時々思わぬ展覧に出くわします。
意表を突かれたというか、やられた、というか。
その驚きが体全体の血流を元気にします。
そんな展覧に行ってきました。
「福田美蘭展」
どういった方なのでしょう?
何も知らないで見るという事のワクワク度は想定外で
それも目に入る景色が一々面白いので
どんな人かは後で検索します。
同時開催のルーブル展と同じチケット売り場ではないので注意です。
会場入り口で求めます。
エスカレーターに運ばれて地下に潜ります。
正面に福田美蘭展のパネルがあり、その横に長い長い胡蝶蘭が
あって、そもそもこういうキッチュ系で掴みをとられるわけです。
まずはここが魔界であることを教えてくれるのです。
会場最初に見るのは
「銭湯の背景画」
私の母の実家は銭湯と鉄工所でしたから銭湯には懐かしみがあります。
銭湯の背景画といえば富士山ですけれど
この背景画にはその背景としてのアイコンが沢山隠れています。
とても日常的な商品ロゴが富士山の中にこっそり収納されています。
何が何個隠れているのか、さ、どれだけ見つけられますか?
制限時間を設けると一層楽しみ。
解説キャプションはご本人によるものなので、それがまた一々痛快です。
1,日本への眼差し
本当はこんな事やっていいのか?悩ましいぐらい立派な絵画をいじってしまいます。
黒田清輝の超有名な湖畔はカラーコピーされて、その続きの広がる景色をぐっと
拡げてしまいます。確かに本作よりも広々してしまいます。
掛け軸三幅はディズニーと共生、日輪はハートに、鯉は裏返しの死んだ鯉も。
またまた北斎の富嶽三十六景の神奈川沖波裏として、
本作を裏返ししてしまうことで木版にされる前はこんな景色だったのだと
知らされるのです。
工芸も面白いチャレンジを見せてくれます。
つまみ簪の地球儀、市松人形の白人黒人モデル。
レンズが鼈甲のサングラス、象牙製のマクドナルドスプーン、マドラー、ストロー
誰も鑑賞者の皆さんが笑っていないので声は出せなかったのですが、
あきれにあきれて大爆笑ものです。(絶賛しているのです)
福田美蘭さんは史上最年少で安井曾太郎賞を受賞しています。
その人が安井曾太郎さんのタッチで「安井曾太郎と孫」というタイトルで
安井のレアリスムを考えてみたかった、そう言っています。
またまた大原孫三郎の雪舟の山水図好きを思い、
大原家別邸の有隣荘をなどを置き換えてみたりしてしまうのです。
会場はまたエスカレーターで下ります。
2.現実への眼差し
ベラスケスのマルガリータを侍女の視点で描いたという絵画を
「新宿少年アート」に参加して制作したポケットティッシュ。
こともあろうに、ベラスケス風のティッシュ。
その次はメトロカードに使用されたサリン事件。
なんて危ないカードでしょう。
この章は事件性が強くなっているようです。
Oー157をぬぐうハンカチ、買い求めなければならなくなったゴミ袋、
ニューヨークツインタワービルがパンチされたベニヤ板の穴が
星になる夜景。
9,11後、人の話しを聞こうとしないブッシュを説得できるのは
もはやキリストしかいないのではないかと、キリストが話しかけている。
阪神淡路大震災の残された写真から大きく育って欲しいと願う満開のハクモクレン。
天皇皇后陛下のバンザイクリフで黙礼する図はニュースでその現実に
向かうお二人の姿は私の目にも印象的だった、
その絵の未完成をそのままにして完成作とした。
不動の桜と富士山の図をもしかしたら噴火してしまった後はこんな富士山に?
という固まったイメージへの思い。
今は飛行機に激突されてしまった世界貿易センターの眺望、
真っ白なスパティフィラムの鉢に刺さった切断された母親の腕、
今、現代に起きた大事件を美術家はどう向き合ってきたのか、
そういった視点で事件と関係してきた現実的なリアルな社会派的作品群でした。
3,西洋への眼差し
この福田美麗という画家は何でもやってしまうのです。
西洋画に対しても、こんな場合はどうか、という一種危ない発想とも思えるようなことを
熱心にやり遂げてしまいます。
床に置いて踏みつける絵画、天井の隅に投げ飛ばされたような位置に
すっぽりはまった変形した肖像画、
3Dのような立体絵画、冷蔵のの中に入れてしまう絵画、
もしかしたらドラえもんのポケットにレンブラントの肖像画、
ぶれたらレンブラントの夜警図は鑑賞者とともにどうなったか、
ミレーの種まく人の腕の動きの変化を描いてみる、
フェルメールの青いターバンの少女を鑑賞者と共に
原寸大で報道写真とはを考える、
あの、セザンヌのリンゴとオレンジを美大受験の講師の視点で
画面の中に解説分析添削を堂々と描き込んで評価B をつけてしまう、
モナリザのモデルを休憩させたら、という画題にしてしまう、
はたまたルーベンスの三美神の絵を洗浄したら中から現れたのは
ディズニーのアリスが現れた、
折りたたまれた額縁を拡げてみる風景画、
美術館ではあり得ない体験型鑑賞絵画、
もう、様々なチャレンジを巧みな画力でやってのけてしまいます。
アカデミックな世界からはどんな評価がぶつけられるでしょうか。
そんなことはお構いなく、マリアもキリストも無残にいじられてしまうのです。
ですが、破綻していなく、絵画としての立ち位置がしっかり伝わってきます。
何者ですか?
4,今日を生きる眼差し
このパートが一番重量感ある作品群でした。
これまでの作品で大体どういったことを狙って絵画にしてきたのかが
おおよそつかめたように思いますが、
吹き抜けの天井の高い一番底から見上げる場所に大作がずらり居並びました。
壮観な眺めでした。
西洋東洋の間を自由にくぐり抜け、描く狙いをしっかり見定めて
重層に画題を描ききります。
聖ゲオルギウス、受胎告知、アダムとイブ、などを体の移動の経緯を見せます。
磔刑図ではなにやらコラージュのような蠢いたもの達が描きこまれます。
狩野芳崖の悲母観音図の球体の中にいる嬰児を取り出し、
悲母観音の胸に抱くことによって、
背景の東北の大震災の被災地への思いを描いた、秋ー悲母観音の図に
生々しい母性の温かさを感じることが出来ました。
画家の父親が亡くなって届いた白い花々を世話する間に
ゴッホの薔薇の強さを感じたという、冬ー供花
震災後、作品を通して向き合う一歩となったという残酷なほど白い様々な花籠に
祈りを込めたのでしょうか。
東博のファンである私にとって嬉しい作品が目の前に現れました。
紅白芙蓉図
東博の遠景を背景に東洋館の名宝、紅白芙蓉図が白から紅に変化する過程を
本作の模写のように緻密に描ききります。
琳派の巨匠、宗達の風神雷神図を福田美麗が引き受けます。
キャプションに驚きます。
「画面内に収めない緊張感のある構図と動きを生み出すポーズ、
おおらかな描線とユーモラスで親しみのある楽しさが生命感と
躍動感を生んでいる。光琳に受け継がれなかった空間表現や感情といった
絵画的要素を抽象的、感覚的にとらえようと思った」
抱一がみたらなんと思うことでしょう?
しかし、琳派の息づかいは荒々しく、破天荒で暴れています。
躍動感、それが重層的に息づいていました。
オリジナルな継承を見た気がしました。
眼をちょっと上に上げるとバルコニーに誰かが立ってこちらを見下ろしています。
なんと、この都美の設計者、前川國男さんのパネルでした。
前川さんへのオマージュでこの展覧をみてもらっているという工夫に
どこまでもユーモア精神の豊かな作家さんだと嬉しくなったのでした。
最後に東日本大震災文化財復旧支援事業として
オフセット作品を3タイプ販売し、その全額を寄付するということでしたので、
一枚求めて小さな支援参加をしてきました。
福田美蘭展の図録はこの会場でしか販売していません。
1300円で、本展の作品と、画家の辿ってきた道を知ることが出来ます。
都美のミュージアムショップでは求めることが出来ないので
注意が必要です。
震災支援のオフセット販売はミュージアムショップだけでした。
都美のサイトはこちらです。
会期は9月29日までです。
一筋縄ではいかない、強烈に自由な発想を技量と画力で表現できる凄さを
じんじん感じました。
また、破格に痛快愉快なだけではなく、しっかり社会の暗部とも共生感を持てる
眼を感じます。
いつもとまったく違う脳波がピクピクしたとても興味深い展覧でした。
福田美蘭さんは、あの福田繁雄さん(2009年に他界)のお嬢さんだったのでした。
なるほど。自由な視点は環境からも生まれ育つのだと感じ入った次第です。
私よりも6つお若いのでした。
何はともあれ、現物の作品からあふれるユニークさと力強さを体感した
破天荒な展覧でした。