あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

陶匠 辻 清明の世界ー明る寂びの美 東京国立近代美術館工芸館

2017-09-17 23:38:50 | 個展

 最近、陶芸、やきものに興味を示す友人から、
 「辻清明の世界」タッチ&トークに参加してみようと誘われて
 竹橋の近代美術館の常設をするっと鑑賞し、
 工芸館のタッチ&トークを初めて体験してきました。

 辻清明、この陶芸家の作品をどこかで見ています。
 もちろん、ここ、工芸館でユニークな空き缶の作品も見ていました。

 とはいえ、どんな作家で、どんな作陶をしてこられたのか、
 まったくの無知でしたが、
 この機会を得て、とても惹かれる陶芸家だったことを知り
 大変喜んでいます。

 タッチ&トークでは
 なんと、貴重な作品を直に手に持つありがたい体験が許されます。
 30分、存分になで回し、間近に息を吹きかける距離で観察できるのです。
 その後、30分、会場でピックアップされた作品の前で
 興味深いエピソードも交えた解説をして頂きます。
 約1時間の中で印象に残ったものをおぼろげな記憶ではありますが、
 メモにしておこうと思います。

 *タッチ&トーク 14時〜15時
 
  辻清明作品が3点
  他、備前茶碗2点、小ぶりの徳利1点、萩焼茶碗1碗、
  磁器の大きな壺、皿一点ずつがテーブルの上に並びました。

  辻清明作品は信楽の土を多く使用しているようです。
  陶芸に選ぶ土としては珍しい事だと思いました。
  長石というざらついた小さな石が信楽独特の表情を作り出しますが、
  辻作品の茶碗は内側を丁寧につるつるにして茶筅を守る工夫がしてありました。
  窯の中で茶碗を横に寝かす場合、貝殻を下に置いて安定させるのだそうです。
  貝の筋目が確認できました。
  他に唐津の絵付けふくろう茶碗、
  たっぷりした徳利の手触りを楽しむことができました。

  合わせて、備前焼人間国宝の金重陶陽の作、
  前田昭博(まえたあきひろ)の青瓷壺(せいじつぼ)は轆轤で練りあげたとは思えない
  端正な流線が美しい花瓶。
  大皿の表面に芥子の花を貼り付けた、青白磁の久保田厚子作品などを
  間近に触れる機会を得たのは大変貴重なことでした。
  萩茶碗の作家名は聞き損じ、残念なことをしましたが、
  井戸茶碗型のたっぷりした、茶陶らしい、茶碗でした。

  次に、会場に移動し、辻作品の前で解説をして頂きました。
  工芸館のサイトに辻清明の年譜がありますので、参考にして下さい。
  サイトはこちら

  なにしろ、幼少の頃に轆轤を手に入れ、
  9才の誕生日にあの仁清の色絵雄鳥香炉が欲しいとねだり買ったもらった、
  という信じられないエピソードに驚嘆しました。
  買ってもらえる環境だったという事にも驚きです。
  14歳の時にお姉さんと「辻陶器研究所」を立ち上げ、
  これまた板谷波山、富本謙吉のもとに行き、自作を講評してもらうなど、
  天晴れすぎる青少年期を過ごすのです。
  のちに小山富士夫氏に六古陶を学び、37歳で「明る寂び」の言葉と出会い、
  信楽の土にその道を見つけるのでした。

  順調だった作陶生活でありましたが、
  辻氏62歳の1989年に穂高にある工房を焼失してしまう惨事にみまわれ、
  コレクション、書籍など2千点余りが焼失してしまったそうです。
  どれほど落胆されたことでしょう。
  ところが、よく年には残された土で作陶するし、
  63歳の時にガラス作品を手がけたり、
  一歩も後戻りなどせずに前を向いて制作に邁進されたのでした。

  復活を遂げたときの「白樺の林」と名付けられた茶碗には思いも深く、
  大変お気に入りだったようです。
  「聚楽掛分茶盌」(茶碗の碗を使わずに「盌」を使用)


  
  師を持たず、自由でユニークな作陶をした代表に
  「信楽陶缶」がありますが、1981年からずっと制作が続きます。
  最初にその作品を買ったのが、安部公房さんだったとか。
  辻家の周りには錚々たる面々が集まってきたようです。
  陶缶は晩年亡くなる直前、2006年にも制作されています。



  
  工芸館の中で一番重要な畳の展示場所に
  巨大な合子、「信楽大合子 天心」が鎮座します。
  背景にかかる書は「壺中日月」辻清明書。
  フライヤーに登場した迫力溢れる作品です。
  書も師を持たず、自己流だったとのこと、それにしても
  悠々たる味のある書です。
  ガサガサの表現は普通の筆ではないと思い、
  お尋ねすれば、なんと縄、を使われたとのこと。
  火襷の藁を使ったのかと想像しましたが、自由人のおおらかさに
  心和みました。
  それにしても巨大な合子、球体が窯焼きに耐えかねて
  ばっくりと大胆に裂けたその裂け目が強烈な印象を与えるのです。


  
  様々作品が並ぶ中、若かりし頃の作品が余りにもきっちりとしていて
  凛々しさの白磁作品にまたしても驚かされてしまいます。
  「白磁香炉」1941年
  「白磁香合」1943年
  辻清明、14歳、16歳の作品で、実に端正で真面目に作陶しているのですが、
  これをもって板谷波山、富本憲吉のもとへ行ったという、曰わく付きの作品です。
  それに対し、板谷波山、富本憲吉両巨匠は子供扱いせずに
  きちんと講評したそうで、それもまた立派なことだったと感心します。
  それにしても大胆かつ勇気のある少年です。



  今の中学生棋士のような類い希な才能を自覚していたのでしょうか。
  以下、会場内の作品画像アップします。













  作品の展示の後半は
  辻清明コレクションです。
  これがまた、大変な古美術ぞろりで恐れ入りました。
  最初に縄文、「亀型笛」です。


  古墳時代のもの、平安期の猿投、室町の瓶子、蹲(うずくまる)
  桃山の茶陶ずらり、李朝期の白磁、青磁、などなど。


  小壺 蹲 室町時代 信楽


  斑釉貝形小杯 江戸時代 萩 (これは作品名と作品が合っているのか、未確認です)


  姥口鉄銚子・赤絵蓋 蓋 江戸時代  黄瀬戸小盃 桃山時代


  粉青沙器印花象嵌瓶 会釈 朝鮮王朝時代


  伽藍石香合 桃山時代 伊賀  木菟香合 桃山時代 信楽

  最後は辻氏と交流、同時期の作家作品。
  夫人の辻協作品も。
  夫人も陶芸作家でした。

  限られた時間でざっくりの鑑賞でしたので、
  できればもう一度丁寧に拝見したいと願いました。

  信楽の土の魅力に惹かれた、類い希な陶芸家、
  辻清明の堂々たる個展、今回の展覧でまた一人、
  大切にしたい陶芸家が増えたのでした。

  会期は11月23日まで。晩秋に再訪したいと思いました。
  チャンスがあれば、タッチ&トークお試し下さい。
  工芸館のガイドスタッフのみなさんが丁寧にガイドして下さいます。
  毎週水曜日、土曜日。

  工芸館タッチ&トークサイトはこちら。詳細チェックでお間違いなきよう。

  *今回の展覧はカメラOKの作品が多く、楽しめます。
   不可の場合がありますので、ご注意下さい。
  *辻清明氏の「辻」は点が一つのものです。パソコン漢字になかったため、
   便宜上「辻」を使用しています。

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