阿部ブログ

日々思うこと

旧ユーゴスラビアと周辺国がきな臭い〜コソボが治安軍を正規軍化し、セルビアは軍事介入を示唆

2018年12月16日 | 雑感
EUは2018年3月23日、コソボが治安軍を正規軍化する政策を推進しており、セルビアとの軍事的緊張が高まっていることから、セルビアとコソボとの3者会談をブリュッセルで行った。この会議後となる3月26日、セルビアの在コソボ出先機関であるコソボ・メトヒア事務所(コソボスカ・ミトロビッツァ市)で、セルビア人事務所長がセルビア住民に対し会議の内容を報告していた所、コソボ治安軍部隊が突入し、所長を拘束した。コソボの支配地域にはセルビア地区があり、2013年に合意されていたブリュッセル合意に反してセルビア人地区にコソボ治安軍は侵入したことになる。セルビアとコソボは両国ともEU加盟を目指しているが、コソボ紛争の怨念やまない状況にEUは手の打ちようがない。

そのような状況の中、2018年12月14日、コソボ議会はコソボ治安軍を正規軍(陸軍)とする3法案を出席議員107名全員の賛成を持って可決した。コソボ治安軍は、2008年のセルビアからの独立に際して創設された準軍隊で、警察が対応しない防衛行動、暴動鎮圧、地雷除去などの事案に対処する部隊である。現在は2,500名の規模だが法案の可決により、今後倍の5,000名に増員する。コソボの独立を認めていないセルビアは、あくまでコソボは南部州の一つとの立場を堅持しており、コソボ治安部隊の正規軍化法案の可決を受け、セルビアのAna Brnabic首相は「正規軍設置を阻止するための軍事介入も検討する」と発言している。
 
現在、セルビアは、コソボなど周辺諸国の動向に対応する為、鋭意、軍備の充実を図っており、8月21日にはコソボの独立を認めないロシアから中古のMiG-29×2機を受領。最終的に6基の供与を受けBelgrade近郊の飛行場に配備する。受領式にはAleksandar Vucic大統領も出席した。また、11月には、Aleksandar Vulin国防相を迎えて、H145Mの初号機領収式典がAirbus HelicoptersのDonauworth工場で行われた。セルビアはH145Mを9機配備する予定で、12月中に2機を受領する。装備は、電子戦システム、降下用ロープ、カメラなど。セルビアはAirbus Helicoptersからの技術移転も受ける契約である。これに対し、米国、英国、ドイツはコソボ軍創設に賛意を表明。また、米国は、正規軍化には時間が掛るとの認識を示しつつも、コソボにHMMWV(High Mobility Multi-Purpose Wheeled Vehicle)×24両を12月14日に供与。
 
NATOの立場は微妙である。コソボ紛争後、コソボの安全保障は、国連安保理決議1244に基づき北大西洋条約機構(NATO)主体のコソボ国際安全保障部隊(Kosovo Force:KFOR)が担っているが、NATOのJens Stoltenberg事務総長は、NATO国防相会議後、コソボの動きについて、「タイミングが悪い」、「コソボ治安軍への支援は慎重ならざる負えない」と懸念を表明。仮にNATO-KFORがコソボでの治安維持活動を限定的、若しくは停止すると、セルビアのコソボへの軍事介入の危険度は一挙に高まることとなる。
 
セルビアやコソボ以外でも、旧ユーゴスラヴィア周辺国では様々な動きがある。前述のNATO国防相会議では、ボスニア-ヘルツェゴビナに対するNATOの助言・支援プログラムが決定した。ブルガリアは、武器輸出に余念がなく、2017年には、14億ドルの武器輸出で過去最高記録を達成している。対前年比20%増である。また、ブルガリアは、MiG-29×8機とSu-25をオーバーホールし、対領空侵犯への対処能力を高める措置を実施する。クロアチアは、イスラエルから中古F-16の購入を決めたが、米国防総省が、F16の取引を阻止した。この地域の戦力バランスを勘案した措置と言われている。Mike Pompeo米国務長官は、イスラエルのBenjamin Netanyahu首相と電話会談し、Jim Mattis国防長官が反対していると伝えている。
この地域は、コソボ紛争後10年を経て、また不安定化の道を歩みつつあるように観える。コソボ、セルビアの動向を含めて注視が必要である。

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