阿部ブログ

日々思うこと

磁性ソフトマテリアルを3Dプリンタで創る

2018年11月01日 | 雑感
ソフトマテリアルは,文字通り柔らかい材料のことで、身の回りにも液晶デイスプレイ、ペットボトル、コンタクトレンズ、チーズ、コンニャク、石鹸膜など多岐にわたり、我々の生活の利便性を高めるのに役立っている。これらのソフトマテリアルは、分子が紐状に繋がった高分子、ゴム、ゲル、コロイド、液晶、タンパク質、糖質、DNAなどの総称であり、金属やセラミックスなどハードマテリアルとは大きく異なる性質を示すが、このソフトマテリアルの中でも光、熱、溶媒、電場、磁場などの刺激に反応して、三次元形状を変える材料に注目が集まっている。
最新の研究では、磁場を制御することによってスピーディーに三次元形状を変える取組が行なわれており、磁気応答性の良いソフトマテリアルとして、軟質コンパウンドへの磁性粒子組み込み材料や、ポリマーシートでの不均一磁化プロファイルなどが対象とされているが、課題は、三次元形状の変形速度が数時間から数日かかる点にある。これをクリアできるとロボティクス、エレクトロニクス、生物医学などの広範囲な分野で利用が期待出来る。
英国・科学雑誌Nature(558,7709 2018年6月14日)の「Printing ferromagnetic domains for untethered fast-transforming soft materials」によれば、ソフトマテリアルのプログラムされた強磁性ドメインを3Dプリンタで造形し、磁気駆動による複雑な三次元形状の高速変形を可能にした報告されている。論文によれば、強磁性微粒子含有のエラストマー複合材料(シリコーンゴムマトリックス内にネオジム=鉄=ホウ素強磁性微粒子を埋め込んだもの)を3Dプリンタの素材として利用し、積層造形中に磁場を加えることにより、材料粒子を加えた磁場方向に向かせてパターン形成すると言う手法を用いている。これにより、三次元積層された複雑な形状のソフトマテリアルをこれまで不可能であった一連の高速な変形操作が可能となった。今回の成果を基にして、今後は、形状記憶のソフトエレクトロニクス、跳躍できる機械的なマテリアル、医薬品を輸送するソフトロボットなどへの適用を行うとしている。
20世紀は、ハードマテリアルの時代で、21世紀は、ソフトマテリアルの時代と言われており、最終的には、人間脳を模倣した脳型コンピュータとソフトマテリアルによる生体システムの融合が究極と言われており、バイオプリンタなどの適用も十分に期待される。

○主要参考文献(含むURL):
Printing ferromagnetic domains for untethered fast-transforming soft materials
Nature volume 558,pages274–279 (2018)
https://www.nature.com/articles/s41586-018-0185-0

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