今、有り難い事に東日本大震災の応援にプライス御夫妻による
プライスコレクションが東北を巡回中で、
鑑賞したみなさんは大いに元気をもらっていることでしょう。
そのコレクション収集の素晴らしさを東京国立博物館で
心底驚嘆したことを思い出します。
プライスさん御夫妻のように、アメリカの日本美術愛好者である、
ファインバーグ御夫妻のコレクションを展覧する展覧会が東京江戸博物館で開催されました。
(15日で閉幕)
紹介サイトやらで期待の胸を膨らませて、前期、後期とみてきました。
その記事を上げようとしたいたら、
夏風邪を長引かせてしまったり、他にも落ち着かない日々があって、
すっかり間の抜けた記事になってしいますが、
それはそれは素晴らしいコレクションだったので、
遅ればせながら、残そうと思います。
個人のコレクションはその収集家の人柄が作品群から立ち上ってきます。
ファインバーグ御夫妻が日常生活空間にこのコレクションを飾り、
愛でてきた紹介映像が江戸博内で放映されていました。
美術品が常に生活と共にある、落ち着きのある豊かさが
室内に飾られた作品から伝わってきます。
品格のある豊かな暮らし、それを現実に過ごしている、
本来のセレブな生活とはこういったことではないかと心底思いました。
会場に入るといきなり宗達のゆるい虎さんに迎えられます。
ずるい招き虎小僧です。虎かぶりですわ。
1,日本美のふるさと 琳派
光琳に小品、白菊と雪蘆団扇図二幅
後期は乾山の白百合の団扇図
深江廬舟、芳中、俵屋宗理、等が続きます。
酒井抱一の十二ヶ月花鳥図
この十二ヶ月花鳥図はプライスコレクション、宮内庁、
出光、畠山、香雪美術館に同種類のものがありますが、
色鮮やかなのは宮内庁ものでしょうけれど、
次にすばらしいのはこのファインバーグコレクションではないでしょうか。
そんな気持ちにさせられた逸品で
ズラリ展示されたのはとても豪華な気持ちになります。
プライスコレクションはエツコさんが所望されてジョーさんが
贈ったものというエピソードが羨ましすぎます。
其一による群鶴図屏風。
この群鶴図もよく光琳から継承される画題。
其一は光琳の紅白梅図の波頭デザインを継承し
鶴に躍動感を見せつつ、色の配置にはとてもクールな
計算を見せつけているように思えます。
クールななかに執着が見えるところが其一だと強く感じます。
其一の大江山図の瀧の直線と松桜のうねる配置、
目にも鮮やかな朱の袴の色、ここにも構図の計算がみえて
ただ者ではないな、と嬉しくなるのです。
その弟子、守一の
「平経正弾琵琶図屏風」
この源頼朝似の経正は琵琶の名手とかで、
琵琶を弾いていたら竹生島明神が白龍となって現れたとの
スペクタクルな画面に引き込まれてしまいます。
琳派の名手が小襖に描きます。
宗達の松島図に倣った其一の松島図小襖
神坂雪佳の三保松原図小襖
雪佳は愛らしい四季草花図を後期に二幅並べました。
2. 中国文化へのあこがれ 文人画
ファインバーグコレクションは池大雅をはじめ、
文人画をお気に入りだったのか、力作が集まっているように思いました。
池大雅の大迫力の水墨画屏風、「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」
こんな大作を初めて見ました。
どんな物語なのかと無知を悔しく思いますが、
ざざっと筆の走る勢いに引き込まれました。
与謝蕪村、浦上玉堂、等が並ぶ中、
中村竹洞の「四季花鳥図」4幅は落ち着いた静かな作品でした。
紀梅亭の線の描き込みの緻密な奇景には驚きました。
岡田米山人、山本梅逸、横井金谷、という珍しい作家作品も
拝見できました。
その後に谷文晁が現れ、その「秋夜名月図」の巨大な落款につい
笑ってしまいます。
「富士真景図」の堂々っぷりも併せてみなぎる自信が小気味良く
鑑賞者を愉快にさせてくれます。
岡本秋暉「蓮鷺図」の鷺の目の妖しさといったら、白い羽根を纏った
黒鳥の気配です。
お気に入りとしてマークしました。
また、福田古道人、奥原晴湖、渡辺玄対、という作家の名前を初めて
知りました。
ファインバーグコレクションの大きな位置を占めている、
中国文化系の作品群でした。
3,写生と装飾の融合 円山四条派
このコーナーの充実ぶりも忘れられません。
四条派といえば応挙から始まり、
その弟子達の作品が並ぶわけですが、
応挙といえば孔雀、その名品を押さえているところはさすがとしか
いえないと感心しました。
また、「鯉亀図風呂が先屏風」
風呂先そいえば茶釜の向こう側に置くものですが、
夏の暑い最中の茶事にどれだけ涼風を与えてくれたかと
透けるむこうの光も絵に取り込むあたり、流石の工夫です。
ちょろちょろと流水の音も聞こえてきそうです。
動物画の巨匠、猿を得意とした森狙仙、
睨まれたら捕まりそうな鷲の岸駒、
紅葉した楓に白い羽根のオウムを描いた岸岱
その中で鶴と鹿の広々とした自然公園のような襖絵がありました。
森狙山の甥、森徹山の作品です。
何をやってもカッコイイ柴田是真の「二節句図」二幅
なんと是真83才の作とか。
鄙びた農家の雛祭り、貴族の端午節句を描いてその対比が
面白いけれど、淡々と品良くまとまっているのでした。
その隣にぎょっとした月が見えました。
鈴木松年。上村松園さんの師匠ではないですか。
「月に雲図」今までの日本画にはない、近代的な
何かが起こりそうな緊張した気配があって、引き込まれました。
ただ月と雲、それだけなのに、ドキドキしました。
解説には急な雨に蓑を借りに行った先で
蓑(実)もなく一輪の山吹を差しだしたという古歌に倣ったという
山吹の花を描き表装にしたとのこと。
そういえば、浮世絵にもそんな画題があったように思います。
後期にはその場所に竹内栖鳳の描く「死んだ鶴図」
タイトルに死んだ、を付けなくとも、思いつつ、
迫真のリアルにいよいよ栖鳳達の西洋への学習意欲がみなぎるものでした。
4,大胆な発想と型破りな造詣 奇想派
いよいよ奇想江戸絵画の人気絵師達が集合しました。
先ずは山雪の屏風です。
山雪の画業に惹きつけられて京都まで日帰りした五月を思い出しました。
「訪戴安道・題季欵幽居図屏風」(ほうたいあんどう・だいりかんゆうきょずびょうぶ)
解説を読まないとどういった場面なのか、わからないのですが、
不気味な静けさと独特な枝の表現をみつける事が出来ます。
書家であり、詩人が友を訪ねるも
門前まで来て興が冷め引き返したという逸話が元になっているそうです。
前期・後期で右隻、左隻が展示されました。
その並びには若冲の菊、松が掛けられ、
奇想画家のコーナーに相応しい場面でした。
視線を後ろに向けるとなんと、
簫白の「宇治川合戦図屏風」が異彩を放っています。
それでも簫白の中では大人しい方ではないでしょうか。
平家物語の梶原源太景季が乗る名馬麿墨(するずみ)と
佐々木四郎高綱が乗る名馬生唼(いけずき)の場面。
大人しいといってもやはり一々くどくて嬉しくなります。
意表を突かれたのは「大黒天の餅つき図」
なんと軽妙でユニークなセンガイさんタッチなにこやかになる表現です。
後は廬雪が奇想コーナーを締めます。
廬雪描く動物たちには愛情を感じます。
「梅・薔薇に群鳥図」「藤に群雀図」
この連作はとても精密に丁寧に一気呵成のものとはまったく
違った鍛錬がみられました。
5.都市生活の美化、理想化 浮世絵
コレクションラストを飾ったのは浮世絵師達の優品群
先ずは展覧の中では一番古い作品、安土桃山から江戸時代の作とされた
「南蛮図屏風」作者不詳ですが、港の交易現場を賑やかに演出しています。
山楽、山雪の時代を彷彿とします。
物珍しい画題は評判になったに違いありません。
後期には菱川師平の「花見遊楽・吉原風俗図屏風」が替わりました。
英一蝶の「若衆と遊女図」の軸装の艶やかさも目に止まりました。
遊女が描かれた軸装は遊女と張り合うような艶やかな布が使われて
それも大切な楽しみ方です。
懐月堂派の美人図が現れて喜びました。
勢いのある衣装の描き方、しなやかさというよりは
気っ風の良い力強い女性の立ち姿です。
磯田湖龍斎「松風村雨図」三幅
モノクロの中に顔面だけが白々とした幻想的な作品です。
貴公子に恋をした姉妹の図であっても色数のない
渋い暗澹たる画面にその恋の行方さえ案じてしまいます。
歌川豊春の立派な大作、「春景遊宴図屏風」
日本絵画にも遠近法が用いられ、遠景の描き方、
手前の描き方に工夫が見られます。
そういえば、酒井抱一は当初浮世絵を学んでいたことを
思い出しました。
酒井抱一「遊女立姿図」
歌川豊春の特色を受け継いでいるそうですが、
とても品の良い姿は何をやっても酒井家の血筋がさせるのでしょうか。
珍しい作品、三畠上龍「舞姿美人図」
この画家は京都の肉筆美人画を得意としたそうです。
当代玉三郎さんの面影を見ました。
京都の画家がもう一人。
祇園井特「化粧美人図」下唇の青い当時流行のお化粧をしている
女性の姿に江戸にはない雰囲気があります。
広重「隅田河畔春遊図」
筑波山を遠景に桜の花見の頃、桜餅を食べていたのでしょうか。
全体に柔らかな雰囲気が漂います。
ラストに北斎「源頼政の鵺退治図」
北斎も簫白と同じく平家物語を取材した作品でしたが、
北斎は源頼政が弓を引く姿を描きました。
矢の先には鵺がいたことでしょうが、北斎はそれを見る人に想像させます。
北斎88才老人卍筆のみなぎる力を大迫力で描ききります。
こうしてファインバーグコレクションを前期・後期と見る機会に恵まれたことを
心から喜んでいます。
全体に広がる安定した質感とぶれのない視線と
その格調の高さに感嘆しました。
また、日本の近代化していく瀬戸際の時代を
改めて評価したくなるコレクションでもありました。
煌びやかな派手さは控えめであっても
実際の生活の中で愛でてきた、日本美術を愛し続けてきた
御夫妻の情熱がひたひた伝わってくるものでした。
コレクションを始めたのが1970年代だったということ、
日本美術史の専門の小林忠先生との旧交があったこと、
様々なエピソードも図録から読むことが出来ました。
これから日本を縦断し、展覧会が開催されます。
夏休みにはMIHO MUSEUM
その後鳥取県立博物館へ巡回します。
日本国内でプライスコレクション、ファインバーグコレクションが
ぐるぐる日本を駆け巡っていることも
なんだか奇遇な特別な一年なのではないかと
有り難い気持ちに満ちてきます。
日本美術は私たちの国だけのものではない
世界のものだとビッグコレクターに教えてもらっているようです。
詳細はこちらをご参照下さい。
追加* MIHO MUSEUM のサイトはこちら
プライスコレクションが東北を巡回中で、
鑑賞したみなさんは大いに元気をもらっていることでしょう。
そのコレクション収集の素晴らしさを東京国立博物館で
心底驚嘆したことを思い出します。
プライスさん御夫妻のように、アメリカの日本美術愛好者である、
ファインバーグ御夫妻のコレクションを展覧する展覧会が東京江戸博物館で開催されました。
(15日で閉幕)
紹介サイトやらで期待の胸を膨らませて、前期、後期とみてきました。
その記事を上げようとしたいたら、
夏風邪を長引かせてしまったり、他にも落ち着かない日々があって、
すっかり間の抜けた記事になってしいますが、
それはそれは素晴らしいコレクションだったので、
遅ればせながら、残そうと思います。
個人のコレクションはその収集家の人柄が作品群から立ち上ってきます。
ファインバーグ御夫妻が日常生活空間にこのコレクションを飾り、
愛でてきた紹介映像が江戸博内で放映されていました。
美術品が常に生活と共にある、落ち着きのある豊かさが
室内に飾られた作品から伝わってきます。
品格のある豊かな暮らし、それを現実に過ごしている、
本来のセレブな生活とはこういったことではないかと心底思いました。
会場に入るといきなり宗達のゆるい虎さんに迎えられます。
ずるい招き虎小僧です。虎かぶりですわ。
1,日本美のふるさと 琳派
光琳に小品、白菊と雪蘆団扇図二幅
後期は乾山の白百合の団扇図
深江廬舟、芳中、俵屋宗理、等が続きます。
酒井抱一の十二ヶ月花鳥図
この十二ヶ月花鳥図はプライスコレクション、宮内庁、
出光、畠山、香雪美術館に同種類のものがありますが、
色鮮やかなのは宮内庁ものでしょうけれど、
次にすばらしいのはこのファインバーグコレクションではないでしょうか。
そんな気持ちにさせられた逸品で
ズラリ展示されたのはとても豪華な気持ちになります。
プライスコレクションはエツコさんが所望されてジョーさんが
贈ったものというエピソードが羨ましすぎます。
其一による群鶴図屏風。
この群鶴図もよく光琳から継承される画題。
其一は光琳の紅白梅図の波頭デザインを継承し
鶴に躍動感を見せつつ、色の配置にはとてもクールな
計算を見せつけているように思えます。
クールななかに執着が見えるところが其一だと強く感じます。
其一の大江山図の瀧の直線と松桜のうねる配置、
目にも鮮やかな朱の袴の色、ここにも構図の計算がみえて
ただ者ではないな、と嬉しくなるのです。
その弟子、守一の
「平経正弾琵琶図屏風」
この源頼朝似の経正は琵琶の名手とかで、
琵琶を弾いていたら竹生島明神が白龍となって現れたとの
スペクタクルな画面に引き込まれてしまいます。
琳派の名手が小襖に描きます。
宗達の松島図に倣った其一の松島図小襖
神坂雪佳の三保松原図小襖
雪佳は愛らしい四季草花図を後期に二幅並べました。
2. 中国文化へのあこがれ 文人画
ファインバーグコレクションは池大雅をはじめ、
文人画をお気に入りだったのか、力作が集まっているように思いました。
池大雅の大迫力の水墨画屏風、「孟嘉落帽・東坡戴笠図屏風」
こんな大作を初めて見ました。
どんな物語なのかと無知を悔しく思いますが、
ざざっと筆の走る勢いに引き込まれました。
与謝蕪村、浦上玉堂、等が並ぶ中、
中村竹洞の「四季花鳥図」4幅は落ち着いた静かな作品でした。
紀梅亭の線の描き込みの緻密な奇景には驚きました。
岡田米山人、山本梅逸、横井金谷、という珍しい作家作品も
拝見できました。
その後に谷文晁が現れ、その「秋夜名月図」の巨大な落款につい
笑ってしまいます。
「富士真景図」の堂々っぷりも併せてみなぎる自信が小気味良く
鑑賞者を愉快にさせてくれます。
岡本秋暉「蓮鷺図」の鷺の目の妖しさといったら、白い羽根を纏った
黒鳥の気配です。
お気に入りとしてマークしました。
また、福田古道人、奥原晴湖、渡辺玄対、という作家の名前を初めて
知りました。
ファインバーグコレクションの大きな位置を占めている、
中国文化系の作品群でした。
3,写生と装飾の融合 円山四条派
このコーナーの充実ぶりも忘れられません。
四条派といえば応挙から始まり、
その弟子達の作品が並ぶわけですが、
応挙といえば孔雀、その名品を押さえているところはさすがとしか
いえないと感心しました。
また、「鯉亀図風呂が先屏風」
風呂先そいえば茶釜の向こう側に置くものですが、
夏の暑い最中の茶事にどれだけ涼風を与えてくれたかと
透けるむこうの光も絵に取り込むあたり、流石の工夫です。
ちょろちょろと流水の音も聞こえてきそうです。
動物画の巨匠、猿を得意とした森狙仙、
睨まれたら捕まりそうな鷲の岸駒、
紅葉した楓に白い羽根のオウムを描いた岸岱
その中で鶴と鹿の広々とした自然公園のような襖絵がありました。
森狙山の甥、森徹山の作品です。
何をやってもカッコイイ柴田是真の「二節句図」二幅
なんと是真83才の作とか。
鄙びた農家の雛祭り、貴族の端午節句を描いてその対比が
面白いけれど、淡々と品良くまとまっているのでした。
その隣にぎょっとした月が見えました。
鈴木松年。上村松園さんの師匠ではないですか。
「月に雲図」今までの日本画にはない、近代的な
何かが起こりそうな緊張した気配があって、引き込まれました。
ただ月と雲、それだけなのに、ドキドキしました。
解説には急な雨に蓑を借りに行った先で
蓑(実)もなく一輪の山吹を差しだしたという古歌に倣ったという
山吹の花を描き表装にしたとのこと。
そういえば、浮世絵にもそんな画題があったように思います。
後期にはその場所に竹内栖鳳の描く「死んだ鶴図」
タイトルに死んだ、を付けなくとも、思いつつ、
迫真のリアルにいよいよ栖鳳達の西洋への学習意欲がみなぎるものでした。
4,大胆な発想と型破りな造詣 奇想派
いよいよ奇想江戸絵画の人気絵師達が集合しました。
先ずは山雪の屏風です。
山雪の画業に惹きつけられて京都まで日帰りした五月を思い出しました。
「訪戴安道・題季欵幽居図屏風」(ほうたいあんどう・だいりかんゆうきょずびょうぶ)
解説を読まないとどういった場面なのか、わからないのですが、
不気味な静けさと独特な枝の表現をみつける事が出来ます。
書家であり、詩人が友を訪ねるも
門前まで来て興が冷め引き返したという逸話が元になっているそうです。
前期・後期で右隻、左隻が展示されました。
その並びには若冲の菊、松が掛けられ、
奇想画家のコーナーに相応しい場面でした。
視線を後ろに向けるとなんと、
簫白の「宇治川合戦図屏風」が異彩を放っています。
それでも簫白の中では大人しい方ではないでしょうか。
平家物語の梶原源太景季が乗る名馬麿墨(するずみ)と
佐々木四郎高綱が乗る名馬生唼(いけずき)の場面。
大人しいといってもやはり一々くどくて嬉しくなります。
意表を突かれたのは「大黒天の餅つき図」
なんと軽妙でユニークなセンガイさんタッチなにこやかになる表現です。
後は廬雪が奇想コーナーを締めます。
廬雪描く動物たちには愛情を感じます。
「梅・薔薇に群鳥図」「藤に群雀図」
この連作はとても精密に丁寧に一気呵成のものとはまったく
違った鍛錬がみられました。
5.都市生活の美化、理想化 浮世絵
コレクションラストを飾ったのは浮世絵師達の優品群
先ずは展覧の中では一番古い作品、安土桃山から江戸時代の作とされた
「南蛮図屏風」作者不詳ですが、港の交易現場を賑やかに演出しています。
山楽、山雪の時代を彷彿とします。
物珍しい画題は評判になったに違いありません。
後期には菱川師平の「花見遊楽・吉原風俗図屏風」が替わりました。
英一蝶の「若衆と遊女図」の軸装の艶やかさも目に止まりました。
遊女が描かれた軸装は遊女と張り合うような艶やかな布が使われて
それも大切な楽しみ方です。
懐月堂派の美人図が現れて喜びました。
勢いのある衣装の描き方、しなやかさというよりは
気っ風の良い力強い女性の立ち姿です。
磯田湖龍斎「松風村雨図」三幅
モノクロの中に顔面だけが白々とした幻想的な作品です。
貴公子に恋をした姉妹の図であっても色数のない
渋い暗澹たる画面にその恋の行方さえ案じてしまいます。
歌川豊春の立派な大作、「春景遊宴図屏風」
日本絵画にも遠近法が用いられ、遠景の描き方、
手前の描き方に工夫が見られます。
そういえば、酒井抱一は当初浮世絵を学んでいたことを
思い出しました。
酒井抱一「遊女立姿図」
歌川豊春の特色を受け継いでいるそうですが、
とても品の良い姿は何をやっても酒井家の血筋がさせるのでしょうか。
珍しい作品、三畠上龍「舞姿美人図」
この画家は京都の肉筆美人画を得意としたそうです。
当代玉三郎さんの面影を見ました。
京都の画家がもう一人。
祇園井特「化粧美人図」下唇の青い当時流行のお化粧をしている
女性の姿に江戸にはない雰囲気があります。
広重「隅田河畔春遊図」
筑波山を遠景に桜の花見の頃、桜餅を食べていたのでしょうか。
全体に柔らかな雰囲気が漂います。
ラストに北斎「源頼政の鵺退治図」
北斎も簫白と同じく平家物語を取材した作品でしたが、
北斎は源頼政が弓を引く姿を描きました。
矢の先には鵺がいたことでしょうが、北斎はそれを見る人に想像させます。
北斎88才老人卍筆のみなぎる力を大迫力で描ききります。
こうしてファインバーグコレクションを前期・後期と見る機会に恵まれたことを
心から喜んでいます。
全体に広がる安定した質感とぶれのない視線と
その格調の高さに感嘆しました。
また、日本の近代化していく瀬戸際の時代を
改めて評価したくなるコレクションでもありました。
煌びやかな派手さは控えめであっても
実際の生活の中で愛でてきた、日本美術を愛し続けてきた
御夫妻の情熱がひたひた伝わってくるものでした。
コレクションを始めたのが1970年代だったということ、
日本美術史の専門の小林忠先生との旧交があったこと、
様々なエピソードも図録から読むことが出来ました。
これから日本を縦断し、展覧会が開催されます。
夏休みにはMIHO MUSEUM
その後鳥取県立博物館へ巡回します。
日本国内でプライスコレクション、ファインバーグコレクションが
ぐるぐる日本を駆け巡っていることも
なんだか奇遇な特別な一年なのではないかと
有り難い気持ちに満ちてきます。
日本美術は私たちの国だけのものではない
世界のものだとビッグコレクターに教えてもらっているようです。
詳細はこちらをご参照下さい。
追加* MIHO MUSEUM のサイトはこちら