あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

生誕250周年 谷文晁展 ・サントリー美術館

2013-07-26 17:36:32 | 日本美術


 江戸時代後期の江戸の絵師、谷文晁の展覧がサントリー美術館で始まっています。
 この文晁という人の画業のことは漠然としていてわからないのですが、
 展覧会で江戸絵画が紹介される中で、いちいち引っかかっていました。
 しっかりとした画業を裏付けるようなぶれのない、淡々とした表現に
 同時期の奇想絵師や、琳派の継承者達の中にあっても
 クールさが際だって逆に印象に残るのです。

 先月東京江戸博物館で開かれた、ファインバーグコレクションの中にも
 堂々とその技を見せつけていました。
 あの飄々とした富士山、
 でかでかと印章の朱をこれ見よがしに押してある秋夜名月図など。
 
 また文晁の交友関係者の面々が超一流な人達ばかり。
 木村兼葭堂、大田南畝がいたり、
 お弟子さんにあの、渡辺崋山、田能村竹田がいたり。
 酒井抱一とは交友関係があったり。

 今回のちらしの「この絵師、何者!?」
 その通りだと思ったのでした。

 何年か前に今は閉店してしまった銀座の松坂屋で
 紫式部展開催の時に「石山寺縁起絵巻」が展示されていて、
 その時に谷文晁という名前を刻みました。
 荒れ狂う海の波打ち際で馬と溺れそうないなるシーンがとても印象的で
 記憶に残りました。

 皇室にも虎の図が収められていたことを思い出しました。
 
 今回の展覧でいよいよその全貌が見晴らせるのでしょうか。

 谷文晁
 1763ー1840 徳川御三家の田安家に仕え、松平定信付となって
 その御用を多く務めた。中国画や狩野派、やまと絵などの古画、
 南蘋派や洋風画などあらゆる作品を学び、多種多様な作品を残した。
 門下には渡辺崋山、椿椿山など多くの弟子を輩出、
 江戸画壇の大御所として文人画界に大きな影響を与えた。
 (皇室の名宝図録の解説より抜粋)

 透明感のあるしっとりとした寛政文晁(前期)
 柔軟な筆墨による力強い作風の烏文晁(後期)に大別される。
 全国の名山を写生して「名山図譜」を著作。
 「秋夜名月図」は広重が「江戸高名会亭尽」のなかの
 一図の画中に文晁の署名があるこの秋夜名月図を描いていて
 広重はこの絵を見ていた可能性が濃厚である。
 (ファインバーグコレクション展図録より抜粋)

 「江戸時代の画家は誰もが最初は狩野派なんです。
  師、文麗の字をもらって狩野派を表看板に掲げていた
  文晁は、江戸絵画の大きな潮流に乗っていたといえます」
 「文晁の作品で有名なのは重要文化財<公余探勝図巻>でしょう。
  松平定信が海防警備のため江戸沿岸地域に視察に出掛ける際、
  今でいうカメラマンの代わりに文晁をつれて各所をスケッチさせたのです」

 また、古美術品に関心を持つ定信の命で文化財保護の調査に派遣され、
 全85巻の「集古十種」の編纂では1859点の文物の模写に従事しました。
 さらに定信の命で<石山寺縁起絵巻>の6,7巻を補完することとなります。

 「朝は早起きして描いて、夜は吉原に行っても一杯飲んで早帰り、そのあたりは
  親しく交流していた抱一とは違いますね」
 「彼はお酒が好きで、自分のブランドを作ったほど。
  彼のパトロンであった江戸一番の料亭八百善によく仲間と集い、
  「江戸流行料理通」などに挿画を描いています」
 (SUNTORY MUSEUM of ART NEWS vol,245 より
    「」は河野元昭先生インタビューより抜粋)
 
 彼方此方から文晁のプロフィールやらエピソードを
 取り込んでみました。どんな人なのか少し見えてくるような気がします。
 
 会場の構成は
 様式のカオス、
 画業の始まり、
 松平定信と「集古十種」ー旅と写生
 文晁と「石山寺縁起絵巻」
 文晁をめぐるネットワークー兼葭堂、抱一、南畝、京伝
 という章立てで文晁が生きてきた時代をなぞるようになっています。
 松平定信の堅実な目となり、それを写してきた文晁の世界は
 雄大な名山の写生に裏付けられた壮大さが魅力の一つなのではないかと
 富士山図屏風をみて感じました。
 丁寧な描き込みも素晴らしいけれど、
 墨の悠然とした画面にとても惹かれました。
 また、石山寺縁起絵巻の再会も嬉しく、
 その全貌を見届けることが出来たのも大収穫でした。
 また、交友関係の濃厚さは驚きですが、
 夫婦で扇面に絵を描いたり、微笑ましい一面も見られました。
 抱一との仲良しぶりも楽しく、
 その近くで其一もふらふら登場していたのではないかと
 嬉しくなります。其一はきっと文晁を眩しく思ったのではないかと。
 弟子達集合図の中の渡辺崋山の妖しさも印象的でした。
 8月25日までが会期ですが、7月31日から大きく展示替えがあります。 
 もう一度その偉業の一端を掴みに行きたいと思っているところです。

 サントリー美術館の展覧サイトも充実です。こちら。
 上野恩師公園内の一角に谷文晁の石碑があります。
 東博巡りの時にぜひチェックしてみて下さい。


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