あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

国宝 興福寺仏頭展 ・東京藝術大学大学美術館

2013-09-27 23:27:51 | 日本美術
 


 私が30前後の頃、奈良にご縁を頂きました。
 足かけ3年の住居を奈良にしたこと、
 今でも胸がうずく3年です。
 その景色の中にいつも興福寺の五重塔がそびえています。
 あの階段を昇れば、五重塔の真下にいられたのです。

 修学旅行生たちはよくあの階段で集合写真を撮ってきました。
 私の中学時代の集合写真もあの階段だったのではなかったでしょうか。

 以来、時が流れ、25年余り。
 興福寺人気の阿修羅展では東博平成館が夜になっても
 大賑わいしていたこと、全国横断して勧進も大成功だったのではないでしょうか。
 それで、見事阿修羅像は昔の窮屈なガラスケースにしまわれることなく、
 素晴らしい環境を得たということです。

 4.5年前にも奈良に足を運びましたが、
 諸事情あって国宝館を訪ねることがないままで、
 いつか興福寺の創建当時の姿を拝見で来るのではと
 心待ちにしているところです。

 前置きが長くなりました。
 
 それで、今回は興福寺創建1300年記念の展覧会。
 あの仏頭が大変な道中をへて上野にお出まし頂いたのです。

 痛ましい変遷の物語りもさることながら、
 あの仏頭を動かすことを心配する昔語りも聞いたことがあるので、
 どうかご無事で展覧を終えてお帰り頂けることを祈念するばかりです。

 今回は仏頭が主役メインではありますが
 国宝が山のようにざくざく所蔵されている興福寺。
 他にも国宝、重要文化財が惜しげもなく展覧されます。

 会場は地階から始まり、
 木造弥勒菩薩半跏像、そのお姿を守るお厨子の
 堂々たる美しさに頭を垂れます。
 単に美仏というだけではなく、
 華美な装飾工芸技術にも目を見張ります。
 そのお厨子もまた芸の細やかさ、色の鮮やかさ、
 心配りの繊細さに息が止まります。
 扉には無著、世親の姿を認めます。
 天井には黄金色の飛天が舞飛び、散華も愛らしく散らされ
 ています。
 この像が鎌倉時代のもの。
 日本の美術工芸はこの時代に頂点を極めてしまったのではないでしょうか。

 その弥勒菩薩さまを取り囲むように
 護法善神扉絵が展示されています。
 その表情の豊かなこと。
 
 また、春日版板木による法華経板木そのものを見ることが出来ます。
 印刷の大本の姿です。
 板木が生まれたから写経も進化して人々の手に渡ったのでしょう。
 
 地階の次の部屋では
 国宝 板彫十二神将をぐるり鑑賞できるような展示で驚きます。
 ユニークな表情、動きのある体の線、見ていて楽しくなります。

 その奥では興福寺中金堂の再建模型と、
 多川俊映 興福寺 貫首によるインタビュービデオが映し出されます。
 創建当時の姿に戻して、興福寺の存在を改めて
 世に顕したいという願いが伝わります。
 
 続きは3階へ移動します。
 気持ちはすでに仏頭を心待ちにしているわけです。
 入ってすぐに奥の方中心に仏頭が静かに厳かにこちらを向いています。
 そのまわりをぐるり囲むように
 木造十二神将が全員360度鑑賞できるよう配置されています。

 十二支の干支を頭上に頂いているので
 それを頼りに見ることも面白い見方だと思います。
 自分の干支は、親の、夫の、子どもの、友達の
 それぞれの干支を思い出しながら、
 今にも動き出しそうな迫力に大感動です。

 西洋の彫像には溢れる命、エロス、フェロモンが匂い立つのですが、
 ここにある興福寺の木像からは神の世界、仏の世界、現世のものではない
 ずっと精神界での表現で肉体を持ってはいても、清々しい、神々しい、
 黄泉の国にしか現れない、ひたすら尊敬を捧げる対象として見えてきます。
 ですから、こちらも安心してうやうやしく心を開き、夢を見る事が出来るのです。

 ライティングも素晴らしく、この十二神将が仏頭をお守りしているからは
 何の心配もいりません。
 中央の仏頭はやはり厳しい美しいお顔立ちです。
 損傷の痛ましさはあるけれど、
 お顔の表情が仏様全体を表現してしまっているような
 存在感の大きさに魅了されます。

 今回は東京深大寺からも同時代のものとして
 銅像釈迦如来倚像が展示されました。
 深大寺にも白鳳の銅像があったこと、驚きました。

 CPグラフィックで見る仏頭の再現映像も興味深く
 丁寧な作りにみとれました。
 
 この展覧は11月24日まで。
 古都奈良で正倉院展が終わるころまで
 芸大美にいらっしゃるということです。

 造形の本来の力、木の持つ力、
 鋳造された仏頭の威力、
 鎌倉、室町で生まれた日本の美の創造は
 未来永劫日本の美の柱となっていることを
 強く感じた展覧でした。

 展覧サイトも充実。楽しい発見があると思います。
 こちら
 

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