あべまつ行脚

ひたすら美しいものに導かれ、心写りを仕舞う玉手箱

もののあはれ展 ・サントリー美術館

2013-06-01 18:12:34 | 日本美術
 サントリー美術館の「もののあはれ」展に行ってきました。
 この美術館は毎回会場内の作り込みが素晴らしいのが見所です。
 会場に入った瞬間にその展覧への愛情が感じられて、
 その世界観に引き込まれることを毎回楽しみにしています。

 今回もその期待ははずれなく、日本の物語の道に迷い込み、
 ふわふわとした心持ちで鑑賞してきました。
 今の人びとは「もののあはれ」を体験、実感が少ないでしょう。
 自然との語らいで、届かぬ思いと理不尽と儚い命を
 どうやって受け止め、諦め、また生き抜いてきたのか、
 情緒豊かにしっとりとやり過ごせる力に憧れます。

 世にも切ない悲劇を甘美にしてしまうこの技は
 現実の惨さを直視しつつも、目を逸らし慰め、労り
 その辛さを詩にのせ、物語りにしてしまいます。

 この情緒は日本美術の中にとうとうと流れていることを
 会場内の展示品から改めて実感できます。

 最近では出光美術館で源氏絵伊勢絵の展覧があったばかり。
 その関連で源氏物語と再会します。
 驚きは
 小林秀雄の自筆の「もののあはれを」という色紙、
 もののあはれを感じることが大切と訴えます。
 また川端康成の堂々とした「雪月花」という墨書。
 文士達は美という刀を隠し帯刀していたに違いありません。

 乾山の短冊皿十客揃が湯木美術館から。

 月の表現では佐竹本の歌仙、
 芦雪の月夜山水図がのびのびと。
 「日月屏図風」田中訥言
 この屏風には丁度月の表現を表した場所にあってその月の変わり様を
 屏風に写して見えたのは面白い映り込みでした。
 月の読み方のなんと豊かなこと。
 その展示に使われた秋草柄は武蔵野図屏風からだと気づきましたが、
 あとでその本物と遭遇できたのは嬉しい限りでした。
 
 階下に移動すると「花鳥風月」から「もののあはれ」を読み取ります。
 階段を下りると鳥の声がホールに響き、どこかの森に迷いこんだようです。
 鳥の声もなんにもわかっちゃいないことに愕然とします。
 展示は仁阿弥道八のあでやかな透かしの入った鉢。
 花鳥文が得意なのは鍋島のお皿。
 華やぎます。
 乾山の「春草文注」のいじらしいことといったら。
 光悦・宗達の絢爛な和歌色紙。
 能装束の織物の立ちくらみがするような作り込み。
 一体どうやったらあのような重厚な織物が出来るのでしょう。
 縫箔という目のくらむ細かな仕事っぷり。
 
 そして、調度品からも叙情と共に暮らす豊が時間を感じ取ります。
 高台寺からは秋草蒔絵歌書箪笥。
 手のひらサイズの小さな箱も。
 先月の雑誌『目の眼」で茂木健一郎さんが日本刀の鍔を鑑賞して
 そのなかで奇しくも小林秀雄が所蔵していた鍔、金家のものが
 熱く語られていました。
 それで、金家の鍔、が私の頭にも印象に残っていたのですが、
 その金家の鍔がひょいと現れたのでびっくりしました。
 鍛錬された超技巧金工の鍔を京都の清水三年坂美術館でみてきたばかりなので、
 その金家のぼうっとまるい、のどかなという表現の似合う鍔が目の前に現れました。

 光琳の「秋草図屏風」が工芸品としっくり共鳴して現れます。
 菊の花は胡粉でしょうか、白く花びら一枚ずつ丁寧に盛り上げられ
 全体のアクセントとなって、立体感を出しています。
 光琳はやはり工芸家としての力量が抜けていると感じます。
 都会的な洒脱さがあります。
 そして、ご贔屓の「武蔵野図屏風」の登場です。
 文句なく、繊細で陶酔感あふれる歌のような屏風です。
 都の人はただただ広野に月が落ちるという武蔵野を憧れた、
 と聞いたことがありました。
 その野原に茫々とススキが風になびくような
 乾山の蓋物。
 その内側には茶籠にバティック布を貼ったような
 驚きの工夫が見られます。

 時代は下り、近世、近現代へと移ります。
 是真の「五節句蒔絵手箱」
 是真の作は何を見てもかっこいいなぁ~とみとれます。
 広重の「名所江戸百景」から亀戸梅屋舗
 北野恒富の美人画「星」
 背景に一番星が煌めいているようですが、その美人さんがぼうっと光っていて
 星はあなた、なのだとウットリします。
 ラストには鏑木清方のはんなりした気配。

 この「もののあはれ」を体験できるのは日本人冥利というものでしょう。
 たとえ経験値が低くてもDNAの成せる技で
 時に追われ、急かされ、ガチガチした心を緩く解きほぐしてくれるのです。

 会期は6月16日まで。

 今回、会員更新をしましたが、年間費が五千円と値下げされ、
 イヤホンガイドのザービスはなくなりましたが、
 月に500円足らずのうえ、何度も入場でき、
 同伴一人も可能、内覧にも参加できます。
 こんな恵まれた年会員はありえません。
 これからまた一年、たっぷり楽しませて頂きます。
 充実のサイトはこちらから 

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