あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

陰影礼讃 ・国立新美術館 

2010-09-24 23:33:09 | 美術展
谷崎潤一郎が記した「陰影礼賛」の中の、
ご不浄の落とし紙の辺りから差し込む光をなんとはなしに
思い出した。

影にこそ美が宿るみたいなことを訴えていたようだった。

実際太陽光の裏にはみんな影がつきまとうので、
絵画芸術にも影は切り離せるものではない。
が、日本画において物体の影を描くようになったのは
西洋文化が入ってきてからのことではないだろうか?

北斎の娘 お栄、応為が置屋さんの黒ぐろとした影を描いた絵を思いだした。

光よりも影の方が魅力的だ。ミステリアス。

チラシのロトチェンコの写真は赤ちゃんを抱っこしているママの後ろ姿。
映画のワンシーンでもありそう。
若いベビーシッターが誘拐しているのかもしれない。
そういったどこか事件性も潜んでいる。
あぁ、乳母車を誰かが押している・・・

世界中から、日本からも影を抱えた画面が並んで
ぞくっとした。

登場する作品は国立美術館のコレクションからのもの。
つくづく良いものを所蔵しているのだと感心した。

展示作品をジャンル分けとか、テーマ別とかにとらわれずに
つまり、影で集合したのだと思えば、
幅の広さも難なく楽しめる。

どちらかと言えば日本作家の作品のほうが
ドロドロしていて、それが魅了する原因でもあった。
甲斐庄楠音の「幻覚」を筆頭に
竹内栖鳳、横山大観、速水御舟、岸田劉生
須田国太郎、安井曽太郎、長谷川潔、浅井忠、等々

京都から出品されているものは、
なかなか見に行かれない者にとってはとてもありがたい。

先日近代美術館で北脇昇の「独活」(うど)を見た。
その姿と独活を画材にする意表と和製シュール作家たちの
存在をまざまざと見せつけられて、
半ば呆れてつくづく凝視してきた。
ここの会場を出たところで個展の図録が驚きの
500円で販売されていたので迷うことなく手に入れた。
気がつかなかった作家たちはまだまだ沢山いるのだと思った。

版画ジャンルからも好きなモノが並んでうれしかった。

国立新美術館の鑑賞ガイドの冊子がとてもシンプルに良い出来で、
その表紙を飾っているのが
藤森静雄の木版。「月映」に寄せたもの。
浮世絵から離れて新しい木版表現を開拓した輝かしい時代。

それと、縁は異なもので、と思った作品との再会。
春に行った大阪の国際美術館から
高松次郎のカーブのある大きなパテーションのような
壁に大きな影が映し出されたような作品が現れた。
東京の近美にも赤ちゃんの影があったと思う。
今回はその作品までの設計図のような下絵があって、
興味深かった。
ただ影を書いているのではなく、
周到な設計図があったことを知ったのは収穫だった。

他には西洋版画
オノレ・ドーミエの説明タイトルがユーモアたっぷりなもの。
西洋美でおなじみだ。
ドラクロワのリトグラフ。
マックス・クリンガーのエッチング。
ゴヤのエッチング。ロス・カプリチョースの残酷シーン。

写真の世界から
ユージン・スミス
奈良原一高
川田喜久治
篠山紀信
畠山直哉
杉本博司

意外だったのはアンディ・ウォーホールのマリリン。
リキテンスタインの日本の橋のある睡蓮。
彼らの絵も影のイメージがあったのかと。

デュシャンの自転車の車輪や、帽子掛けが吊るされて
素敵な影絵となっていた。

作品の作家も大勢の出品で実に幅の広い「影」にまつわる
企画展覧だった。

それにしても各国立美術館の充実のコレクションが
一堂に会するこの機会を得たことが
「影」の礼讃であったのかもしれない。

個展の続く展覧に切り口の斬新さに触れるこkとができて
実に楽しい展覧だった。

10月18日まで。ゴッホで混む前に。ぜひぷらっと。


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4 コメント

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Unknown (一村雨)
2010-09-25 06:21:02
私もあのチラシで戦艦ポチョムキンを連想しました。
しかし、こんなに見ごたえのある展覧会だとはまったく想像してなかったので、嬉しいサプライズでした。
北脇昇の図録も良かったですね。
返信する
一村雨 さま (あべまつ)
2010-09-26 22:13:25
こんばんは。

早速のコメントTB有難うございました。
本当に思いがけない充実厚い展示作品の数々。
ゴッホの影になるかもしれないけれど、
大好き系展覧会でした。
今日の日曜美術館でも北脇昇の独活が紹介されてちょっと嬉しくなりました。
沢山の方に見て欲しいと思いました。
返信する
おひさしぶりです (チト)
2010-09-26 23:01:13
ステキな写真ですね。
私は、レオン・スピリアールトを思い出しました。

あべまつさん、今年の夏、私も乳ガンの洗礼を受けました。ごく初期だったのですけど。
返信する
チト さま (あべまつ)
2010-09-27 00:20:25
こんばんは。

とっても充実感のある展覧会で大満足でした。

本当にご無沙汰をしておりましたが、
お久しぶりのコメントにとっても驚きました。
でも前向きに対処されたことがわかって安堵しました。

暫くは心身をいたわってゆるゆるお過ごし下さいませね。
人生なかなか捨てたもんじゃありませんしね。私でお役に立つことがあったらお気軽におっしゃってください。お大事に~ 
返信する

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