先月「川村清雄展」のブロガー内覧に参加してきました。
あっという間に一ヶ月が経過してしまいした。
忘れないうちに、その展覧のことを思い出しながら辿ってみたいと思います。
江戸博のサイトはこちらから
その前に
川村清雄、ときいてご存知の方がどの位いるでしょう?
時々東京国立博物館の近代絵画コーナーに
「形見の直垂(虫干)」
が展示されますが、画家の名前を記憶できずにいました。
また、篤姫(天璋院)の肖像画を画いた人であったことも初めて知りました。
その川村清雄は高橋由一や黒田清輝の影に隠れた
幻の洋画家だという、その画業にようやく光が灯された展覧会となったようです。
江戸博開館20周年記念特別展に掲げられた
知られざる巨匠。
フランスへ渡った傑作「建国」が初めての里帰り。
ブロガー内覧会のご案内を頂かなければ
きっと見逃していたことでしょう。
展覧開催記念の会場には美術界の重鎮 高階英爾さんのお姿や、
鑑定団の一員の画廊主のお姿もお見受けしましたが
どことはなしにご年配のそれも何某か文化度の高そうな気配をお持ちの方々が
多く感じられたことも後からその訳が理解できることとなりました。
川村清雄は江戸で代々御庭番を勤めた幕臣の家系の子として生まれました。
嘉永5年(1852)~昭和9年(1934)
奥絵師住吉内記に8才で入門。
のち、大阪に祖父に従い田能村直入に師事。
12才で江戸に戻り、洋画を川上冬崖、宮本三平、高橋由一から学ぶ。
17才 明治維新。
20才、徳川家派遣留学生としてアメリカ留学。
22才、パリに渡る。
25才、パリからヴェネツィア美術学校に入学。
30才、大蔵省印刷局より帰国命令。
32才、勝海舟、赤坂氷川邸内に清雄の画室を建立。
33才、結婚。徳川家茂像、天璋院像落成。
その後、勝海舟の庇護をうけながらも
38才で小山正太郎、浅井忠、長沼守敬らと
日本洋画界振興のため明治美術会結成。
48才の時に勝海舟が亡くなる。「形見の直垂」を描く。
日本美術院で「川村清雄氏揮毫油絵展覧会」開催。
受難時代を過ごすも旧幕府関係者や文化人に重用された。
71才、明治神宮奉賛会より聖徳記念絵画館建設の際、
旧知の徳川家達から壁画作者として指名を受ける。
78才、パリ、リュクサンブール美術館に「建国」が収蔵される。
83才、奈良で病となり、死去。
ざっと年表を辿ってみると、
20代のほぼ10年にわたる留学体験。勝海舟に可愛がられたこと、
狩野派に入門という形態をとらずに、特別な師匠も持たない、
珍しい立場の画家であったこと、
徳川家との深いつながり、などなど、特筆すべき所でしょう。
幕臣方で育った立場上、時流は薩摩出身の黒田清輝率いる白馬会であっても
画壇との関係が馴染むこともなかったろうと推量できます。
でも、これが彼のスタイルで、生涯貫かれた感度の高い画業に
現れることとなったのだと思います。
個人的には思春期を信濃町絵画館に過ごしたことを思いだし、
その絵画館に川村清雄の作品がある、それだけでも親しみを覚えます。
徳川の命で20才そこそこでアメリカ留学を果たし、
才能を認められパリやヴェネティアに学んだという基礎が
森を描いたコローの自然界の表現や、
イタリア宗教画から会得した肖像画から見える人物描写など
洗練された実力と洋画習得に驚嘆します。
ところが、
日本の得意ジャンル、工芸にも沢山仕事を残しています。
屏風絵、絵皿、袱紗、短冊、扇面や漆芸や、
欄間の板絵などなど、日本工芸に名を残して欲しいほどの作品を制作しています。
感服する日本画家は、光琳、崋山、雪舟を上げているようです。
この江戸趣味は私の愛するジャンルでとても嬉しい
まさに和魂洋才ぶりを思う存分発揮する作品群でした。
最後の章にこの展覧のために里帰りした
「建国」がまわりの空気を一変するほどの鮮やかさで目の前に現れます。
東洋学者、シルヴァン・レヴィが偶然見た作品に感銘し
川村清雄作品を母国フランスの美術館に収蔵したいと願ったことから
制作されたものだということです。
図録の解説に寄れば
「建国」に描かれた鶏は「ガレリアの雄鶏」(フランス国家のシンボルの一つ)
という解釈があるそうで、
日本の「常世の長鳴鶏」とフランスの「ガレリアの雄鶏」を友好の象徴として
描いたのではないかということを暗示しています。
初めて見る川村清雄の作品群とその資料の展覧に
まだまだ知られていない画業を残した画家がいるものだと
感嘆しました。
同時期に目黒区美術館でも「もうひとつの川村清雄展」が開催されています。
目黒区美術館では知れず川村清雄をコレクションしていました。
縁者との交流もあったようで、これはセットで鑑賞することが
お勧めのようです。
狩野派でもない、四条派でもない、日本の魂を持ちつつも
幼少期からの日本画の手習いに、留学先で学んだ洋画を揺るがない画力として
身につけた、川村清雄独自の洗練された世界観と筆致に
ある種のすがすがしさを覚えます。
それは時流から孤立した存在であっても
彼の画才を重用した人もいたわけで
もっとも和洋折衷を上手く取り込めた画家として
これからもっと光が当たってくるような気がします。
会期は12月2日まで。
静かに絵とつきあう時間が
豊かな気持ちを思い出させてくれます。
目黒区美術館は12月16日まで。サイトはこちら