あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

11月のアート鑑賞記録(2015)

2015-12-10 23:48:38 | アート鑑賞記録

 11月はアート鑑賞記録、とするほどの事はないのですが、
 それでも、行った事を記録しようと思います。

 *浮世絵から写真へ ー視覚の文明開化ー  江戸東京博物館



  毎年このシーズンに早く天空へ旅たった友人の偲ぶ会を重ねています。
  大学時代の友人達は親を見送り、子供達が巣立ち、結婚などもして
  お孫さんの話をするようになりました。
  それでも、一瞬であの青春の不透明な時代の熱気に連れて行ってくれます。
  その一行で、江戸博に行ってきました。
  浮世絵から写真へ。
  写真が発明されて、絵師達のショックは如何ばかりだったことでしょう。
  それでも、新しいものの誕生は歓喜も呼び起こします。
  最初はいつもセレブな人々の手によって、広められます。
  絵師は写真では描けない世界観を表現しなければならないのです。

  まずは写真が登場する前の名所、風俗の屏風の展示で江戸時代を思います。
  役者絵もあり、粋な浮世絵らしい景色を愉しみます。
  そこに、鶏卵紙という紙に焼かれた写真が現れます。
  木箱に入れられ、大変大切に扱われたことが知れます。
  写真家、といわれる日本人の最初の人たちなのでしょう。
  上野彦馬、下岡蓮杖、内田九一、横山松三郎、鈴木真一、小川真一、などなど。
  小川真一の名前は知っていましたが、後の方はまったく知りませんでした。

  福沢諭吉、永井荷風、明治天皇などの肖像につづき、
  皇族の小松宮家の重厚なアルバムはやはり写真が上流の人たちのもの、
  という事だったのでしょう。
  
  展示品の中にやたらキッチュでシュールなものがありました。
  江崎禮二「1700人の赤ん坊」それもコラージュしてしまっていて、
  赤ちゃんによほど興味を持ったのか
  豆豆な赤児の顔がびっちりつまっている写真には仰天しました。
  こういうことしたくなる人、いつの世にも現れるのだと、
  感嘆しながらも受けてしまいました。
  
  五姓田芳柳の明治天皇の肖像画、ほか、伝付きでしたが、
  外国人男性、女性の和装像も並び、時代の変化が伝わってきます。
  今年は子息の義松の個展が開催され、記念の年となりました。
  写真に彩色した高橋由一の名前があり、モノクロ写真に色付けした高橋由一、
  そういう仕事をしていたことに驚きました。
  
  抱一の光琳百図も展示されていました。
  最近のニュースで足立区から抱一や谷文晁の作品が旧家から数多く発見されて
  来春、展示される予定となったとか。
  人々の生活の近くにいたことが実感できるのではないかと
  郷土博物館での展覧が楽しみです。

  また、泥絵、ガラス絵などが登場し、珍しいものがどんどん浸透して
  人々に受け入れられていった様子が手に取れます。
  
  「富士山風景図」 写真貼付ガラス絵というコラージュされたような
  ガラス絵の上に写真の人物像の切り抜きを貼り付けるという
  大きな不思議なコラージュ作品に興味を持ちました。

  また、別なところで「江戸名所百人美女」と同じような
  「凌雲閣百美人」がびっちり壁に展示され
  時代の好み、人気ランキングなども楽しめるようになっていました。
  ラストはご当地もの、お相撲さん浮世絵、写真、
  そして、当代横綱の白鵬の巨大優勝額がお目見えし、のこったのこったの
  思いがけず楽しい展覧でした。 

 *ニキ・ド・サンファル展 国立新美術館



  ニキの作品とは随分前に箱根の彫刻の森に行ったときに
  野外彫刻の中にカラフルでユニークな巨大女性像を見たことが最初だったと思います。
  それからというもの、カラフルな丸っこい体躯の彫像は
  ニキ、と覚えたのでした。
  しかし、彼女の事はまるで知らず、どんな女性だったのかを
  ようやくこの展覧で知ることができたのでした。
  初期にはポーリングをしたポロックの影響を見ることができたし
  ニキを紹介するビデオでは
  銃を構えて「射撃絵画」作品を制作するという
  仰天の手法でそのパフォーマンスごと見る人をあっと言うわせる美女、
  という見所要素を存分に披露していました。
  派手なパフォーマンスに見えても、実は武器を制作に使って
  戦争暴力を訴えていたのです。
  そして、保守的な家庭環境に育った彼女は、
  女性であることに強い関心を持ち、社会性の強い作品を作っていきます。
  ちょうど時代はフェミニストたちによる女性活動、反戦、そんな市民運動とも
  リンクして、社会的側面も強く感じました。
  そんな彼女を日本女性が目に留めて以来、ニキの大ファンとなって作品を
  コレクションしていきます。
  YOKO増田静江さんという方で、日本にニキの美術館も作ってしまいます。
  感じるところのベクトルが合致した二人はそれから20年以上の交流を持つのでした。
  女性ならではの問題、悩みなどを通しても強力な引き合う力があったのだと
  想像します。
  カラフルでパワフルな作品群からはちまちましたことを思い悩むことから
  一瞬でも解き放ってくれる痛快な癒やしパワーが溢れています。
  会場内はなにやら楽しげなアミューズメント会場となったようで
  賑やかでウキウキ要素がいっぱいでした。
  ニキが制作したナナの様々な姿はいつまでも女性達のマスコットとなることでしょう。 





 *久隅守景展 サントリー美術館


  トーハクに所蔵されている、「納涼図屏風」それを描いたのは
  久隅守景という狩野派に学んだ江戸の絵師です。
  狩野派の探幽門下四天王に数えられるほどの腕のいい絵師として活躍していたにもかかわらず、
  なぜか、本筋から離れて農耕図を描くようになります。 
  息子、娘の不祥事を受け、探幽の元を離れることとなった、といわれています。
  それだけでも波乱含みの人生のようです。
  江戸を離れ、加賀、前田藩で数々の名品を製作し、
  農民風俗を取り込んだ、自然豊かな伸びやかな詩情を表現しました。

  その久隅守景の作品を一望に鑑賞する機会がサントリー美術館で開催されました。
  会場入り口に細い板状のブラインドが間仕切りにしつらえてありましたが
  片方にだけカラー刷りの絵が見えました。
  よく見るとそれは多分、鷹狩図屏風のもののようでした。
  そういう会場の作り方に毎回感心させられますし、
  その気の利かせように大変喜んでしまいます。
  さて、作品群は狩野派で学んだ時から時系列に並び、
  最初は硬派な「瀟湘八景図」などが展示され、さすがの画力に感嘆します。
  当初から長閑な田園風景ばかりを描いていたわけではないのでした。
  
  今回は後期の展示を鑑賞しました。
  前期展示の「納涼図屏風」を見逃しましたが、トーハクで見たこともあるので、
  残念ですが諦めました。 
  それでも、「鷹狩図屏風」の田園風景の中に描かれる狩りの臨場感を
  堪能することができました。丹頂鶴が鷹?に襲われる図、なんて初めて見ました。
  また、「舞楽図屏風」の端正で鮮やかな作品にもみとれました。
  宗達の「舞楽図屏風」を見たのでしょうか。
  
  守景の不遇の元、息子や娘たちの作品も並び、
  そんな共演ができるとは守景もきっと喜んだことでしょう。
  娘の清原雪信の作品が案外沢山あることに驚きました。
  画風もかなりしっかりとしていて、絵師としての腕が確かなものだったことを
  知らされました。
  息子の久隅彦十郎の作品も前期後期一点ずつわずかながらも展示され、
  親子水入らずの展覧となりました。
 
  それにしても国宝となる「納涼図屏風」はなんとも長閑で、
  重厚さや、華やかさなど感じられない作品がどうして推挙されたのか、
  経緯を知りたくなります。

  やはり、時々はこうして芸術の海に浸ることで
  リフレッシュができたこと、充実の時間を持つ事ができました。
  次回の「水への祈り」展も大変楽しみにします。
  「日月山水図屏風」がお目見えです。来週、16日から始まります。


 11月はわずか3件の展覧会鑑賞でしたが、それなりに楽しくも興味深いものばかりでした。
 今年最後の展覧会は何処になるのか、今から楽しみです。

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