あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

武蔵野図屏風 ・東博本館8室

2008-10-04 16:06:35 | 日本美術
これと似たものが、サントリーの「BIOMBO」で展覧された。
どんなだったか、図録を引っ張り出す。
東博のものより、シンプルだ。

先日なにも予習せずにふらり東博に立ち寄ったところ、
本館の8室の一番奥にこの屏風が現れ、
しばしソファーに座って、独り占めしてきた。

なんて美しいのだろう。
幻想的で、静かで、厳かで、煌びやかで、
魂が吸い取られそうだった。
神隠しが潜んでいるのかもしれない。
この薄野に紛れ込んでしまいそうだ。

この画面の特徴は
月が薄野に埋もれ隠れているところ。
「むさし野は 月の入るべき嶺もなし 
 尾花が末に かかる白雲」
と、続古今和歌集に歌われたように、
平安の京都から武蔵野を遙かに思い、懐かしんだよう。

まんまる満月が山の端から上がってくる時、
それはなにか、空恐ろしい神懸かりな事件が起こる前触れのように
大きな光りの広がりが突然山の端を照らし始める。
何事かとそちらに目を向けると、
大きな光りの広がりは、いよいよ強くなり、
その光りの中央から丸い月輪が姿を現し、
音も立てずに神々しくゆるゆると上がってくるではないか。

ため息の自然現象イリュージョン。
この現象を何年か前に、夏の伊東の海で見た。
花火大会の始まる直前、しばしこの月の出に心奪われていた。
一番ドキドキしたのは、大きな光りの広がりが
山の端を突然キラキラ照らし、
光りの輪の中に月が見えた時。
光りの面積が一番広がった時。

上がってしまえば、なぜか安心して、
次第に高く上がってゆく月の動きが嬉しかった。
山は安堵して、月を送り出したように見えた。

この「武蔵野図屏風」でも、
金色の雲が一面に広がり、
それが画面に典雅な雰囲気を創り出している。

その逆に、月の入りはまた、雲を一層煌めかせ、
満月一夜の幕切れを甘美に演出し、
最高のクライマックスを向かえて、終わるのだろう。
入りか、出か、わからないけれど、
いずれにしても、クライマックスの予兆、
であることに変わらない。

東博のこの屏風は山の稜線が見えているが、
サントリー所蔵品には、ない。
私好みとしては、
この東博の方を選びたい。
山の端の緑があって、全体がぎゅっと引き締まって見える。

尚、この屏風は左右並べ変えても支障なく鑑賞できるとのこと。
宗達の蔦図を思い出す。
そういう工夫が、グッと嬉しくさせてくれるのだ。
こんな生活調度品を作り、持った人は一体誰だったのだろう?
ドラマチックな自然現象をこんなにスマートに
品良く仕上げるデザインにただただひれ伏したのだった。

明日、5日の日曜日までの展示です。

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4 コメント

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明日で展示終わり? (悲歌・哀歌)
2008-10-04 16:56:18
あべまつさん こんにちは
ありゃりゃ、明日で武蔵野図と暫しのお別れなのですね。
先日、駆け足で見てきましたよ。
この作品、いつ見ても、武蔵野の野原はこうだったのだぞ、と言っているようです。月が出ていなければ、伊勢物語のあの二人がひっそりと隠れていて、そのあと松明があちらこちらに揺らめいて・・・・。
さて、野原は分かりましたが、武蔵野の雑木林の本当の姿はどうだったのでしょう?これまた、どなたかの作品でじっくり楽しみたいものです。
月の出は、時々空気の関係か、血がべっとりと滴っているような色を帯びた満月が現れる時があって、まるでドラキュラ伯爵の怨念が篭もっているようで、コワイコワイ・・・。
時間がたって頭上に輝くときは、銀色に光って煌々たる夜間照明で嬉しい!嬉しい!
兎道朝瞰図はもしかすると、小生は初見かも。宇治川の風景が素晴らしくひらけた感じで描かれていて、源氏物語以来の宇治はこんなにも良いところだったのか知らん、と思いました。離れて見れば見るほど、逆に風景が小生を包み込みます。
あべまつさんは、この夏に宇治へ行かれたのですよね。うらやましい・・・。ウラメシヤー・・・ではありません。
最後に、時間も無いのに「納涼図」の前でじっと佇ませてもらい、東博をあとにしました。
「納涼図」も小生のマイ・フェイバリット・シングスなのです。一年に一度は見たいものです。
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悲歌・哀歌 さま (あべまつ)
2008-10-04 22:40:15
こんばんは。
武蔵野図屏風、悲歌・哀歌さまもご覧になったのですね。
秋の月が輝く時に、巡り会えて嬉しかったです。木米の兎道朝瞰図、宇治でしたね。兎道がウジと読むとは知りませんでした。
実際はもっと、哀しげで、川面が恐ろしく勢いよく漣だっていて、浮舟は相当下流に流されていったのだと思いました。
「納涼図」これは和みますね。ぼんやり月見の3人。今宵月を眺めて過ごしている人はどのくらい?
月は怖いものですね。だから美しいし、心奪われ、物語が生まれます。日輪より、月輪です。
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Unknown (一村雨)
2008-10-06 19:18:10
武蔵野図屏風。サントリーでもこれ見たなと思ったのですが、実は別の作品だったのですね。まったく気づきませんでした。
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一村雨 さま (あべまつ)
2008-10-07 08:32:46
おはようございます。
こういう世界に弱いのです。
サントリーのは、稜線がなくて、シンプルでした。
様々を忘れさせてくれるあの夜の世界です。
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