あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

5月のアート鑑賞記録

2014-06-08 22:48:02 | アート鑑賞記録

 5月のアート巡り備忘程度に。

 二十代の頃からのご縁で今も尚おつきあいのある夫人が
 4月末に急に入院、5月早々に手術ということになり、
 家族も身内の方もいらっしゃらない環境から
 私が動かなければと、お手伝いに伺うことにしました。
 旧知のご近所の方が献身的にサポートして下さっていたので、
 私はできる範囲でよかったのですが、
 病気になると色んな事が押し寄せてくること、
 ご本人の抱える荷物の大変さに驚かれたのではないかと思います。
 無事に手術は成功し、順調に快復に向かい、
 今はご自宅で静養中です。

 その渦中、やはり、最悪を想定して、
 様々な問題をどうやってクリアするべきなのか、
 頭の中で緊張が続いていましたが、
 なんとか、それは回避され、現状維持を保てそうです。
 そうはいっても、いずれ、という現実を受け入れることは必ずやってきます。
 覚悟を決めなければならない時がくるのです。

 生きているって事は大変な事です。
 胸に重石を抱いたまま、気分転換してきた、鑑賞記録です。

 *土田康彦展 東急本店8階美術画廊
  ベネチア、ムラーノでガラス制作をしているガラス作家さん、土田さんの
  ギャラリートークに草月教室の先生とご一緒してきました。
  土田さんの作品に草月の本江霞庭先生が花を生ける、というコラボをされました。
  そのお二人の作品を通してのお話を伺い、
  どこでもいつでも創作する神経を働かせて、表現することの難しさ、楽しさを
  肌で感じることができたのでした。
  土田さんは69年大阪の生まれで、ヴェネティアで数々の受賞歴を持ち、
  昨年の映画「利休にたずねよ」の中でガラス作家として出演もされてます。
  草月の本江先生の講義をサマーセミナーで受講したことがあり、
  とてもパワフルで許容のあるおおらかな、かつ、アグレッシブルな先生
  という印象で、尊敬しています。
  本江先生は自らヴェネティアにある土田さんのアトリエに押しかけて以来
  親子のような?息の合ったトークと作品コラボを見せて下さいました。








 *ミラノ ポルディ・ペッツオーリ美術館
  華麗なる貴族コレクション展  Bunkamuraザ・ミュージアム
  短時間での鑑賞でしたが、イタリアミラノの貴族の日常が
  如何に豪華華麗な環境であることか、
  それにため息をついてきました。
  横顔の美しい貴婦人の肖像、甲冑、タペストリー、時計、ガラス、などが並び、
  邸内のまばゆいさまがそのまま移動してきたかのようでした。
  お見舞いに美しい女性のハガキやら、ファイル、エコバッグなどを仕込んで
  お届けしたらたいそう喜んでくれて何よりでした。

 *のぞいてびっくり江戸絵画  サントリー美術館
  ミドルな旧友3人でミッドタウン内の和食屋さんで
  昼間っからビールなど傾け(下戸な私は、ほんのグラス四分の一ほど)
  ゆるっとランチをしてからサントリー美術館に回りました。
  毎回、ここの展示企画は楽しみですし、会場内のデザイン、作り込みが
  丁寧で美しく冴えているので、気持ちよく鑑賞できます。
  後期の展示でしたが、見所満載かつ、体験型もあって終始楽しんで
  鑑賞できたのでした。
  応挙の眼鏡絵は実際にレンズ越しに覗き眼鏡体験ができて大喜びしました。
  覗くという遊び、学び、工夫、発見がつまった、
  愉快で、さらに、美しい仕上げを感じられる展覧でした。
  次回は「徒然草」です。これもまた楽しみです。

 *光琳を慕う・中村芳中展 千葉市立美術館




  ミドルな三人組で千葉美ツアーしてきました。
  当然、まずはランチです。
  千葉美近くのイタリアンでしっかりお腹と気持ちを充実させて参戦してきました。
  こちらの展覧会は毎回資料とともに、ものすごい出品数があるので、
  体力勝負なところがあります。
  ゴールデンウィーク中なのに、肌寒く、どんよりした一日でしたが、
  会場内にはほっこり、ゆるっとした呑気なうららかな空気が充満していました。
  もしかしたら、このゆるさは光琳を慕いつつも実は
  乾山のDNAが強いのではないかと感じたのでした。
  どの作品を見ても、見る人の頬を緩ませる、画家のセンガイ和尚的な
  油断を引き起こさせてしまいます。
  そんな中、「許由巣父・蝦蟇鉄拐図屏風」という大作が現れます。
  花鳥図の小品が多く、ゆるくデフォルメされた木々花々の形に
  目が慣れてしまっていたところ、突然の屏風絵に仰天してしまいました。
  こんな大作、手がけていたんですか!
  常々、光琳を輝かせる琳派展でも終わりの方に数点の紹介程度で終わる
  芳中が会場全体を覆い尽くす作品数にひたすら喜んできました。
  芳中をとりまく絵師たちの脇も充実していました。
  それにしても作品の多くが「個人蔵」
  よくここまで協力てくれたものだと、敬意を表しました。
  同時に関連展覧として、「春爛漫」という所蔵版画展が企画されていました。
  浮世絵の名だたる絵師の作品から、芳年、明治の揚州周延、その後に
  小原古邨という作家の版画に目がとまりました。
  色鮮やかな繊細でかつビビットな表現で近代的な版画だと感じました。
  それにしても、前期後期含めて総数228点、所蔵展は100点。
  体力勝負、眼力勝負でへとへとになりました。
  とはいっても、念願かなった芳中のワンマンショーです。
  晴れ晴れしい気分とゆるり脱力もした、充実感あふれる展覧でした。




 *三井記念美術館特別展 超絶技巧!明治工芸の粋
  トークイベント 「日本美術応援団 明治工芸を応援する!」
   井浦新氏×山下祐二氏 日本橋YUITO6F大ホール
  このイベント情報を知っていち早く申し込んで楽しみにしていました。  
  申し込み番号、12!
  会場につくと整理番号が発券され、列ができていました。
  この人気ぶりは新さんのファンがさぞ押し寄せているのだろうと
  ちょっと場違いのようで戸惑ってしましましたが、
  山下先生の楽しいお話はすぐに会場の空気を明治工芸の魅力へ
  連れて行ってくれました。
  先生の門下生になりたい学生は列をなしていることでしょう。
  お二人のトークは虫が好きな少年会談を呈していて、
  それもまたほほえましく、つい聞き惚れているのは
  一体私はここに何をしに来たのか、判然としない事態に陥ってしまいました。
  とはいえ、京都清水三年坂美術館の村田館長の飛び入りトークがあったり、
  明治期工芸は実は海外の方に理解があって作品も海外に随分渡っているとか、
  やはり美術館のケース越しからは伺えない生のお話はとても興味深いものでした。
  早々に展覧会を見に行くつもりでしたが、いまだかなわず、
  今月中にはしっかり時間を作って鑑賞したいと願っています。
  重要なことは、新さん、無事に山下先生のテストを通り、
  日本美術応援団入団が決定されたとのこと。
  拍手喝采!

 *コンテンポラリーアートジュエリー展 銀座三越店 8階ギャラリー
  ここに若いジュエリー作家さんたちが集合して新しいジュエリー作品を
  発表していました。
  その中に金工作家の鈴木祥太さんが参加されてました。
  ひょんな事からのご縁で、祥太君と呼んで親しくさせてもらっているのですが、
  彼独特の極小繊細技巧世界を見てきました。
  壊れそうな折れそうな小さな金属の花びらが帯留めだったり、  
  ピンブローチだったり。
  めしべのその裏にも細やかな手が目が注がれている、
  小さなじつは広い宇宙の始まりです。
  参加作家さんたちの色んな工夫も面白く,楽しく拝見してきました。
  食い入るように見ている若い女性たちの多かったこと、
  会期中きっと大盛況だったことでしょう。

 *国立文楽劇場開場30周年記念 
  七世竹本住大夫引退公演 国立劇場小劇場
  増補忠臣蔵、恋女房染分手綱、卅三間堂棟由来   



  いよいよこの時がきてしまった、住大夫さんラストの東京公演です。
  大夫が引退を表明されて、大阪では無事に千秋楽まで菅原伝授をお努めになり、  
  ニュースや、特番などでも紹介されました。
  心中いかばかりかと、その姿を拝見できるだけで、
  ぐっと来るものがありました。
  まだまだ文楽初心者で、その本来の意味が理解できていませんが、
  住大夫さんがくるっと床に現れると
  割れんばかりの拍手が鳴り響きました。
  場が一瞬で変わったのでした。
  隣には住大夫さんの側でずっと三味線を弾いていた錦糸さん。
  恋女房染分手綱の沓掛村の段、切場をつとめられます。
  この演目は住大夫さんの父、六世住大夫さんの引退演目で
  文楽を愛してきた親子の絆もあり、最終の舞台を飾る
  縁の深い演目だということを知りました。
  若い大夫さんの麗しく通る声のすばらしさに聞き惚れはするのですが
  住大夫さんの奥深い腹の底から滲み出てくる切ない語りには
  どうにも簡単に追いつけるものではないと明らかです。
  住大夫さんの「浄瑠璃は情でんなぁ」
  と常々仰っていたことがその滋味あふれる野太い声からぎゅんと伝わり、
  若い活気ある八蔵、年老いた母、主人の嫡男与之助などの人物を
  見事に語り分けて物語りしていきます。
  与之助の兄、眼病を患ったその頭の美しいこと。
  今回は住大夫さんの引退公演と言うことで、
  パンフレットは特集が組まれ、付録に住大夫さんのグラビアがセットされました。
  68年の長きにわたる大夫としてのお勤め、本当にお疲れ様でした。
  わずかな舞台しか拝見できませんでしたが、それでも、生で鑑賞できたこと、
  ありがたく感謝したいと思います。
  この五月の舞台は主演者一同で住大夫さんを慕い、尊敬し、
  見事な引退公演にしてお送りしようという心が詰まっているようでした。

 *茶道美術の玉手箱
  開館50周年記念 畠山記念館名品展  畠山記念館
  この時のことは先に記事にしましたので、
  こちらをご覧下さい。
  
 *日本絵画の魅惑 出光美術館
  前期、後期とも鑑賞できたことは幸運でした。
  この名品の数々が全て出光所蔵品というコレクションのすばらしさに
  改めて敬服しました。
  日本美術絵画の変遷を辿る歴史の川に流されて
  耽美な自然を崇め、共に生きて自らの生命の光を
  画面に注ぎ、静かに次の人々へ襷を手渡してきた、
  日本絵画の旅をするようです。
  その側には日々の営みを共に暮らしてきた工芸品たちが
  脇を支えます。
  このバランスのよい展示は見る側に心地よいリズムとなって
  調和に溶け込む豊かな時を過ごすことになるのです。
  絵巻、仏画、室町水墨画、室町やまと屏風
  風俗画、浮世絵、文人画、琳派、狩野派と長谷川等伯、
  仙ガイというジャンルからの名品がずらり。
  出光の所蔵の奥深さと名品の質の良さに静かな
  感動の波が押し寄せてきます。
  次回は没後90年の鉄斎。濃厚な鉄斎ワールドを楽しみにします。



 ということで、おかげさまで充実の五月を過ごすことができました。
 行きたかった展覧も数々あれど、日常と優先順位の葛藤で
 なかなか回りきれるものではありませんが、
 時を見つけてまたふらり出かけたいと願っています。




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