あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

三代 山田常山ー人間国宝その陶芸と心 ・出光美術館

2012-01-15 13:09:54 | 日本美術
常滑の赤肌のつるっとした急須はちょっと前のお家なら普通にあった日常品。
その常滑から人間国宝がいらしたことを初めて知った。
どんな人なのか、作品なのか、私の心は躍るのだろうか。

そんな気持ちで上野の喧噪を尻目に初日にお邪魔してきた。

その日は、東京駅界隈の4館共通鑑賞券の発売初日だったので、
迷わず購入。
二つ折りのパンフレットのようなシンプルなデザインがよかったので、
受付の女性に賛辞を伝えた。
四隅のに入館する美術館名があって、
三角に切り離して使うようになっている。
ブリジストン、三菱、三井、出光をこの日より6月まで使用できる。
ぐるっとパスにない美術館もあるので、おおいに助かりそう。

さてさて、常山。(1924~2005)
三代とつくから、初代から数えて三代目。
愛知県常滑に大正13年に生まれ、常滑の急須作陶により、
平成10年に人間国宝に認定された。
出光では20年以上にわたり幅広い収集を行ってきた。
今年は常山の7回忌という記念にその全貌を初公開する展覧を開催。
(出光のチラシ抜粋)

2005年までご存命だった陶芸家。
平成10年に人間国宝になったということを
全く気がつかずにいた。
安土桃山ではなく、江戸でもなく、
昭和、平成に生きていた方だ。

場内には手のひらに収まるサイズの急須が整然と並んでいる。
なんて可愛らしい姿だろう。
こんな景色は見たことがない。

その会場をずっと奥まで見通して、
心が躍ることを確認して、一つ一つの作品と対峙してきた。

お抹茶ならば茶碗と茶筅があれば飲むことができるが、
煎茶となれば急須が必要となる。
煎茶を日本に紹介したのは黄檗宗の隠元禅師だ。
私事だが、父方の祖父は黄檗宗だったので、
葬儀の派手なことに驚いたことを思い出す。
黄檗宗や隠元禅師になんとはなしに親しみを感じるのだ。

茶碗に注ぐためだけの道具。急須。
ティーポットのように注ぎ口の真後ろに持ち手が付いているもの。
注ぎ口から45度に棒のような持ち手が付いているもの。
少し大きくなると土瓶のように手が上につくもの。
その手がなくなり、片口のような本体に
蓋が付いただけのシンプルなもの。
急須といって色々な形がある。
展示室の章に従って気になったところだけをピックアップしていく。

1三代 山田常山の源流 青木木米、初代、二代常山
 まずは三代常山の急須5種類。
 常滑茶注五趣 
  朱泥 土色がオレンジ。糸目の細かな線が胴に刻まれている。 
  紫泥 朱泥より色が落ち着く。スマートなラインで蓋が黒というのが現代的。
  烏泥 烏の黒ほどではないにしても、黒くつるっと光る肌質
     この色が一番常滑らしいと思っていた。
  梨皮朱泥 白い粒を練り込んだもの。独特な風合い。
  自然釉 ざらりとした質感が常滑?と思わせる、陶器らしい質感。

 この作品を見た一瞬でこの常山ファンになってしまった。
 丁寧な愛情溢れるお仕事ぶりだ、と感じ入った。
 その源流である、青木木米の作品。  
 交趾釉急須、白泥涼炉・炉座
 色絵魚藻獣文煎茶碗
 などなど愛らしい姿。
 茶銚というのは手が後ろに付く中国風急須のこと。

2朱泥の急須と煎茶具 中国のかたち、日本のすがた(1)
3紫泥と烏泥の急須 中国のかたち、日本のすがた(2)
 ここから常山のずらり個展状態。
 丁寧な作陶ぶりにため息が漏れる。
 窯変朱泥茶注というのは、籾殻で窯変させたのだそう。
 急須の胴部になにやら縦線刻があると思えば、
 超極細の歌が急須のぐるりに刻まれていた。
 彫刻:藤田穐華の腕の凄みが虫眼鏡の先から光る。
 これは、もう狂気な世界だ、とため息した。
 いつもの一段下がる展示コーナーには
 煎茶の茶筒、茶心壺。
 茶葉を入れておく筒。
 展示を見て気がついたが、
 急須の注ぎ口、取っ手の接合部に土をなじませた跡が残っているのも
 面白い。
 水注形の取っ手の上には小さな空気穴があるのも細やかな作り。
 また、手をつけないかわりに、貼花文の小さな突起を付けたものがある。
 人差し指と親指の微妙なずれを考慮した場所に付けられ
 その工夫に感嘆した。
 中国の清朝陶磁には一双の作が多いが
 それはシンメトリーを重視したことによる、とのこと。
 蓋の色を黒くした蓋黒は三代の独創。
 茶釜から想を得た形も楽しい。
 煎茶器の小さな茶碗ののぞきに白い刷毛目があったが
 あれはお茶の色を美しく際立たせるための工夫。
 様々な創意工夫が見ていてワクワクさせられる。

4 白泥・藻がけ・彩泥 三代常山の優雅と遊び心
 ずらり常滑の土ものが並んできた中で
 突如、可愛らしいモダンな水注が水滴と一緒に現れた。
 同じ作家の作品かと驚くけれど、
 現代にも通じる茶器、急須が生まれてくれたら、
 リビングに自慢したい急須を置いて
 煎茶を振る舞うことが日常に溢れると思った。
 急須を知らない子供達もふえているそうだし。
 代々の継承と学ぶべき昔の形を踏襲し
 その後は新しい茶器への挑戦もされたよう。
 まるまる太ったリンゴのような茶注、
 窯変を付けたもの、緋襷を加えた茶注、
 その形にも変化が楽しめる。

5 茶陶と酒器・食器 歴史に学ぶ、伸びやかな作陶
 常山は急須ばかりではなく、茶陶も作陶してきた。
 このコーナーにはほとんどやられっぱなしだった。
 急須の愛らしい様はもう、本当に愛らしいのだが、
 それだけでは終わらないところが心憎い。
 水指、茶碗、花入れ、香合、湯飲み、
 皿、徳利、などなど。
 急須を作りつつも日常の空間に、生活に、
 もっと体温の感じる「用の美」に近い作陶。
 その質感は常滑の土のイメージを越えて、
 備前や美濃、信楽のような自由で力強いものだ。
 芋頭形水指
 小山富士夫氏との交流「不識形」の水指に挑んだとの解説に感心した。 
 青リンゴのような可愛らしい香合にも感嘆。
 壁に掛ける花入れがどれも素敵で見惚れた。

6 常滑自然釉と登窯 常滑焼の伝統に向き合う心
  最後のこの大壺が林立するコーナーに大感動した。 
  これは一体いつの作かと。
  三代常山の作陶の大壺の中に
  平安期の大壺が陳列されていても全く違和感がない。
  平安期と昭和、平成の大壺の競演に拍手大喝采。
  この三代常山の作品を丹念に収蔵されてきた出光のコレクションの目の
  すばらしさと確かさに大いに敬服し、 
  この展覧への静かな情熱に感謝姿態気持ちで一杯となった。

この展覧の鑑賞中にあれま、遊行さんではないですか。というばったりも
一層楽しめたものになった。
いつもながら熱心な鑑賞ぶりにエールを送りつつ、
しばし常滑の大壺の中に埋没したい気持ちとなっていた。

会期は2月19日まで。
サイト内の解説も充実しています。
こちらです。

併設の朝夕庵から。
掛軸 仙厓筆 博多松囃子画賛
 合い生ひを君に祝し 松はやし 
 千の松原 生きの松原   

今年も出光美術館に通うこととなることでしょう。
ホッとする、癒やしの空間であることに感謝しつつ。   

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