阿部ブログ

日々思うこと

三井物産地球環境基金10周年記念! 研究助成表彰と記念講演会に出席~素晴らしい、感動した。

2015年10月15日 | 雑感
今日は、三井物産の地球環境基金10周年記念の講演会に出席。基調講演は、横浜大学の藤江先生の『物質フロー解析に基づく環境研究の展開』。
その後、5人の研究者に対し研究助成成果の表彰が行われた。5人の先生方の研究成果はどれも本当に素晴らしいものだった。アカデミックな内容ながら、久し振りに感動した。

最初は、国立環境研究所の南齋規介先生の『国際サプライチェーンを含む生産消費システムを対象とした環境負荷分析の理論と実践』。研究成果は、最終的に「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)のAR5報告書に引用されるまでになっている。ご本人も「これは自分にとっては凄い事なんです~」と述べられていた。因みにIPCCの気候変動は地球温暖化ではなく、本当は寒冷化だ。地球の軌道が徐々に太陽から離れる周期に来ている。つまり間氷期の終わりだ。寒冷期は約10万年続く。

次は、福島学院大学短期大学部・杉浦広幸先生の『教育・福祉等施設および一般家庭の菜園・庭園での放射性物質対策による園芸活動再開の研究』。この研究は現地での実践的研究で、実に意義ある内容になっている。例えば、もみの木は、殆ど葉が落葉しないので放射能汚染が深刻、また赤松の松ぼっくりも危険。また山菜も汚染が酷いなど。更にはチェルノブイリの経験から2年間は、砂ぼこりに注意との事。除染のノウハウの幾つかをご披露頂いたが、庭石はひっくり返してしまえば大丈夫。公園のベンチは上部の汚染に注意。座る部分はお尻に放射性物質を付けてしまう為に、汚染は軽微。水での除染は有効で、土に浸み込ませるようにして土を回収する事で、汚染の拡大を防ぐなど。芝生は、取り合えずひっくり返して丸めて回収すればOKなどだ。

三人目は、名古屋大学(申請当時は、中部大学・生命健康科学部)の加藤昌志先生の『複数の重金属に汚染した飲用水に対する発癌毒性の評価と浄化』。この加藤先生の研究と「当時駆け出しの研究者であった私にとって三井物産環境基金は非常に重要であり、今の研究成果を得る大きなきっかけとなりました」と述べられ、同郷の渡辺昇一を想起させる実直そうな先生の風貌と言葉に、何故か目頭が熱くなった。
加藤先生の研究は、バングラディシュなどの飲料水に含まれるヒ素問題。ヒ素を含む飲料水による中毒は、深刻な身体障害と癌を発症させる。世界では2億人がヒ素中毒の影響を受けているという。特にバングラディシュは深刻で、数千万人が健康へのリスクに曝されているという。加藤先生の研究により、ヒ素だけでなく、鉄とバリウムも癌を発症する際の重要な因子であることを突き止め、ヒ素と鉄&バリウムを浄化する安価な浄化剤を開発した。これはウラン、セシウム、ストロンチウムにも有効との事で汎用性があるモノに仕上がっている。それとヒ素中毒には以外にも「ハイチオールC」が有効である事を発見! しかし、バングラディシュの薬事法では使用出来ないと言う事で、今当該政府と交渉中との事だ。
何れにせよ、加藤先生の研究は、今年のノーベル医学・生理学賞の受賞者に選ばれた北里大学特別栄誉教授の大村智先生の功績に匹敵すると考えているが、如何だろうか。

四人目は、農業・食品産業技術総合研究機構・中央農業総合研究センター(申請当時は、東京農業大学)の門間敏幸先生の『津波・放射線被害地域の営農システムの革新と担い手組織の想像に関する研究』。門間先生の研究も杉浦先生と同様に実践的かつ現場主義に徹底した優れた研究。3.11で被災地は、地震、津波、放射能、風評、信頼損失、担い手損失と言う六重苦に陥っている。地震・津波からの復興は(土壌改良などの取り組みで)新農業をめざすこと、放射能については5年で全ての農産物での ND(不検出)を目指すこと、風評・信頼喪失については汚染された農産物を福島から絶対に出さないようにする取り組みが重要。被災した農家の再興を目的として相馬市は、無償でトラクターなどの農機を無償提供する事としたが、門間先生の助言で、農業法人に対して提供する条件を付け、実際に3つの農業法人が立ち上がり、農業の再生に弾みがつくととなった。

最後の五人目は、熊本県立大学の堤裕昭先生の『豊穣の沿岸閉鎖性海域で発生する環境異変の原因究明と沿岸生態系回復策の提示』。堤先生は、将に有明海の幸で育った方で、子供の頃の豊穣の海である有明海を知っている。「自分は有明海の幸で育ちました」との言葉に嘘はない。世界的に閉鎖性海域では赤潮の発生など環境異変が同時多発しているとの事だが、堤先生の研究により、有明海の赤潮を始めとする甚大な環境異変の原因は、諫早湾の開拓事業で、1997年に諌早湾は潮受け堤防で完全に閉め切られ、有明海の環境は激変し周辺住民の経済基盤を破壊する事となった。全く馬鹿らしい事業で、堤先生はその根本原因を学術的に証明した。潮受け堤防の開門と最終的な破壊&無効化に向けて、知とペンの力での健闘を期待したい。

五人の先生方の研究は素晴らしく、今後の成果拡大と更なる研究深化に期待したい。