美術館コレクションの記事に取りかかることにした。
そのほかは、おいおい私の気が乗った頃に。
いつも見に来てくださる方のためにも、頑張ります?

その日は、台風の影響もあって、朝からそぼ降る雨の中、
御成門、増上寺のお膝元、東京タワーがすぐ近くの
東京美術倶楽部に行ってきた。
東京でもこの辺りは独特な地元色がある。
大門まで行くと美味しい中華店が並ぶし、
芝は増上寺、東京タワーのお膝元。
品川、浜松町の間にあって、
交通の要所でもあるし、近代現代の歴史が転がっている。

美術倶楽部を訪れるのは、20年ぶりくらい?
とても立派な建物に改築されていて、驚く。
以前は大きな旅館の大広間がつながっているようなところで
それなりに良い雰囲気だった。
いつのまにか、立派になったのだなぁ。

3階の会場に入ると、どこからともなくお香の香り。
とても芳しく、優雅な心地。
さすが名茶道具の展覧。
大きな壺に枝ものの花が飾られ、
少し精気が陰っていたけれど
茶室まで歩くような良い雰囲気。

今回は、東京で、正木美術館の所蔵品に触れることができる
滅多にないチャンス。
大阪に行ってもちょっと離れていて、
なかなか行かれるところではない。
どんな作品が並ぶのかとドキドキで入る。

いきなり目にはいるのは、
「菓蓏秋虫図」 伝銭舜挙筆 明時代
実のものと瓜(蓏はうり、ラと読む)にこおろぎのような虫が
描かれている、色紙サイズくらいの小品。
正木滴凍コレクションが動き出した頃の収集品。
天目茶碗、
雪舟の作と看破した拙宗筆「山水図」
国宝 小野道風筆 「三体白氏詩巻」
国宝 藤原行成筆 「後嵯峨院本白氏詩巻」
の平安時代の名筆。
青磁神亭壺、青磁壺の首辺りに生き物が群がる独特な壺。
これらがコレクションの始まりというから、
すごい。

その熱気は次の禅のコーナーでいよいよ充実。
「一休宗純と森女図」
一休さんが慈しんだ盲目の若い森女と一緒のお軸。
いとおしさが溢れている可憐な絵。
老いらくの恋ではなく、ただひたすらにいとおしんだ、
そんな感じが溢れている。

元時代、南北朝時代の古色蒼然の重厚な墨跡、
布袋図、山水図などはひたすら恐れ入ってしまう。

そして、茶の世界へ。
会場には千利休の追善がしつらわれ、
等伯の筆による利休の図、
朱塗金彩台には天目茶碗が威厳を放つ。

その後から名茶器のオンパレード。
利休の命で作っただろう、長次郎の黒楽銘両国。
隣に、光悦のぬらぬらと黒と赤の飴釉赤茶碗銘園城。
朝鮮や、中国の名茶碗が桃山の茶器と並び、
乾山の扇面春山草花図の鄙びた絵にホッとし、
織部の香合に目が緩み、
光悦の蒔絵手箱にドキッとし、
匠たちの心意気にわくわくさせてもらった。
やはり、このコーナーが一番見ていて嬉しい。

花として、
特に梅の墨絵が並ぶ。
一箇所別コーナーに
能阿弥の「蓮図」がかけられていて、
これが宗達の墨絵のようで、驚いた。
宗達よりはずっと線が堅く、可憐ではあるけれど、
室町の能阿弥の墨絵が宗達に引き継がれていくようで、
現代の茶室にそっと室町の蓮が咲いていることに感動した。

生花のような須田悦弘氏の木彫には毎回感嘆する。
けれど、虫食いの葉をもった椿の花は変化をもたない。
一期一会の茶の空間に、枯れない生花の化石があって
良いのかとふと疑問に思ってしまった。
その枯れない椿が存在する花器がとてもよかった。

足元の畳の隅に雑草を一株忍ばせたのも、
どこかで見た気がする。
川瀬敏郎氏だったろうか?
すいぶん手の込んだことをするものなのだなぁ。

ストイックに息使いさえも控え、客に一時を捧げる世界に
唯一自然とのつながりの花一輪が、
生命の瑞々しさを代表してきらりと存在する。
それこそが一期一会というものではないのかと
勝手に思う私は偏っているのかもしれない。
新しい試みは、いつも複雑な事情が付いて回るものだ。

これらは、正木美術館のほんの一握り。
1200点あまりの所蔵はどんな物語で集められてきたのだろう?

重厚で、厳格な一本太い線の通った収集であることは
この会場の雰囲気が物語っている。
大阪の美術館の雰囲気はどんなものだろう?
出入りの骨董屋さんの話など、きっと深いエピソードが
詰まっていることだろうと思った。
正木美術館、もう少し知っておく必要がありそうだ。
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8 コメント

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須田さん (ogawama)
2008-10-01 23:14:37
今日、須田さん目当てで行ってきました。
枯れない椿の花、お茶席にはふさわしくないと思いますが、あのような場では恐ろしく可憐に見えました。
色んなことに疎い私ですが、小野道風の書があったのにはびっくり!しました。
返信する
ogawama さま (あべまつ)
2008-10-03 08:56:15
おはようございます。
ogawamaさんからこのコメントを頂いてから、ちょっと考えました。
その須田さんの椿を選んだその時も
一期一会と考えられるなぁと。
そう思ったら、なんだか気持ちが緩くなりました。生花にこだわるのは、私自身が花を学んでいる所為なのかもしれません。
能阿弥の蓮も永遠の一瞬に違いないし、などと、ぶつぶつ思うのでした。

>色んなことに疎い私ですが、
いやいや、私の知らないことを沢山お持ちです!私はこの年齢で、浅学に溺れています。
だから、楽しいこともあります!←開き直り~
返信する
琳派も良いけれど・・・ (悲歌・哀歌)
2008-10-13 15:11:06
あべまつ様 こんにちは
「大琳派」展は大変な盛り上がりようですね。
さて、その陰で素晴らしい展覧会が終わりましたね。
この、正木美術館「禅・茶・花」は、小生に「お前の好みは此方だろう」と語りかけてくるものでした。
会場の展示方法にも工夫が凝らされ、東山文化から連綿と続く茶と禅の場に、立ち会わされた気持ちになりました。
琳派の華麗・雅とは対照的なモノトーンの世界でした。
しかし、そこから仄かに色と薫りが漂ってくるのです。
例を挙げれば、三つの「墨梅図」。どれもが素晴らしい作品です。墨一色で描かれているにも係わらず、じーっと見ていると、白梅、紅梅に見えてくるのです。特に中国・元時代の墨梅図は、その滝のように流れ落ちる枝垂れの梅から、梅香が匂いそうです。
他に、瀬戸真中古茶入の青みを帯びた釉薬の美しさと凄み。
後期にでた布袋さんの流し目、白衣観音の眼差しには参っちゃいます。
どちらも重文の騎獅文殊図は、文殊菩薩のお顔の良いこと!
獅子の毛並みや尾の靡き様の面白さ!
藤原行成筆の白氏詩卷「対酒」の部分は、良くは読み下せないのに、なにかしみじみ伝わって来るものを感じました。
他にも挙げれば切が無いので、この辺で失礼しなければ・・。
さらに、この展覧会を見たあとで、東博・東洋館の「中国書画精華」を見れば、日本文化の古層の一つに突き当たるのではないでしょうか?
あと一つ、これは琳派がらみ。光悦作飴釉楽茶碗「園城」はとてもとてもの小生好み。「大琳派」展の同作の「紙屋」と比べて何度でも見たいものです。「禅・茶・花」の最後の5日間に出ていた竹図屏風に目を奪われました。そんなに主張が強い作品とは思えませんが、これぞ琳派!篠竹がまさに篠突く雨のように林立して描かれ、光の当たり具合で幹が現れては消え、現れては消え、面白かった!
それでは、次回は琳派展記事上で(たぶん・・)。
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Unknown (よしりん)
2008-10-13 16:15:20
abeさん

はじめまして!
私も先日、最終日の前日に行ってきました。
素晴らしかったです。
特に、能阿弥の「蓮図」に心奪われました。
TBさせてください。
よろしくお願いします。
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悲歌・哀歌 さま (あべまつ)
2008-10-13 23:37:20
こんばんは。
「禅・茶・花」濃い展覧会でしたね。
色々楽しまれたようでよかったです。
時々、あの禅からくるストイックな雰囲気に埋もれたくなる気分になります。古色蒼然と重々しい真っ暗闇に投げられ、右往左往して迷子になりそうになった時に、利休爺にどうじゃ、茶でも、と言われ。
躙り上がって、招かれた選ばれた人にだけ得られた、エクスタシー空間、そこに対抗心と憧れが湧いてきます。
東洋館は前期に行きました。後期も逃せませんね。三井の森川如春もよかったですよ!
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よしりん さま (あべまつ)
2008-10-13 23:40:01
はじめまして、ようこそ!

よしりんさんも「蓮図」お気に召したのですね。お香の薫りが漂う展覧って、なかなかあるものではないので、良い気分で拝見できました。TB大歓迎です。こちらこそ、よろしくお願い致します。
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つばき (菊花)
2008-10-18 11:05:29
>一期一会の茶の空間に、枯れない生花の化石があって
>良いのかとふと疑問に思ってしまった。

ああ、私も全く同じことを思いました。
試みとしては面白いと思うし、
生けられている(と言うのか?)椿も素敵だとは思う。
だからこそ本当は「何故ここで椿なのか」という
亭主の謎掛け(=テーマ)を楽しみたい。
それなのに「なんで生花じゃないのか?」という
ズレたところから椿と向き合ってしまう自分がいるのが、
なんとも残念でした。
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菊花 さま (あべまつ)
2008-10-18 21:23:55
こんばんは。
つばき、菊花さんもそう思われましたか。
新しい試みが、腑に落ちないって言うのか、
了見の狭い私ってのか、仕方がないです。
その時の自然の営みを茶室に連れてくる、唯一の場所が花、と思うものですから。
頂いたコメントが私の潤いです。
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