米国や日本、中国などで量子ICT技術の開発競争が激化している。この背景には、2011年に加D-Wave社が世界初の量子コンピュータの商用化したことにある。量子ICT技術とは、量子力学の原理を応用し、現在のコンピュータが不得意とする計算を短時間で処理したり、盗聴不可能な通信方式を実現するなど、量子の特性を活かした技術の総称である。D-Wave社の量子コンピュータは、NASAやLockheed Martinが購入し、軍事システムのソフトウェア異常の予測検知や次世代の航空機開発などに利用されている。またGoogleは、量子AI研究所を立ち上げ量子コンピュータを駆使した人工知能の研究を行っており、IBMも 「IBM Q」と言うプロジェクトを立ち上げD-Wave社の量子コンピュータを凌駕する技術の開発に着手している。
EUは、デジタルエコノミー政策の一環として量子ICT技術分野に約10億ユーロを投じる計画で、光速を超える情報伝達が可能な量子テレポーテーションの研究で有名なオランダのデルフト工科大学などが中心となって研究を進めている。特に注目すべきは、中国の取組みで、巨大ネット企業のアリババが、中国科学院と共同で量子コンピュータ開発を行う研究所を設立し官民連携した研究開発を実施している。また、中国は、世界最初の量子暗号通信の実証衛星を昨年8月に打ち上げ、北京=上海間に量子通信ネットワークを構築中である。量子ICT技術は暗号解読など軍事分野と密接に係ることから研究内容は詳らかでないが、中国は米国同様に国家の威信を賭け量子ICT技術の開発に邁進している。日本も理化学研究所、情報通信研究機構などで研究開発を進めている。前述のD-Wave社の量子コンピュータは、東京工業大学の西脇教授の量子計算理論に基づいており、日本の量子ICT技術の研究レベルは欧米と同等程度で高いレベルにある。また中国に先駆けて日立製作所、東芝、NECが開発した量子暗号通信システムを防衛省が実証実験しており、既に商用利用が可能な状況にある。
量子ICT技術、特に量子コンピュータは、現時点で利用できるアルゴリズムは、最適化計算や組合せ計算など限定的だが、現在のコンピュータのように汎用性の高い量子コンピュータが開発されると、新薬開発や交通や物流などの最適化計算以外の用途が増え、産業用途が格段に拡大するだろう。量子ICT技術は、計算や暗号通信だけではく、量子センシング技術、量子記憶技術、量子イメージング技術などがあり、これら量子技術が社会実装されるとビジネス環境を大きく変える可能性が高い。この為、欧米や中国の量子ICT技術の開発動向には今後も注視する必要がある。